たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

遠い日のメロディー

2015-02-08 03:10:28 | Weblog
 正しいことを貫いていくときには、必ず何か障壁が生じる。それは他人に対して迷惑になってしまうということゆえの障壁であり、決して自分の能力の問題だけではない。
 つまり、他人に迷惑にならないようにという部分を優先させると、どうしても自分に対して誤魔化さないとやっていけなくなってしまうのだ。

 あらゆる環境、価値観、尺度の違いから、本人の頑張り以外のところでの能力差は簡単にできてしまい、結局のところ、努力や本人の意思などは殆ど関係無く、ただの運や最初からの才能によって、能力は既定されてしまう気がする。

 その事実に謀反を起こすなら、システムを上手く利用するしかないし、他人にいっさい感謝もしない我儘さを持たなくちゃいけないし、実際にそういうヤツが成り上がっている。
 俺はその事実を直視することは耐えられなかったし、その現実から目を背けて、理想ばかりを語っている世間知らずに愛想を尽かしたのだと思う。

 「なんで俺が君の前から姿を消したか、わかる?」
 『ああ、もちろん』
 「流石だな。今や、Aグループ東大生だからな」
 『いや、俺は今も、Aグループでも東大生でも無いよ。どうしても相対的にそう見えてしまうんだったら、俺のことを、DQNに成り下がった、まだ学生やってんのかよ、って見下せばいい』
 「カワラナイね。こちらがひっそりと誤魔化している心の中だけの言葉を、簡単に具現化してしまうデリカシーの無さ」
 『俺らは友達だろ。仲間だったろ。思ったこと、考えたことを、そのまま口に出して、いったい何が悪い?』
 「親しき仲にも礼儀あり、という言葉、知ってるかなぁ?まぁ、君に言ってもわからないね、一生」
 『そうやってすぐにそれっぽい格言に逃げて、それが通じないとなると、関係を断絶しようとする姿勢は関心しないな。しかし、今は逃げられないぞ。何故なら今は、お前が立ち上げてくれた"俺の頭の中"で会話しているのだから』
 「君の生き方は、大勢の人を犠牲にしているってこと、君は気がつかないの?君が君らしく振る舞えば振る舞うほど、自分が厭になって、自分がいかに誤魔化しているのかを直視せざるをえなくて、こんなにも辛いというのに。そして、君は、君の自分勝手な理想と妄想を貫き続ける手法をいつまでもとらせてもらえているほど支えてくれている人達に、感謝もしていない」
 『それはそうだな。俺は、今も昔も、単純に薄っぺらい言葉で、皆さんのおかげです、皆さんに感謝しています、などと何かにつけて唱える輩は嫌いだから』
 「不公平だとは思わないの?君が理想を貫く一方で、なんの援助も受けられずに泣いている人や日々に絶望している人がいる」
 『人生はそもそも不平等で残酷なもの。だからこそベルヴィ』
 「その言い回し、俺に対するアテつけか?」
 『その通り。お前がいかに誤魔化すようになってしまったかをお前自身が認識することこそが、新しい、より良い一歩を踏み出すのだから。それにお前は俺を勘違いしている。俺は、理想を貫きたくて理想を貫き続けているわけではない』
 「じゃぁ、なぜ?なんで、どこかで止めて、収束しておかなかったんだよ?」
 『それは、、今は瞬間的に自分で自分を誤魔化しているかもしれないけれど、心の奥底でそれが間違っていることを認識し、その上で、まだ未熟な俺なんかに賭けてくれている人に、申し訳ないからだよ。後に彼ら彼女らから嫌われたとしても、いっさい無視され続けても、俺は彼ら彼女らの支えがあったからこそ今が成り立っているわけで、俺の純粋な部分に賭けてくれた気持ちそのものを裏切ることは俺にはできない』
 「それなら、なおさら、どこかで止めるべき。何事もほどほど。君に賭けてくれた当人を君の理想によって破壊するかもしれないんだぜ?なんで君は、君と同じ名前の登場人物と同様に、向上し続けるということを最大の善とするの?」
 『いや、そんなつもりはない。そんなに大それたことは考えてもいないけど、、でも、その賭けは、賭けてくれた当人を破壊してでも、絶対に勝たせなくちゃいけないことだと俺は思っているのだと思う』
 「危険だな」
 『何とでも言え。必ず切らせてはいけないラインを、俺の傍にいる限りは絶対に切らせないことは俺が保証する』
 「そうか、それなら俺は、無難に現実を観るという一見安全そうな価値観に身を置き、そのチャンスを自ら放棄したということか」
 『チャンスなんて、いくらでも転がっているさ。また今度、同じ試合のフィールドで、正々堂々戦い合おう。頑張ってればもう一度出会えるはず。そうすれば、少しは、良かった、って思えるはずだ』

 あれから長い時間が経って、その間に離れた人もたくさんいる。裏切られたこともたくさんあった。
 だけど、君と見つけた楽園に、裏切られたことはない。音楽や学問そのものは、いつでも純粋であり、そこに誤魔化しを感じさせてしまうのは、いつだってアーティスト自身、研究者自身なのだ。

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コメント
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