Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

ほんの小さな幸せだとしても

2023年06月18日 | 読んでいろいろ思うところが
柴崎友香「待ち遠しい」(毎日文庫)を読む。
年齢も出自も異なる3人の女性が
織り成す微妙な繋がり。その微妙さを
徹底的に味わう397ページだったという。


主人公の春子は39歳。
デザイン会社に勤め一人暮らしをしている女性だ。
彼女がいつのまにか、アパートの大家で、
同じ敷地内の母屋に住むゆかり(63歳)や、
そのゆかりの甥っ子の妻である
沙希(25歳)と交流し、親しくなっていく。
家族でもなければ、友人でもない。おまけに世代も異なる3人が
ひとつ屋根の下でお茶を飲んだり、ご飯を食べたり、
ついには温泉旅行に行ったりするのだけど、
親密になるかと思えば、意思の疎通がはかれず
不協和音が響いたりして、なんとも微妙な関係。

読者は彼女たちの言動を読み取りながら、
想像を膨らますことになる。
こういうのが小説を読む醍醐味なのかな、と。

とはいえ、読み進めていくうちに
浮かび上がってくるのは、
世代を超えた、女性としての生きづらさだ。
春子は未婚であることを、母親や会社の上司から
嫌味のようなことを言われ続け、
ゆかりは実の娘から絶縁されていることから
母親としての資質に自責の念がある。
結婚は女の幸せだといわんばかりの沙希は、
春子が結婚していないことを責める。
親に育ててもらったのに、
なぜ子供を産もうとしないのかと。

春子と会社の上司との会話が印象的だ。

「男はつらいのよ。いろいろ背負てるからなあ。その点、女の人は仕事でも主婦でも選べて、自由で羨ましいわ。ここら辺の店でも楽しそうにしている女の人でいっぱいやんか」
「……それは、なんとかがんばって楽しみを見つけてる、ってだけのことやと思うんですけど」
「そうそう、女の人はええね。生きるのがうまいから」

殺(と)ったらんかい!
そう思う読者は多いことだろう。
淡々とした描写のなか、感情が沸点に達する瞬間がある。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« With A Little Luck | トップ | 思い出はモノクローム »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んでいろいろ思うところが」カテゴリの最新記事