昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

運が悪いことから全てが始まった(50)貿易会社(8)

2013-11-25 05:02:22 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「こいつはね、狭間社長の紹介で入ってきたんだ・・・」
 大崎はマダムにどうだ!という顔をした。
 ・・・こいつだなんて、もう自分の子分みたいな言い方じゃないか・・・
「まあ、それじゃ大切なお方じゃない!」
 マダムが大げさにまつ毛を強調した目を見開いた。
「どうして、そんなことご存じなんですか?」
 ボクは、大崎さんのすました顔を見た。
 ・・・名前も知らないのに、素性だけは知っているんだ・・・

「それはね、大崎さんって中野学校出身だから何でもお見通しなのよ!」
 マダムはボクをバカにしたような言い方をした。
「中野学校?」
 ボクは大崎さんに問いかけた。
「中野学校っていうのは戦前のスパイ養成学校なの」
 
 何にも反応しない大崎に代わってマダムが説明した。
 ・・・スパイ養成? そんなのがあったんだ。また得体の知れない人物がボクの会社名鑑に加わった・・・

「そんなことどうでもいいから、取りあえずいちご紅茶をくれないか」
 ボクに関心を持って、カウンターから乗り出すようにしていた姿勢を起すと、「はい、はい、承知しました。・・・ところでお昼は何にする?」とマダムは商売がかった顔になって言った。
「ボルシチにピロシキ」
 大崎はぶっきらぼうに言って、お前もそれでいいよなという顔をボクに向けた。
 
「はい、お待ちどうさま・・・」
「紅茶にいちごって、めずらしいですね」
 スプーンで底に沈んでいるいちごをすくった。
 
 甘酸っぱい香りが立ち上った。
 永野の眉間にしわを寄せた顔が浮かんだ。
「ロシアでは紅茶にイチゴジャムを入れる習慣があるんだ」
 大崎が説明した。
 
「おっ!いい香りだ!」
 スイングドアが開いて甲高い声が飛び込んできた。

 ─続く─

 「江戸っ子1号、深海生物撮影に成功!」
 
 
 宇宙開発に貢献した<まいど1号>に対抗して、東京の町工場などのグループが開発した小さな深海探査機が7,800メートル以下に存在する深海魚の撮影に世界で初めて成功した。
 3億円かかる事業を下町工場の結束で2000万円で開発した。
 これからの海洋資源開発や地震のメカニズムの解明などにもお役に立つことが期待されている。