Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

言葉と日常

2019年06月14日 | 読んでいろいろ思うところが

オカヤイヅミ「ものするひと」

第3巻(エンターブレイン)を読む。

いまどきの小説家の日常を淡々と追い、

無類の面白さを誇る本作も最終巻。

ゆるゆるな物語なのだけど、

登場人物はもとより、絵もセリフもコマ割りも

描き手の感度がストレートに伝わってくる。

 

 

主人公の杉浦紺は小説家。

それなりに評価もされて、何冊か本も出しているけれど、

それだけでは食えず、警備員のバイトをしながら、

執筆の日々を送る。その様子はひどく平凡で日常的。

朝起きて、スティックパンを食べて、

バイトに行き、合間にポメラというテキスト入力専用の

デジタルメモ機で言葉を紡いでいく。

 

主人公は電車やバスに乗り、

乗客たちの何でも無い会話に耳を傾けたり、

街を歩いて目につく看板を心の中で読み上げたりと、

言葉というものの意味や響きを確かめながら生きている。

 

本作を読んで初めて知ったけど、

広辞苑を使った「たほいや」という遊びや

「ワードバスケット」という言葉遊びのできる

カードゲームが出てきて、これはぜひやってみたいなあ、と。

 

ともあれ淡々と生きている主人公にも、

女子大生との恋愛が絡んだり、賞の候補になったりと、

いわゆる俗世間のアレコレにまみれていくところが

なんともリアルな小説家の日常というか。

 

シンプルな線と、フラットなトーンが際立つ背景。

コマのなかにある余白が大きな存在感を示し、

独特だけど心地良い「間」のようなものが漂う。

そして登場人物の気持ちに、

寄り添うような静かな語り口。

マンガだけど、良質の日本映画を見ているような気分になる。

だれか映画化してくれないかな。

 

オカヤイヅミさん初めての長編らしいけど、

次回作も楽しみな漫画家さん。

まずは本作の完結をお祝いしつつ、

もう一回読み直してしみじみしたいと思います。

 

コメント
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