スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部定理三二&朝倉流の論証

2014-04-01 19:10:29 | 哲学
 第三部定理三一感情の模倣imitatio affectuumは,人間がなぜ三角関係に陥りやすいのかを説明します。ただしこのことのうちには,なぜ三角関係が問題となるのかということが含まれているとはいえません。というのも,スピノザの哲学における愛amorというのは,第三部諸感情の定義六から明らかにように,愛する主体subjectumが人間であったとしても,その対象objectumが人間であるとは限定されていないからです。三角関係が当事者にとって問題となる理由を示しているのは,次の第三部定理三二です。
 「ただ一人だけしか所有しえぬようなものを人が享受するのを我々が表象するなら,我々はその人にそのものを所有させないように努めるであろう」。
                         
 この定理Propositioも,人間だけを対象にいわれているわけではありません。ただ,一般にひとりの人間の恋愛感情は,ひとりだけが所有可能なものと認識されています。エヴゲーニイのムイシュキン観には誤りerrorがあったと僕は理解しますが,その誤りの根拠となっているのはその認識cognitioだといえます。したがってこの定理が,三角関係が問題となることの理由を正しく示しているのは間違いないといえるでしょう。
                         
 Kを同居させる際の奥さんの拒絶の理由は,単に第三部定理三一のような人間の心情の動きだけを理解していたというのは,スピノザの哲学の観点からは,十分ではありません。第三部定理三二の人間心理のダイナミズムも奥さんは心得ていたのだというべきでしょう。実際,お嬢さんの恋愛感情がKに向っているのではないかと錯覚した,つまり表象した先生は,Kにお嬢さんを所有させないべく行動しました。その行動は,第三部定理三二からして,先生にとって当然の,傍目からみて自然な行動であるといえます。

 不変の形相formaを有する全宇宙を,無限に多くのinfinita物体corpusの集積としての一物体とみなすことに関しては,過去の考察との関連で,一定の注釈が必要になります。
                         
 『概念と個別性』における朝倉友海の論述から察すると,朝倉はこのことを容易に受容するものと思われます。なぜなら朝倉は僕とは異なり,ふたつの個物であるres particularisとres singularisに同一の訳を与えるべきではないと考えています。朝倉によれば,res singularisが第二部定義七で定義されている個物,すなわち有限finitumで定まった存在existentiaを有するもののことであるとするなら,res singularisはres particularisに含まれ,res particularisにはさらに残余の部分があるということになっています。そしてその残余の部分こそ,無限様態modus infinitus,とりわけ間接無限様態なのです。つまり延長の属性Extensionis attributumでいうなら,僕たちが知覚するpercipereようないわゆる物体はres singularisであるけれども,同時にres particularisでもあり,不変の形相を有する全宇宙は,res particularisではあるけれどもres singularisではないものであるということになります。
 ここで物体の定義Definitioである第二部定義一を参照しましょう。スピノザはそこで第一部定理二五系の参照を促しています。つまり物体はres singularisとして定義されているのではなく,res particularisとして定義されているのです。つまりそれは不変の形相を有する全宇宙にも妥当します。いい換えれば不変の形相を有する全宇宙を,ひとつの物体であるとみなして,何も問題はないということになるのです。
 僕が部屋の内部でどのように行動しようと,少なくとも部屋の外部に出ない限り,部屋の現実的本性actualis essentiaに変化は生じ得ないということは明らかになっています。したがって全宇宙のうちで,諸々の物体がどのような延長作用をなすとしても,その全宇宙の形相は不変であり,本性は保持されることになります。一方,そのような全宇宙が存在するということは,運動motusと静止quiesが延長の属性の直接無限様態であるということから帰結しています。そしてこの説明の通りなら,それが不変の形相を有するということも論証されたことになります。
コメント
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