スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部付録第二一項&根拠

2016-08-20 19:16:38 | 哲学
 スピノザは阿諛追従の徒に関しては,きわめて限定的にといわざるを得ませんが,人間社会に利を齎す場合があると認めています。第四部付録第二一項をみてみましょう。またそれによって,スピノザが阿諛という行為をどのようなものと解しているかもみてとれます。
                                     
 「阿諛もまた和合を生ずるがそれは醜悪な屈従もしくは背信によってである。だが阿諛に最も多く捉えられるのは,第一人者たらんと欲してそうではない高慢な人間である」。
 人間が和合することは人間社会の利益のひとつです。阿諛はそれに貢献する場合があるという点において,スピノザがそれを評価していることが分かります。
 次に,醜悪な屈従とか背信といわれていることについては,僕はそう深く考える必要はないと思っています。ここから理解できるのは,スピノザが必ずしも阿諛というのを,何らかの目的をもって人間がとる態度というようには必ずしも解していないように思われることです。むしろ対象がだれであるかを問わずに,他者に取り入ろうとする態度のことがここではすべて阿諛といわれているように思われます。こういう人のことを俗に太鼓持ちなどといいますが,スピノザがここでいっている阿諛は太鼓持ちが採用する態度と似ているようです。したがって阿諛追走の徒というのと太鼓持ちというのとは,さして変わるところがないと解してよいのではないでしょうか。
 最後のところでスピノザが示しているのは,太鼓持ちが存在することを最も喜ぶのが高慢な人間であるということです。ですがこの説明は第四部定理五五に準じていると思われるので,おそらく自卑的な人間も太鼓持ちの存在を喜ぶことになるでしょう。さらにこの部分は,阿諛が高慢な人間をより高慢にするといっているようなものですから,むしろ阿諛の害悪について説明していると解するべきでしょう。確かに阿諛は和合を齎し得るけれども,害悪の方がずっと大きいといって差し支えないと思います。

 僕が自己原因causa suiも起成原因causa efficiensのひとつに加えて考えるのは,以下の理由によります。
 スピノザがフッデJohann Huddeに宛てた書簡三十四,ならびに第一部定理八備考二では,事物の定義がその事物の本性だけを含むという主旨のことがいわれていました。これは,書簡の方では神が「唯一」であるということを神の本性に必然的存在が含まれているということ,いい換えれば神が自己原因であることから導出するための条件のひとつです。また『エチカ』の方では,実体が自己原因であるということを根拠に,第一部定理五,すなわち同一本性を有する複数の実体は存在しないということを導出するための条件のひとつです。違ったことが導出されているのですが,それらは同じ論証を経て導くことが可能なのです。
 このための条件がほかにもあって,そのひとつに,存在するものにはそれが存在する原因が必然的に存在するというものがあります。僕はこのことが創造されない事物にも適用されると解します。ここでいわれる原因というのは起成原因のことなのですから,創造されない事物が存在するためにもその起成原因が必然的に存在しなければならないということをスピノザはいっていると解するのです。さらに別の条件として,ものが存在する原因,すなわち起成原因は,そのものの本性のうちにあるか,そうでなければそのものの外にあるかのどちらかであるというものもあります。これは明らかに前者が自己原因すなわち創造されない事物に適用され,後者は自己原因ではない事物すなわち創造される事物に適用されるという意味です。したがってこれらを論拠にする限り,少なくともこの部分においては,スピノザ自身が自己原因を起成原因のひとつに含めているという僕の解釈は間違いないと思うのです。
 創造されない事物の定義の条件①でいわれている原因というのを起成原因と解すると,条件②との間で難題が発生するのは僕も認めます。ですが条件①の主旨は,知性が創造されない事物を概念するconcipere場合には,定義されるその事物以外の何かに依拠してはならないということでした。このときその何かが原因といわれていると解すれば,この問題は解消可能だと思います。

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