塩田明彦監督「さよならくちびる」を見る。
門脇麦と小松菜奈が主演。
ふたりがギターユニットで歌う役と聞いただけで、
気持ちが高ぶってしまい、映画館に走ったシネフィルは、
まさに予感が的中。まぎれもない傑作だと確信するのでした。
ハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)は
インディーズでそれなりに活躍しているデュオで、
今回の全国ツアーのあと解散することが決まっている。
でも、解散の理由ははっきり示されない。
ふたりの出会いからデュオとしてデビューするまでが
回想で挿入されるけれど、わかるのはふたりの
満たされない思いとか、微妙なすれ違いといった、
言葉にするのがなかなか難しいエピソードが積み重なり、
観客は彼女たちの仏頂面を見て、心の中を想像することになる。
思っていることやテーマみたいなものを
すべて口にするような映画ではない。
しかし、すべてを語らないことで、
想像できる余地を与えてくれる映画があってもいい。
ハルレオをずっと追いかけている
ファンの2人の女子高生が素晴らしい。
なぜこのふたりがハルレオが好きなのか。
まったく説明されないけれど、ふたりがそっと寄り添って
ハルレオの歌を聴いている場面に、
いろんな物語を感じてしまう。語らない豊かさというものが
この映画にはたくさんあると思う。
東京や大阪、長野や仙台、そして函館まで
クルマで移動しつつ空気感が変わっていくのが心地良い。
終始不機嫌なハルとレオに挟まれた
マネージャーのシマ(成田凌)の屈折ぶりも
なかなかのアクセント。
そしてハルレオが歌う「さよならくちびる」
「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」。
本作のテーマはこれらの楽曲の中にあると思ったりするけれど、
ともかく、秦基博とあいみょんによる楽曲の良さ。
これらの楽曲が、俳優の演技とセリフと
ロードムービーな展開とシンクロして、
言いようのないエモーションを観客に突きつけてくる。
門脇麦も小松菜奈も、
まさにこの年齢でしかできないような役というか
いまこの瞬間しか見られないようなたたずまいだ。
成田凌も「愛がなんだ」で見せたクズ男ぶりに続き
たいへんな好演だと思ったりする。
塩田監督さすがだなあ、と感服しきりの傑作です。