昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(76)読書ミーティング

2013-11-10 05:27:21 | 三鷹通信
 現役編集者が主宰する読書ミーティングが1年ぶりに再開した。ただし、今までの参加者から提案された本をまな板にのせて調理するのではなく、今回は編集者が用意した素材を調理するのを拝見するスタイルで、と変わった。?
 ・・・専門家といえども15人もの参加者から提案された本(新しいのも古いのも)をすべて用意し、読み砕く前作業は並大抵ではないと敬服していたが、大変だったんだろうな・・・

 今回のテーマは<半沢直樹>、<村上春樹>、<医者に殺されない47の心得>、<太宰治>、<風立ちぬ>などをキーワードに「こういう時代の読書」について語り、「あなたが、(あなたのために書かれた)本に出会うためのものです」という。

 そんな本をどこで探すか、? まずベストセラーとロングセラーから。
 <今年上半期のベストセラー>
 1.色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)
 2.聞く力、心をひらく35のヒント(阿川佐和子)
 3.医者に殺されない47の心得(近藤 誠)
 <ロングセラー>
 1.こころ(夏目漱石)
 2.人間失格(太宰治)
 3、老人と海(ヘミングウエイ)・・・新潮文庫による・・・

 <半沢直樹>、
 
 池井戸潤による小説は読んでなくても、「倍返しだ!」で有名になったテレビは参加者のほとんどが見ていたが、ぼくは読んでも見てもいない。
 テレビは水戸黄門の42.2%を抜いて、1977年以降の民放のテレビドラマ史上第一位の視聴率、つれて原作本も累計250万部に。
 昔ぼくが読んだ横田濱夫のはみだし銀行マンのような銀行暴露ものかと思っていたが、時代劇的勧善懲悪ドラマのようだ。

 <風立ちぬ>
 宮崎駿のスタジオジブリ映画だが、従来のものとがらっと趣が変わるもののようなのでぼくは見ていない。
 しかし、興行成績は100億円を超えたという。
 それに伴って、堀辰夫の作品も読まれているそうだ。ぼくは昔読んでいる。

 <太宰治>、
 三鷹で執筆したという<人間失格>は大ロングセラーだが、三鷹在住のぼくは読もうと思いながら未だ手に取っていない。<夏目漱石のこころ>は何度も読んでいるが。

 <村上春樹>ぼくは<象の消滅>という短編に感銘を受けた。こんなあり得ない話をいかにもという語り口で表現する才に引き込まれ、その後評判になった<ノルウエーの森>を読み、堀辰夫の<風立ちぬ>に通じる文章の美しさを感じた。
 本講座の講師によれば、
 ①ヒロインがセックスアピールを前面に出さずに美しい。
 ②不幸(病気)がヒロインを襲う。
 ③美しい風景と季節が恋愛とわかちがたく結びつく。
 アメリカの作家リチャード・パワーズに言わせれば「村上春樹の物語はありとあらゆる種類の愛によって支配されています。ロマンチックな愛、家族の愛、仲間同士の愛、セクシャルな愛、古風な愛、孤独な愛、自分勝手な愛・・・」

 
「私たちは、国籍、人種を超越した人間であり、個々の存在なのです。<システム>と言われる堅固な壁に直面している壊れやすい卵なのです」
 エルサレム賞の時の村上春樹の名スピーチ。
 彼はデビュー作<風の歌を聴け>のころのデタッチメントから、アタッチメントの作風に変化している。
 世界に通じる作者としてノーべル文学賞の対象になっているのも当然かなと思う。
「最近作<色彩をもたない・・・>に自分のことと重ねあうところがあって感銘した。彼の作品の中でも最高だと思う」と、参加者の女性の方から感想があった。
 ぼくも読んでみようと思う。

<医者に・・・>作者、近藤誠は昨年第60回菊池寛賞を受賞。医学書では珍しい。
 彼のことは以前より関心を持っていた。
 医学の最先端を行っているはずの大学病院で治療を受けたにも関わらず不運な結果になった、という体験を持つだけに医学について不信感を持っていたから。
 (そのことについて、今、小説<運が悪いことから全てが始まった>というかたちでブログに掲載中)
 友人に著名な医者がいて、本音で話し合うことがあるが、医者という権威の中に隠された部分を近藤氏が赤裸々に表に出したということだ。
 
 所定の2時間半はあっという間に過ぎ去っていった。
 先生、ちょっと盛り込み過ぎですよ!
 

  

運が悪いことから全てが始まった(38)大学時代(21)

2013-11-09 04:43:27 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 日吉の教養課程での学生生活は、下宿仲間の藤原たちに引っ張られて成り立っていたが、引っ込み思案なボクは三田の専門課程に移ってからは友人もなかなかできなかった。
 ただ、同級のSくんのことは忘れられない。
 彼は耳に入ってくる音をたちまち楽譜に写し取ってしまう。
 とんでもない才能の持ち主がいるもんだと衝撃だった。
 彼は在学中から、<ジョージ川口とビッグ4+1>にプロとして活動を開始していたのだ。 経済学部卒業後、ジャズピアニストになり、<コルゲン・バンド>として活動するほどの有名人になった。
 
 しかし、才能のないボクがこうして75歳を超えるまで生きているのに、彼は60歳の働き盛りで早逝してしまった。

 凡人のボクは同宿のM大学の学生とわずかながら交流があった。
 ダサいボクと異なり彼は洒落た服を着ていていつもにこにこしていた。
 ある日、貧相なボクを気づかって彼は牛肉を持参してきた。
 焼き豆腐や糸こんにゃく、ネギなどすき焼き用の一式取りそろえて。
「ほい、ほい、どういう風の吹き回しだい?」
 ボクは電熱器、調味料など用意したが、すき焼き用の鍋がない。
 フライパンも持っていなかった。

 アルマイトの洗面器が目にはいった。
「なにこれ! いつも粉石けんをぶっかけた洗濯物を漬けてあったやつじゃない! 汚いじゃない!」
 彼は目をむいた。
「そんなことないさ。いつも石鹸で磨いているんだから・・・」
 しかし、衛生面はともかく、調理用には役立たなかった。
 洗面器ばかりが熱くなって、その割には中身に火が通らなかった。

 しかし、家庭教師の職を得てからのボクの生活は劇的に変化した。
 金回りがよくなって、そろそろ物になりかけていた(といっても、ハーフ50台で回れるようになった程度)ゴルフの練習にも熱が入った。
 渡辺社長から誘われて、名門大利根カントリークラブでも何度かプレーした。
 
 また、教えていた息子がパレス乗馬倶楽部に入っていたことから、昭和天皇・皇后両陛下がご臨席になる15周年記念大会なるものを観覧する幸運もあった。
 
 
 

 ─続く─

運が悪いことから全てが始まった(37)大学時代(20)

2013-11-08 04:00:15 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「何もありませんけど、お食事をして行って下さいな」
 社長の丸っこい柔和な体形と異なり、痩せぎすな夫人の口調には、ていねいな言い方のなかにも・・・当然受けて頂けるわね・・・という断定的な強い気持ちが込められていた。
 渡辺商会の創業当時、ご主人といっしょに働いていたという。
 その頃のなごりだろう、目にはボクのオフクロとは違う力のある光が宿っていた。
 

 ダイニングキッチンは飾り気のないシンプルだが、清潔で、少ない家族構成にしては大きなテーブルがまん中にどーんと位置していた。
 
 温かないい匂いがただよっている。
 お手伝いさんだろうか、ほっぺの赤い若い女性が後ろ姿を見せて夫人の指揮の下、かいがいしく調理をしている。
 何もありませんがと夫人は言っていたが、次から次へとご馳走が繰り出されてくる。
 
「いいえ、ありあわせでたいしたものはないんですよ」
 夫人は特に笑顔を見せるでもなく淡々と言った。
 しかし、常時腹を空かせているボクにとってはたいへんなご馳走だった。
 ・・・週に二日、こんな御馳走に与れるんだ・・・
 あのこましゃくれた息子に対する不快な気持ちはすっ飛んでいた。

 月謝は月末に渡されるものだと思っていたが、この日の帰りがけに渡された。
 
 帰宅して袋を開けてみると、今までの貧乏くさい気持ちが一気に吹っ飛ぶほどの額だった。
 うれしさのあまり、隣りの部屋の大学生にしゃべってしまった。
「うっそ! 間違いじゃないの?」
 彼は目をむいたが、毎月同じ額が入っていた。

 ─続く─

 猛烈に歯が痛い!
 
 一昨日の夜から痛みだした。寝れそうもないので、薬箱を探ったら前に使わなかった痛み止めの薬が3錠あった。1錠を服用してやっと寝れた。翌日は麻雀が予定されている。絶対その前に歯医者へと思ったが、あいにくの定休日だ。
 まだ痛み止めの効果が効いているようだ。
 前半は好調に推移する。途中痛くなったので痛み止めを飲む。
 歯痛は治まってきたが、何かぼーっとしてきて麻雀は落ち込み、前半の稼ぎが帳消しになる。
 恒例の寿司もセットではなく単品にし、酒も控える。
 寝る前、また痛くなってきたので最後の1錠を服用。
 朝3時に目覚めてブログを何とか書き終えた。
 また、痛くなってきた。
 
 

運が悪いことから全てが始まった(36)大学時代(19)

2013-11-07 02:44:55 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「渡辺商会の社長の息子さんの家庭教師をやってくれないかと言ってきたんだが・・・」
 そんなある日、オヤジから電話があった。
 ・・・渡辺商会?・・・
 取り次いでくれた大家さんの不機嫌な顔を気にしながら思い起こしていた。
 ・・・オヤジの会社の取引先だ。新米なんかくれた・・・
 
 オヤジの会社は繊維機械の製造会社だが、工作機械用の附属機器なんかも作っている。
 その販売代理店だ。
 そこを訪問する度に、オヤジは何かもらってくるので記憶に残っていた。

 汲々とした生活をしていたから、ボクにとってまさに渡りに舟の話だった。
 
 人を教えることなど初めてだったが、中学三年生だという。
 中学生ならと多寡をくくって出かけた。
 
 相手は真っ白な開襟シャツに、高そうな麻のカーディガンを羽織っていた。
 利発な目をしている。
 先生の良しあしを値踏みするようにジロジロと見つめられ、ボクはいささかどぎまぎしていたようだ。
「先生! その説明はウチの中学の先生から教わったことと矛盾しています」
 
 人の足元を見たように突っ込んでくる。

 ・・・いやなヤツだ。こんなのとこれからずーっと付き合わなければならないのか・・・
 第一日目は、意気込んでいたモチベーションが落ち込んだまま終了した。
「あら、お帰りですか? 何もありませんがお食事をしていって下さいな」
 
 社長夫人が現れて言った。
 ・・・ウチの母親がいつも使う単なるお愛想にすぎないかもしれない・・・
 オヤジが連れてくる客の接待に対する不満をしょっちゅうオフクロから聞かされていたので、ボクには辞する気持ちが働いた。
 
 ─続く─ 
 
 <The New Korea> 
 イギリスの植民地研究の第一人者が日韓併合時代の朝鮮を、「朝鮮が劇的に豊かになった時代」として実証的に著している。
 当時の李王朝時代の悲惨な生活が劇的に改善されたという点で、他の植民地とは違っていたというのだ。
 あちこちで<日本の歴史認識を問う>として恨み節を振りまいている<恨み姫>朴大統領に自国の歴史を振り返って欲しい。


 
 


運が悪いことから全てが始まった(35)大学時代(18)

2013-11-06 02:55:10 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 3年生になると、日吉の教養課程から三田の専門課程に、つまりボクの場合経済学部だが、移る。
 当然下宿も都内に変わることになった。
 仲間もそれぞれの新しい住まいを求めて移転して行った。
 今までは今まで、これからはこれからというように、これまで培った絆はなんだったんだろうと思うくらい、みんなは元住吉の奥さんのアパートを渡り鳥みたいにあっさりと巣立っていった。
 
 お互いの新しい住所を交換することもなく・・・。

 ずっと後になって知ったことだが、ボクらが2年間過ごした奥さんのアパートは、大手企業の寮として貸し出されたそうだ。
 ・・・学生のためのアパートは我々でこりごりしたんじゃないの? 夜遅くまでがさごそとうるさいし、昼は昼で楽器の騒音を撒き散らすし、食事や洗濯もたいへんだったろうし・・・
 奥さんはそんなそぶりを微塵も見せなかったが、本心は閉口していたんだ。
 しかし、ボクらにとってはかけがえのない体験をさせてもらった。

 戦後の苦境から人々の生活も改善され、猫も杓子も大学に行く時代になっていたから、それらの需要に応えるアパートは都内に次々と新設されていた。
 しかし、元住吉のアパートみたいに朝夕賄い付き、風呂もあるし、洗濯までやってくれるアパートなんか望むべくもなかった。
 ボクが見つけた目黒、元競馬場のアパートは老夫婦が自宅の庭に建てたもので、二階建て、下と上に二軒ずつのマッチ箱みたいな木造だ。
 
 もしろん、賄いなんか付いていなくて、家主とは家賃を支払う時しか顔を合わさない、冷めた間柄だった。
 二階のボクの部屋は四畳間の一角が押し入れになっている三畳半というおかしな部屋だ。
 隣にはすでに別な大学の人の良さそうな学生が入っていた。
 彼から聞いた話では、下には新婚夫婦が住んでいて、夜な夜なそのうめき声に悩まされるぜ、なんて言われた。

 オヤジは戦地から引き揚げてきて運よく、地方では一流の企業に就職できたが裕福ではなかった。
 それでも足に障害を持つボクを何としてもいい大学へと、ムリして東京へ送り出してくれた。
 しかし、目黒の下宿は高いし、少ない仕送りの中で食事もやりくりしなければならなかった。
 朝食抜きで、昼は学食で安いカレーライス、夜は当時売り出されたチキンラーメンをお湯で戻して、ご飯と食べるなんて生活をしていた。
 
 時々、元住吉の奥さんの過剰サービスを懐かしく思い起していた。

 ─続く─
 
 
 

運が悪いことから全てが始まった(34)大学時代(17)

2013-11-05 04:17:29 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 足が不自由てもゴルフが出来る!
 これはボクにとって中学で、学校代表として<高峰賞>候補に選ばれた時以来の衝撃的な出来事だった。
「初めてでハーフ63なんて立派なもんだよ!」
 
 朝霞パブリックゴルフでプレイして藤原からおだてられて、それからはひとりで練習場に出かけるほど入れ込んだ。
 
 大学時代の思い出は下宿にまつわることことばかりだ。
 学校で何を学んだんだろう?
 木月の下宿から学校まで、学校の裏の林の中に近道を見つけて通ったことは覚えている。
 二幸食堂や、グリーン食堂で安いカレーなどを食べたことは覚えている。
 
 サミュエルソンの英語の教科書<ECONOMICS>を買ったことは覚えているが、内容については覚えていない。
 
「キミ、そんな偏った姿勢でいたら、後ろに見えるじゃないか!」
 ドイツ語の試験で怖い先生から叱られたことは覚えている。
 後ろの席の友だちから見せろ!と言われたのだ。
「ノート見せてくれないか?」
 当時、大学野球のスターO選手から言われたこともある。
 見かけは真面目な勉学生だったのかもしれない。
 
 しかし授業で何を学んだのか覚えていない。
 覚えているのは下宿で覚えたことだ。
 <麻雀>と<ゴルフ>、社会に出てからこれが役に立つことになるなんて、当時は思いもしなかった。
 好きだから仲間に引きずられて嵌っていただけだったが・・・。
 主体的に行動するタイプではなかったので、奥さんのこともその後妄想していたような進展はまったくなかった。

 ─続く─

 NHKテレビの<きわめびと>に出て来た嘉納愛子さんに目が留まる。
  
 御年106歳!
 山田耕筰に師事した彼女は今でも声楽指導をしている。
「からたちの花が咲いたよ 白い白い花が 咲いたよ」
 生徒の歌に檄を飛ばす。
「どこも同じように歌っていてはダメ! <からたちの花が咲いたよ>は叙事だから説明するように、<白い白い花が>は叙情だから歌い上げなければ!」
「<白い、白い>が<しろい、しろえ>になってますよ! 言葉は大切に!」

「男と同じように勝負してはダメ! お化粧をしっかりして、女として勝負しなければ!」
「神様にお願いしてはダメ! お礼をして感謝しなければ!」
 毎日、屈伸体操や、膝をたたく運動をかかさない。
「血行がよくなるんです」
「来年は7歳になります」
 今なお、かくしゃくとして目が輝いている。
  

  

エッセイ(185)人生はまさにドラマだ!

2013-11-04 04:48:43 | エッセイ
 NHKの朝ドラ。朝ドラらしからぬはちゃめちゃな<あまちゃん>がじぇじぇじぇの全国的大人気となり、それを継ぐ<ごちそうさん>はたいへんだろうなと懸念していた。
 
 ましてやヒロインは杏さん演じる<め以子>という大食いののっぽだ。
 
 しかし、さらにのっぽの悠太郎くんに出会って、ドラマは快調に展開していく。
 視聴率も<あまちゃん>を上回るい勢いだ。
 表面上お互い関心のないふうな間柄ながら、悠太郎のお弁当作りに励むめ以子。
 
 微妙にお互いを感じ合う。
 ついに、め以子のお見合いの席で、彼女がご飯を上げたいのは悠太郎だけだと気づく。
 悠太郎におむすびを届けるべく、お見合いの席を飛び出し、川に落ち、彼に助けられる。
 

 父親の猛反対など曲折はあったが、ついに彼らは結びつく。
 
 そして、問題を抱える悠太郎の大阪の家族のもとへ。
 <あまちゃん>とくらべて、いかにも本来の<朝ドラ>らしくなってきた。

 創設9年目にして、王者<ジャイアンツ>を4対3で破って、大震災被災地の宿願、星野楽天が優勝した。
 
 昨日、無敵田中将大投手で優勝するはずだった。
 しかし、田中くん、敗けてよかった。
 人生そんなにすんなり行くもんじゃないんだ!
 一敗地に塗れたからこそ、今日の勝利はひとしおだろう!
 まさに、人生はドラマだなあ!
 観るものにとっても鳥肌ものだった。
 おめでとう!


 

エッセイ(184)人類は文明の進化路線に逆らえるか(47)山本太郎の手紙

2013-11-03 04:47:17 | エッセイ
「ちょっと失礼だよね」
 
 山本太郎参院議員が天皇陛下に手紙を渡した問題について、ビートたけし氏が、TBS系情報番組<情報7days ニュースキャスター>で苦言を呈した。
 
 
「我々にとって、天皇陛下というのは、戦後日本の文化や、あらゆるものの象徴だからね。その方に政治的な意見を考えさせちゃいけないね。それは内閣がやることだもん」と。

 この件についてはいろいろな方が意見を述べている。
 中には足尾銅山鉱毒事件で田中正造が明治天皇に直訴した件にからめて、已むに已まれぬ行動だったのではと同情する方もいる。
 
 地球科学環境博士の堀川大樹氏は、
「我々国民に求められているのは、山本太郎という存在を意識上にのぼらせず、スルーする技能である。・・・いたずらっ子も周囲から相手にしてもらえなくなれば炎上を仕掛けるモチベーションが無くなるというものだ」と。
 
 堀川氏の意見にも一理あると、ぼくもスルーするつもりだったが、たけし氏の意見を聞いて考え込んでしまった。
 たしかに戦前は政治的な権限も天皇にあったから<直訴>する行動にも意味があった。
 しかし、戦後の<天皇>という存在はまったく違っている。
 世界にも類例がない<象徴>という特異な存在だ。
 
 もちろん、政治的な権限はないから<直訴>の対象にはなりえない。
 ここで、<政治>とは何かを考えてみた。
 我々国民が快適に生活できるように配慮し、施策するのが政治である。
 今回問題視された<原発>問題に関して言えば、安倍首相の言うように「当面は国民のエネルギー問題に配慮する必要があるので即<脱原発>とはならない」ということになる。
 
 <原発>に核廃棄物処理などの問題があるにせよ、そのうち何とかなるでしょうという楽観的な姿勢が、世界的に見ても、現<政治>の実態だ。
 つまり人類は快適な生活を求めて、難題をかき分けて前へ前へと進み続ける<叡知ある動物>なのだ。
 そんな人類に山本氏は一抹の不安を抱いているのだろう。
 
 <象徴天皇>は、そんな人類にブレーキをかける存在であってほしいと思ったのかもしれない。
 しかし、<政治家>として取るべき行動だったかどうかが問われている。
 
 

運が悪いことから全てが始まった(33)大学時代(16)

2013-11-02 04:34:03 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
 また、嫌な夢を見た。迷子になる夢だ。
 家へ帰る道がわからない。
 駅の路線図を見るが、どの経路で帰ったらいいかがわからない。
 
 自分が何か壁にぶち当たると必ず見る夢だ。
 寝起きのぼーっとした頭で時計を見ると、まだ6時を過ぎたばかりだ。
 頭をすっきりさせるために散歩でもしようと階段を下りると、藤原が玄関で靴を履いている。
 また、奥さんのことを蒸し返えされそうで一瞬ひるむ。

「おっ、司か・・・」
 気配に振り向いた藤原が声をかけてきた。
「早朝ゴルフに行くんだ。付きあわないか?」
 奥さんのことでなくてホッとしたが、ゴルフ? 
 足が悪いボクが何で?
「ゴルフ?」
「あしたアイスホッケー同好会の連中とゴルフに行くんで、ちょっと練習しておきたいんで」
 ・・・勝手に自分でいけばいいじゃないか・・・
「練習場が近くにあるんだ。早朝だと安いんだよ。ともかくつきあえよ」
 ・・・何だって身勝手なんだから。こうと思ったら関係ない者でも引きづりこむ・・・
「行こう、行こう!」
 ・・・どうせ散歩するつもりだったんだ。彼の実力を見てやるか・・・

「こんな所に練習場があったんだ・・・」
 すでに2人ばかり先客がボールを打っていた。
 自分ではやらないが、ゴルフ観戦には関心がある。
 高校生の時だったか、霞が関カンツリー倶楽部の国際試合で中村寅吉選手が優勝し、それ以来テレビでもゴルフは人気だった。
 藤原が打ちだした。からだに見合った豪快なショットを連発する。

「キミも打ってみるか?」
 とつぜん彼が言った。
「ボクが?」
 思わず曲がらない右足を見た。
「やってみろよ! ぜったいキミだって打てるから。スイングに右足なんて必要ないんだ。左足を軸にして打てばいいんだから」
  

 ─続く─

 上原浩治のレッドソックスがワールドシリーズを制して優勝した。
 アメリカに挑戦したがパッとしなかった彼が、今年になって突然変異して、ついに最高の優勝貢献者になった。
 MVPを取ったオルティーズは勝利の雄叫びを上げる上原を抱え上げて彼を祝福した。
 
 「なんといっても、勝因は上原を筆頭に<熱い思い>がはんぱじゃなかったことだ!」
 オルティーズは言った。

 

  
 

運が悪いことから全てが始まった(32)大学時代(15)

2013-11-01 03:19:56 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「なに? お前が相談ごとか? 珍しいな・・・」
 彼は興味津々という目を見開いて、どかっとボクの鼻先にあぐらをかいた。
 狭い三畳に熱気とすっぱい臭いが充満した。
 どうしようか、相談するのは止めるべきだろうか、逡巡する気持ちが湧いたが遅かった。
「なんだよ。もったいぶるなよ!」
 藤原は息を吹きかけてきた。

「そりゃ、きみ、奥さんはキミに気があるんだよ」
 やむなく奥さんとの経緯をばらすと、静かに聞いていた彼は言い切った。
「そういえば、最近奥さんのキミを見る目がおかしいと思っていたんだ」
 いきなり藤原ワールドに入ってきた。まずい!
「変なこと言わないで下さいよ。だから嫌だったんだ。藤原さんにばらすのは・・・」
「それで? どうしたんだ? そのまま帰ってきたのか? 続きは?」
 矢継ぎ早に迫ってくる。

「じょうだんじゃないですよ! ボクは熊手持ちに使われただけなんだから・・・」
「それじゃあいったいキミはぼくに何を相談したいんだね?」
 
 彼はまじまじとボクを見つめた。
「ともかくキミは女の気持ちが分かっていないね。ぼくなら奥さんの望むところを察知して叶えてあげたね」
「・・・」
 「もっともキミは真面目だからその気になったら、やばいところまで踏み込んじゃうかもな。熊手持ちだけにしてよかったのかもね。相手には旦那もいることだし・・・」

・・・奥さんはキミに気があるんだよ・・・
 藤原が部屋を出て行った後も、この言葉はボクの脳裏に居残り続けた。

 ─続く─  
 
 「日展書道、入選を事前配分、有力会派で独占」
  
 新聞一面のトップで報じられた。
 ・・・あり得ることだ。大新聞の一面で大げさに取り上げられるほどのことでもないのに・・・と思った。
「F先生の紹介でK先生のチェックを経ないと出展なんかできないのよ。お金がかかるんだから・・・」
 身内に体験者がいて、お花やお茶といっしょで、日展の書道も家元制度みたいなもんだと、昔から思っていたから。