スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

民法の規定&処置室

2013-03-05 18:45:02 | 歌・小説
 新潮文庫の小説は,裏表紙にあらすじが書いてあります。これは『それから』の場合にもそうで,その文章は「長井代助は三十にもなって定職も持たず…」と始まっています。しかし,厳密にいうならこれは正しくありません。『それから』の中の代助は,もうすぐ30になるという設定で,正しくは29歳だからです。
                         
 あらすじの文章というのは,いい歳をした代助が定職を持っていないということを強調しています。ですから29歳といっても,もうすぐに30歳を迎えようかという人物ですから,この文章がそう間違ったことをいっていないというのはその通りです。実際に僕もあるときまで,ここには露ほどの疑問も有してはいませんでした。ところが『反転する漱石』の中で石原千秋は,まだ29歳であるのかもう30歳になったのかという相違は大いに意味があるのであって,まだ29歳でもうすぐ30歳という代助の年齢は,漱石が意図的に設定したものだという説を展開しています。
                         
 戦前の家父長制においては,子どもは両親の許可なく結婚をすることができませんでした。僕は明治時代の民法の原文は知りませんので,ここからは石原からの受け売りですが,これが民法772条。そこには父母の同意とありますが,実質的には父の同意と考えてよいのではないでしょうか。ところがこの772条には例外規定がありました。そしてそれが,男なら満30歳,女ならば満25歳に達した場合です。すなわち,『それから』の代助というのは,もうすぐ父親である得の許可なしに,結婚することができる年齢になろうとしていたのです。
 代助に対する得の要求は,得が経営している会社の再建を理由としているのは間違いないところです。しかしその得の要求には,ある種の性急さが明らかに含まれています。そしてそれこそ,代助がもうすぐ自分の許可なく結婚できる年齢に達するということに,得が焦燥感を募らせているからだというのが石原の見解。実際に得は,代助の年齢に関してかなり気にしている様子がありありと窺えるのです。
 たぶん石原説は正しいと僕は思います。代助の年齢の設定は,漱石が民法の規定を視野に入れた意図的なものであったのでしょう。

 このときに金曜日の来院に関してはU先生から僕にひとつの配慮があったのですが,このことは後で説明します。
 事前の説明というのは診察室で行われたものです。その後で実際にiPro2レコーダーを装着したのですが,これは診察室ではありませんでした。
 以前に説明しましたが,総合内科の診察室というのは,受付を中央にして,左右に3室ずつ,計6室です。この6室の奥に,さらに大きな一室があります。これは処置室という部屋で,僕がレコーダーを装着されたのはこの部屋です。何台かのベッドや,事務用の机などもあるわりと大きめの部屋。広さとしては入院中の病室と同じくらいか,あるいはもう少し広かったかもしれません。僕がこの処置室に入ったのはこのときが初めて。診察室の奥にこうも広い部屋があるということ自体を知りませんでしたから,ちょっと驚きました。
 レコーダーの装着を担当したのは技師でした。もうひとり立ち会いましたが,この方がだれであったのかは僕にははっきりとは分かりません。技師はU先生から紹介してもらいましたが,この方についてはそうした紹介がなかったからです。ただ,この方と技師との間で交わされていたやり取りから察しますと,おそらくはレコーダーの機器の製造会社の方で,営業を担当されていた方であったものと思われます。立ち会ったのがこのふたりであったということは,U先生は立ち会わなかったということを意味します。装着はある程度の時間が必要なものであり,U先生は僕のほかにも多くの患者を担当していて,この後もまだ診察がありました。レコーダーの装着自体が診察室ではなく,こちらの処置室で行われたのは,診察室の広さという物理的な問題もあったものと思われますが,むしろ次の患者の診察をスムーズに開始するためという側面が大きかったのだろうと思います。
 すでに説明したように,このレコーダーは僕の右の下腹部に装着されました。装着行為自体は僕が横たわって行われるもの。したがって技師からはまず,ベッドに仰向けになるように指示されました。ベッドは何台かあったわけですが,各々のベッドの間にはカーテンで仕切りができるようになっていまして,もちろんこのときは,僕が横になってからそのカーテンが閉じられました。
コメント
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