チョン・イヒョン「優しい暴力の時代」
(河出文庫)を読む。
市井に生きる人たちの、ちょっとした違和感とか
憎悪や虚栄、哀しみのようなものが染み渡ってくる短編集。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/0e/3f6f8580f37a5d9720f65cad1528c10d.jpg)
収められている短編の数は7。
十代の女の子が妊娠したことを知った母親が
病院でパニックになりながら、
相手の男の子の母親と電話で話す「何でもないこと」。
どこに行っても「ブタ」というあだ名をつけられ、
いじめの対象になる女の子が、転校した先の学校で、
唯一心を通わせたクラスメートが、
北朝鮮の高級官僚の子だった「ずうっと夏」。
自閉症気味の娘を、早期教育で英語幼稚園に入れた母親が、
その学校の補助教員で、かつて知り合いだった女性としばしの交流をするが、
その女性が学校で食中毒事件を起こしてしまう「アンナ」。
など、ほんの些細な、どこにでもありそうな物語が
短めに語られていき、何の解決もないまま
ぶつりと中断して終わる。読んだあとに残るのは、
残酷とまでは言えないけれど、
なんかひりひりする、ちょっとしっくり来ない。そんな思いだ。
それでも人と人は求め合って、
幸せな瞬間が来るのを願っている。
そして、ほんのたまにその瞬間が現れる。
と思わせる箇所がすべての短編に宿っていて、
そういう意味でとても美しい短編集。
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