桐野夏生「日没」(岩波書店)を読む。
できれば先を読みたくない。こんなしんどい物語は嫌だ。
と思いつつ、ものすごいスピードで読み切ってしまう矛盾。
「文芸倫理向上委員会」なる政府組織に
召喚された小説家のマッツ夢井は、
断崖絶壁の療養所という名の収容施設に幽閉されてしまう。
彼女が書いた小説は、コンプライアンスに反すると言われ、
今後は、社会に適応した小説を書くように強いられる。
とにかく怖い。
まともに食事も与えられず、外部との連絡も一切禁じられてしまう。
インターネットも携帯もダメ。テレビも新聞も読めない。
反抗的な態度を取れば取るほど、
収容される日数が加算される地獄。
猥褻、不倫、暴力、差別、中傷といったものが
法律で禁止されている世界であり、
体制や政治を批判することも許されていない近未来の日本。
表現の自由というものを根こそぎ削られていく主人公が
衰弱し、判断力を失い、
取るに足らない通俗的な小説を
書かされるエピソードの痛ましさに、
桐野さん、やめてえええ。と何度思ったことだろう。
どんなに圧力を受けても心の中は自由だ、
とうそぶく人もいるだろう。
しかし、本書の主人公のように、一切の情報から遮断され、
劣悪な食い物しか与えられず、プライドをずたずたにされたら、
自分なんか簡単に転向してしまうと断言する。
それはもう、自信を持って(どんな自信だ)。
なんとも恐ろしすぎる本書を読み終えたあと、
ニュースを見たら、日本学術会議の任命問題が。
本書で描かれている世界と、いまの現実は、
さほど遠いところにあるわけではないと気付いたときの恐怖といったら。
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