黒沢清監督「旅のおわり世界のはじまり」を見る。
やっぱりそうか。黒沢監督とあっちゃんが組めば、
映画の神様が降りてくると勝手に思っていたのだけど、
本当のことだったんだな、と。
テレビタレントの葉子(前田敦子)は、
バラエティの情報番組のロケで
撮影クルーとウズベキスタンで撮影にいそしむ。
まったく言葉が通じないところで、
得体の知れない食べ物の食レポや、
遊園地の過激なアトラクションにいどみ、
疲れ果てながらも仕事を全うしようとする。
葉子という女性について、映画は多くを語らないが、
本当は歌手になりたいと思っており、
東京にいる彼氏にちょっと依存気味なところもわかってくる。
やりたいことはあるけれど、
この先どうなるか見通しの立たないまま
見知らぬウズベキスタンの街をさまよう姿は、
まさに不安定な彼女の状況を浮き彫りにする。
そんな彼女を
映画は淡々と映し出していく。
異郷の地であるウズベキスタンの人たちとは、
小さな衝突はあるけれど、意外といい人たちが多かったり、
彼女と距離を取っているように見える撮影クルーの面々も、
わりと人情味があり、悪い人たちではないこともわかってくる。
つまり、世界は捨てたものではない、ということが
じわじわと伝わってくる映画というか。
それだけでじゅうぶんいい映画なのだけど、
黒沢監督とあっちゃんはさらに後押しして、
観客の感情をゆさぶってくる。現実ではありえない、
映画でしかできないウソというか、
ハッタリをかましてくれるのだ。
撮影クルーを演じるのが、
加瀬亮と染谷将太、それから柄本時生という
贅沢きわまるキャスティングと、
案内人役のウズベキスタンの俳優アディス・ラジャボスに
とてもいい味が出ていて見飽きない。
あっちゃんが、この人と少しだけ心を通わす場面が、いい。