たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

「ズートピア(Zootopia)」の感想 -現代社会の差別における「たとえ話」-

2016-08-27 03:12:38 | ディズニー
 さて、またしても今更になってしまいますが、久々のディズニータグ、今回は、「ズートピア」の感想を書いてみようと思います。
 最初に見たのは結構前なんですが、書くのがだいぶ遅くなってしまいました。以下、ある程度、見た人を前提に書きますが、あまりネタバレしないように書いていきます。

 現代社会の「たとえ話」として、これほど精緻な作品も他にないだろうと思う。流石ディズニー。だから、目が離せないんだよなぁ。本作品は、主に差別のたとえ話となっています。
 肉食動物と草食動物、大きい動物と小さい動物、ずる賢い動物と泣き虫な動物。これらが、現代の、人種差別、宗教差別、世代間格差、学歴差別などのたとえ話となっていて、全然関係ないおとぎ話なのにも拘らず、自然と作品に入り込んで、最終的には泣けます。

 ウサギ史上初の警察官ジュディが、ずる賢いキツネのニックとペアを組んで、ある奇怪な事件の謎を解く、というのが主なお話の流れです。
 最初、ジュディの幼少期から始まって、ジュディのお父さんが「お父さんとお母さんは、夢を諦めたから、幸せになれたんだ」という言葉をジュディにかけます。このときに、「ディズニーのわりには、格言の逆説をかなりダイレクトに伝えてくるな」っという印象があったのですが、本作の深すぎるメッセージを掴むためには、これくらいは前提知識みたいなんもん。夢を諦めた方が手っ取り早く幸せを掴めるけども、それで本当にイイのか?、というようなことを考えたいのであれば、他のディズニー作品を見てください、ってことなのでしょう(アラジン、魔法にかけられてetc.)。

 この「ズートピア」のすごいところは、単に差別する側と差別される側に分かれていて、差別される側がかわいそー、という単純構造に終始していないところ。差別されていることを公に前提とした差別されている側の差別、もしくは、明らかにそれぞれの人生のなかでの努力の度合いor個人が不利益を被りうるがみんなにとって重要な選択によって現在の違いがあるにも拘らず、みんな一緒でしょ?平等でしょ?、と平等化されてしまうことの差別、などの、なかなか一見すると考えにくい差別を、うまく表現しているところが、本当に上手。さらに、ここに、多数派・少数派の物理法則が関与してくるあたり、本当にマジでガチで上手なたとえ話だなっと思います。
 まぁ、俺としては、最近本当に感じることだけど、自然科学内の分野間格差、理系と文系における利益・不利益を語った時の「でも、学問の本来は、貴賤はないはずでしょ?」と現状を一切加味しない起源への絶対視というのは、こういう問題をはらんでいるんだよなぁ。何を持って、どの時点で、対等とすべきか、というのは、本気の本気で思考していかないといけないことなのに、ここにマジョリティのロジックと需要と供給のロジックが入るから、複雑な現象が意外と簡単に理解できたようにみえるんだけど、ほんの少し摂動を与えてしまえば(何かの事件が起きれば)、大きな対立となってしまう危険が常に存在し続ける。(いや、たとえばだけど、俺、本気で、本来的なことを言えば、大学教養課程までの積分がきちんとできる博士号取得者って、それだけで無条件で年収700万円を最低ラインにしたくらいで、やっとトントンだと思うよ?そんなん、多数派のロジックと、短絡的な需要と供給の関係から、絶対に無理な(気がする)んだけどさ)

 この、いわば、アンバランスが定常化してしまったバランスに対して、バランスに戻そうとする力のなかに差別意識を感じとったキツネのニックが、ウサギのジュディに「俺が怖いか?」と試しに襲いかかるような素振りをするシーンは、ものすごく視聴者に恐怖を植え付けます。単なる「草食動物を食べる肉食動物の本能」として理解したい気持ちと、「平等と仲良し」を信じたい気持ちが葛藤するからです。このシーンは、本作品の俺のベストシーンです。ディズニー、うますぎる。本当に怖い。キツネがウサギを食べてしまうかもしれないから怖いのではなくて、俺自身が、このシーンをキツネの短絡的な本能として理解しそうになるから、怖いのです。

 もちろん現実は、本作品と違って、こんなに簡単に原因が解明されるわけもなく、その解決法が発見されるわけも無く、いつまでもいつまでも、生物学的な違いの存在に悩まされるわけですが、そこは「ありのまま」でいられない、「すべてにチャレンジする」気持ちを持って、一人ひとりが、世間を少しでもより良くするしかないのだと思います。
 そう、この作品は、「アナと雪の女王」の「ありのままで〜」だけで理解してしまっている多くの視聴者に、「そうじゃないですよ?」と教える役目も持っているのかもしれません。まぁ、当たり前ですが、「アナと雪の女王」は「ありのままでいい」なんて言ってる作品じゃないわけです。

 アナ雪やラプンツェルで、だいぶディズニー哲学が精緻化してきていて、今後どうするんだろう?と思っていましたが、さらに先のTrue Loveをディズニーは提供してくれています。二体系で帰結していたTrue Loveを多体系に拡張した作品と言えるでしょう。俺としては、アナ雪の続きとしても見ることができました。エルサの魔法の脅威はアナには受け入れられたわけですが、あの国の国民すべてに受け入れられたのかどうか?の描写が一切なかったですから。このエルサの魔法の脅威を、そのまま今回の作品内の肉食動物の脅威と同一化して作品を見ることができると思います。
 ただ、この多体系のTrue Loveについて、すべてを説明し尽くしているほどめちゃくちゃ精緻か?と言われると、そこまでではないので、、この次の作品がまた楽しみですね。

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コメント
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