トシの読書日記

読書備忘録

苛酷な旅路の果て

2017-12-19 17:57:06 | ら行の作家


今週は2冊読みました。



ジャック・ロンドン著 柴田元幸訳「火を熾(おこ)す」読了



本書は平成20年にスイッチ・パブリッシングより刊行されたものです。9編の短編が収録された作品集です。


以前、何かで本書のことを知り、ネットで調べてみたら3000円以上の値がついていて、しかもこの作家は動物を扱った作品が多いというのを聞き、自分は動物、子供、難病の話が苦手(というか、はっきり言って嫌い)なので、自分には関係のない作家と思っていたところ、たまたま立ち寄った書店で本書を見つけ、中味を少し立ち読みしてみたら、自分の思っていたイメージとは違っていて、値段も2100円(+税)と手頃なこともあって買ってみたのでした。


いや、買ってみてよかったです。面白い。実に面白い。この作家は1876年に生まれ、1916年に亡くなった(なんと享年41才)といいますから日本の元号で言うと明治時代の作家ということになります。


ある程度、時代を感じさせるものもあるんですが、なんというか、文章の表現が、どんと胸を突かれるような、そんな直球な感じを受けます。


表題作の「火を熾す」、これでまず心臓をわしづかみにされました。この短編、すごいです。他にも「一枚のステーキ」「メキシコ人」「戦争」「生への執着」等、一貫して回りくどい装飾がなく、テーマがはっきりしていて、これでどうだと言わんばかりの迫力でこちらに迫ってきます。


柴田元幸の訳も相変わらずいい。   いい作家に出会うことができました。




姉から以下の本を借りる

伊藤比呂美「読み解き『般若心経』」朝日文庫
辰巳浜子「料理歳時記」中公文庫
読売新聞社編「茶人物語」中公文庫
大塚ひかり「愛とまぐはひの古事記」ちくま文庫
齋藤明「志ん朝の風流入門―古今亭志ん朝」ちくま文庫
ソポクレス著 福田恆存訳「オイディプス王 アンティゴネ」新潮文庫
熊倉功夫校注「山上宗二記―付 茶話指月集」岩波文庫
ネヴィル・シュート著 佐藤瀧雄訳「渚にて―人類最後の日」創元SF文庫
夢枕獏編・著「鬼譚」ちくま文庫
織田作之助「六白金星・可能性の文学」岩波文庫
中野京子「怖い絵」角川文庫
村上春樹「図書館奇譚」新潮社
川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」講談社文庫
トルーマン・カポーティ著 安西水丸訳「真夏の航海」講談社文庫
渡辺利夫「放哉と山頭火―死を生きる」ちくま文庫
内田百閒「私の『漱石』と『龍之介』」ちくま文庫


いや、たくさん貸してくれたものです。以前は借りたものは全部読むつもりでいたんですが、もはや追いつきません。自分で読みたくて買った本もまだ何冊もあるし、まぁ興味がわいたものだけ選んで読むことにしましょうか。


失わていくものへの哀惜

2017-12-19 16:38:20 | ら行の作家



フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「黄色い雨」読了



本書は今年2月に河出文庫より発刊されたものです。姉から「面白い人見つけた」と言って貸してくれたものです。



何の予備知識もなく読み始めたのですが、なかなかよかったです。この全編に流れる荒涼感、すごいですね。しかし、この陰々滅々とした空気は好みが分かれるかもしれません。シチュエーションは全く違うんですが、ポール・セローの「極北」にも似た世界を感じました。


スペインの山奥の寒村で、一家族、また一家族と彼らは村から出ていく。最後に「私」と妻のサビーナ、そして雌犬一匹だけが残される。しかしサビーナは淋しさに耐え切れず、自ら命を絶ってしまう。犬一匹と「私」はそこで何をすることもなく何年も暮らすわけですが、自分に死の影が近づいていることを知り、犬を猟銃で撃ち殺し、自らもベッドに横になってじっと死の訪れを待つ。


こんなあらすじなんですが、昔はやった「やおい」というのを思い出しました。この作品もヤマはないし、オチもない。がしかし、意味はあると思います。雨のように降りしきるポプラの枯葉。これがタイトルに象徴されているわけですが、この枯葉が死のメタファーになっているわけで、このシーンは度々登場します。しかし、そのもろく、壊れやすい枯葉=命というものを著者は、かけがえのないものとして慈しみ、作中でそれを慈愛に満ちた眼差しで捉えていると思います。


読むほどにこころにじんわり響く小説でした。