昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

運が悪いことから全てが始まった(45)貿易会社(3)

2013-11-19 06:06:08 | 小説、運が悪いことから全てが始まった
「おっ、キミか。どうぞ」

 専務室のドアを恐る恐る開けると、白髪の紳士が椅子から立ち上がりながら、お腹の底に響くような声を出した。
「まあ、まあ、座りたまえ」
 緊張して突っ立っているボクに前のソファに座るように手を差し伸べた。
「受験問題の結果を見させてもらったけど、なかなかいい成績だった」
 専務は満足そうな笑顔でボクをみつめた。

 ・・・辞書を差し入れてもらったせいだ・・・
 ボクは顔が赤らむのを覚えた。
「実は今度ソ連からタンカーを6隻受注したんだ」

 専務は誇らしげに言った。
「M造船の広船で造るんだ・・・」
「ひろせん?」
「ああ、広島造船所だ」
 ・・・狭間社長とは対照的な学者みたいな人だな・・・と思った。
 後で知ったことだが、吉原専務はM造船所からの天下りで、T大出のエリートなんだそうだ。

「その艤装品の一部はソ連から輸入することを義務づけられているんだ。もちろん日本で全て調達できるものばかりなんだが、ソ連で供給できるものは彼らから調達しなければならないんだ」
 ・・・ぎそうひん?・・・
「で、その輸入業務をキミに担当してもらうことにした」
 専務はどうだ?という顔でボクを見た。
「えっ? 中国向けのプラントじゃないんですか? ダニチさんの・・・」
 ボクは虚を突かれたように反応した。
「中国向け? ダニチ? 岩田常務のやつか」
 専務は露骨に嫌な顔をしたように見えた。
 ・・・まずいことを言ったのか・・・
 ボクの顔に血が上るのを感じた。

「ともかく、キミの最初の仕事は機械部山川第一課長の下で、ソ連向けタンカーの艤装品の輸入業務だから。大きな仕事だぞ! 具体的な指示は課長から受けて頑張るように」
 専務は機嫌を直して、ソファーから立ち上がりながら笑顔で言った。
 ・・・入社したての新人にいきなり大きな仕事? 研修期間ってないのだろうか・・・
「どうだった? 岩田常務の中国向け?」
 総務部に報告に行くと、年かさの女性社員から声をかけられた。
「いえ、タンカーの仕事に決まりました」
「ああ、吉原専務のソ連向けタンカーね」
 ・・・吉原専務のとか、岩田常務のとか、仕事に担当役員の冠が付いているんだ・・・

 ─続く─

 <俳句を通じた世界交流>

 昭和41年、愛媛県松山市は子規・漱石生誕百年祭の記念事業の一つとして観光俳句を募集し好評を得たのをきっかけに、<観光俳句ポスト>を県内に設置、さらに県外、平成24年4月には海外第1号が欧州連合(EU)の首都ブリュッセルに設置され、俳句を通して日本と欧州の文化交流に寄与している。
 EUのファン・ロンパイ大統領は大の俳句フアンなのだ。

 11月18日に松山市を訪れ、特別名誉市民の称号を授与された。
 彼の俳句から季節にちなんだものを一つ紹介しよう。

 Autumn end November

The night has follen
The bare branchs can be seen
Even more lonly