ステージおきたま

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仏さんものの元祖?『煙が目にしみる』新庄演劇研究会公演

2018-11-26 09:49:12 | 劇評

 あの愛の人、近江正人さんが愛の名作?『煙が目にしみる』を演出するって、こりゃ必見の価値ありだぜ。上出来の泣けるコミカルステージ連打し続けている堤泰之の作品だもの、面白いに決まってる。中でもこの脚本、毎年必ずどごかしらの劇団が上演しているという不朽の?名作だ。以前見たことあるし、この作者の『見果てぬ夢』は菜の花座でも舞台に上げたことがある。

 そんな知れ渡った作品だけに、観客も、どれどれお手並み拝見!となって当然で、そんな小姑根性に応えるのはプレッシャーもあっただろうが、新庄演劇研究会、お見事その試練に打ち勝って、上質のホームコメディに仕上げてくれた。ゆったりとした作りも中盤以降、お祖母ちゃんが、死者の言葉を取り持つ"いたこ"に転じてからは、効果的で、役者たちの好演もあいまって、爆笑を巻き起こしつつ、しっとりとした涙を誘っていた。感傷シーンの音楽扱いとか、正面窓奥の大きな桜といい、近江さんのほんのりとした温かさがにじみ出る好演出だった。

 この作品、何が有名って、火葬場で焼かれつつある死人が、遺族の待合室に現れて、火葬の終わるのを待つ家族たちと交流するっていう、突拍子もない設定にある。まさに、演劇ならではの手法なんだぜ。焼かれつつある人間が、いゃぁ熱いなあ、もうちょっと温度下げてくれんか、とか、あんたサウナじゃないだから、なんて言い合う。観客には丸見えの死者は家族には見えないってお約束が様々な笑いと涙を誘う仕掛けだ。

 以前、他の劇団の舞台を見て、きっと感化されたんだと思うが、俺も同じ仕掛けの作品を幾つも書いている。シニア1期生で作った『風渡る頃』はすでに墓に入っている夫たちが出てきて、共同墓に心惹かれる妻たちに、先祖代々の墓にともに入るよう懇願するってストーリーだ。いたこ役は霊力の強い墓地管理人にした。死者の言葉の逐次通訳、なんてシーンの面白さも取り入れている。これ、オリジナルだと思うんだけど、無意識に拝借したのかなぁ。

 コントでも死者が棺桶を前にしてぐだぐだする話を2本書いている。生きてる婆さんが勘違いして死んだ婆さんの代わりに棺桶に入る『勘違い婆さん』。葬式を待つ四人の婆さんが、死装束で手抜きの葬儀に不満述べ、ご詠歌嫌ってバブリーダンスを踊る『さらば!四婆』だ。

 『風渡る頃』は夫婦の和解と赦しで締めてるので、堤作品と同じパターンだが、コントの2本は、俺のシニカルな体質がもろに出てるな。『勘違い婆さん』は、ぼっち老人施設での仲間二人ただけに見守られた寂しい葬式だし、『さらば!四婆』は、なんと、超手抜き!4人一緒の集団葬!なんだもの、どこま皮肉に世の中見てんだよ、って呆れる。

 この資質の違い、これが今回の舞台を見終わった後にも尾を引いてたね。たしかに涙流した、心打たれた。でも、その震える心の片隅で、こんな体よく泣かされてていいんか?ってへそ曲がりの虫が疼くんだ。和解と赦し、愛と惜別を上手に切り取って、幸せな時間を提供する、これも芝居のとても重要なサプリ効果だとは思うんだが、もっと、牛乳飲み過ぎた腹のようにゴロゴロとわだかまりが残った作品に出会いたい、そんな無いものねだりをしてしまうわけなのよ。

 愛を謳い上げ、涙の大波を寄せた後、引き潮で魚死骸なんかがごろっと転がってる、見終わった観客が、涙のカタルシスの後に、得体の知れぬ違和感を持ち帰る、そんなユーモアコミカル&ブラックな芝居、そんな作品作ってみたいもんだぜ、と、どこまでもこねくれた野郎だぜ、俺って。

 

 

 

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