浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

シェイプ・オブ・ウォーター

2018-03-02 14:00:46 | DVD、映画
※今回、「シェイプ・オブ・ウォーター」の話をします。予告編以上の話はしないと思いますが、一切情報無しで観たほうがどんな映画でも楽しめると思うのでぜひご覧になった上でどうぞ。



アカデミー賞の発表は日本時間で言うと次の月曜日(3月5日)の午前8時半から。アカデミー賞前哨戦の結果も出て、予想ももう山場というところです。

アカデミー賞の受賞というのは映画本体云々よりもハリウッドの様々な力学によるところがあって、それはぜひ映画評論家町山智浩さんの話を何処かで読むか聞くかしていただきたい。

だから、「この作品に取ってほしい!」というのと「この作品が取るだろうな」というのは違う。今回はあくまで僕の「取ってほしい!」という話をします。

今回のアカデミー賞作品賞ノミネートは下記9作品。

「シェイプ・オブ・ウォーター」
「スリービルボード」
「ゲット・アウト」
「ダンケルク」
「レディー・バード」
「君の名前で僕を呼んで」
「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
「ファントム・スレッド」

このうち、僕は4作品を観ている。「シェイプ・オブ・ウォーター」「スリービルボード」「ゲット・アウト」「ダンケルク」の4作品。

で、巷では今回の作品賞は「シェイプ・オブ・ウォーター」と「スリービルボード」の一騎打ちと言われていて、更に言うとやや「スリービルボード」が有利、と言われている。

それについては僕もほぼ同意。

一方で「シェイプ・オブ・ウォーター」は最多ノミネート(13部門)とは言え、内容が内容というところもあるので厳し目に見られている。

内容とは、はっきり言ってしまえばこの作品は「大アマゾンの半魚人」を元ネタにしたある意味「怪獣映画」だと言うこと。今までいわゆる「怪獣映画」でアカデミー作品賞を取った作品は無い。

だから、作品賞にノミネートした時点で勝ちと言えば勝ち、とも言える。とりあえずアカデミー賞に「怪獣映画を認めさせた」という意味でね。ノミネートだけでも勝ったも同然というのは「ゲット・アウト」「君の名前で僕を呼んで」「レディー・バード」もそう言えると思う。

しかし、それでも、もし願わくば、

僕は「シェイプ・オブ・ウォーター」に最優秀作品賞を取ってほしい

と思っている。

なぜなら、それほどまでに素晴らしかったから。

ときおり「この作品の良さは僕だけが分かればいい」と思えるような、本当にこじんまりとした愛おしい映画に出会うことがある。

例えばそれは僕にとっては「恋はデジャヴ」だったり「シェフ/三ツ星フードトラックはじめました」だったりする。それらはもちろん素晴らしい映画だし、人気も出るだろうとは思うけど、万が一、世界中で全くヒットしなくても、誰からも評価されなくても僕だけは「絶対にこの作品は良いものだ。他の人に分からなくてもいい、僕だけがその良さを知ってる」と思えるような作品。

例えば去年観た「ワンダー・ウーマン」は観ながら「いい作品だし、こりゃあ他の人にも受けるだろうな」と思えた。もし「え~??ワンダー・ウーマン??そうでもないなぁ」という人がいたら「かしこまりました。あの映画について少しご説明させていただいてよろしいですか?えーっと4時間かかりますが」、と「ワンダー・ウーマン」の良さを説明してあげたい。

しかし「恋はデジャヴ」や「シェフ」、あるいは「LAストーリー/恋の降る町」や「アフター・アワーズ」(スコセッシ監督の)なんかは「あれ、面白い?自分はそうでもなかったよ」と言われても「それで、いいです。僕がこの作品を好きなことは変わらないから」と笑顔で言える。

「シェイプ・オブ・ウォーター」はそういう作品でした。

振り返ってみれば登場人物の誰もが愛おしい。すべての登場人物が「不完全」であり、それ故にある種の「怪物性」を有している。作中では「悪役」として描かれる登場人物ですら不完全であり、故に怪物であり、だからこそ、あれだけの悪役でありながらそれでも、愛おしさがあった。

監督のギレルモ・デル・トロは怪獣が好きで好きで、常に「怪物」や「怪物みたいなもの」が出て来る映画ばかりを撮っている。彼の「パシフィック・リム」には正にそのまま「Kaiju(怪獣)」が出て来た。

今回の「シェイプ・オブ・ウォーター」も怪物が出てくる。なぜ彼がこれほどまでに怪物に惹かれるのか?そしてなぜギレルモ監督
の怪物映画は、これほどまでに感動的なのか?

それはおそらく彼の映画が「結局のところ我々はすべて、怪物なのだ」ということを教えてくれるからなんじゃないかと思う。

我々は皆すべてある意味、怪物で、何かが欠けていたり過剰だったりする。怪物だから周囲の人や物を不用意に傷つける。そしてその「怪物性」故に、しばしば我々は世界から拒否され、迫害される。怪物は何かを求めても叶えられないことが多い、というかほとんど叶えられない。

つまりギレルモ監督の映画に出てくる「怪物」は我々、もっと言うと僕であり、貴方だ、ということじゃないだろうか。貴方には失礼かもしれないけど。。

僕や貴方や、あるいは彼や彼女を描く映画だから、ギレルモ監督の作品はいつも愛おしく感動的なんだと思う。

そのギレルモ監督の、今作「シェイプ・オブ・ウォーター」は集大成であると思う。もしご関心があればぜひご覧ください。すべての「怪物」に捧げられている作品だと思うから、ぜひ。