浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

ズートピア

2016-05-16 18:40:31 | DVD、映画
ここ最近の、というかはっきり言ってしまうと「ジョン・ラセター合流以降」ということになりますが、ディズニー・アニメは神がかってますね。圧倒されました。

ちなみに言っておくとジョン・ラセターというのは元々、ピクサーの人で、ピクサー作品の評価が高かったため、ディズニー・アニメのトップにもなった。厳密にいうといろいろあるんだろうけど、ざっくり言うとそういう感じ。

ジョン・ラセターによるディズニー・アニメだと「シュガー・ラッシュ」「アナ雪」「ベイマックス」あたりを僕は見ているけどどれもこれも面白くてたまらない。

ということで今回の「ズートピア」ですよ。

見る前から「どうせ面白いんだろうなぁ」と思って観てましたがもう「完璧」のレベルですよね、はっきり言って。もし万が一、文句を付けるところがあるとすれば「完璧すぎて憎らしい」というところくらいでしょう。何か欠点があったほうが愛おしいって時もあるけど、まぁそれは言いがかりでしょう。

話の筋としては、ウサギのジュディが警官を夢見て動物たちの理想郷、ズートピアに来る。ズートピアでは肉食獣も草食獣もみんななかよく暮らしている、という話。

それだけ聞くと「完全にお子様向けアニメじゃん」と思うかもしれない。

でもね、ぜんぜん違うんですよ!

はっきり言うけどめちゃくちゃブラックです。

例えば。話の筋にあんまり関係ないところでひとつ例を挙げると、主人公たちが免許センターに行く。そうすると免許センターの職員たちはみんな「ナマケモノ」。「怠け者」という例えではなく、本当にナマケモノが職員なの。ナマケモノなのでいちいち動きが遅い。なのでみんなイライラしている。

これってさ、つまり免許センターは時間がかかって待たされてイライラする、という皮肉だよね。

僕はこの映画のテーマは「RacismとPrejudice」だと思っている。それがちょっと言葉がキツければ「ステレオタイプ」ということ。

この映画の中に何度も出てくるステレオタイプでいうと例えば「ウサギは小さくて可愛い。だけど警官になれない」とか「キツネはずる賢い」だとか。これってさ、登場人物が動物だから「そうだよねー、キツネはねー」とか思うかもしれないけど、こういうこと我々、日常生活でやってませんか?

ほら、「◯◯人は、、」とかさ。もちろん悪い方向じゃなくても例えば「アメリカ人はリズム感良さそう」とか「オーストラリア人は良い人そう」とかね。あくまで例として適当に言ってますよ。

つまりはこういうのの「暗喩」の映画である、と僕は思う。

僕がこの映画を観て思ったのは「これは現代の鳥獣人物戯画だろうな」と思った。

例えば鳥獣戯画では「蛙の本尊を拝む猿の坊主」がある。

これを「蛙の本尊を拝む猿の坊主」と取るか、あるいはここから「どうせ蛙みたいなもんを拝んでる坊主は猿みたいなもんだ」というメッセージを受け取るかはその人次第。

そして作家の真意はいい意味でぼやかされる。例えばお坊さんから「俺達を猿だと言うのか!」と怒られても、作家は「いえいえ、そんなつもりは無いですよ。すべて動物にしただけですから」と言い訳が出来る。

更にいうと「ああ、この作者はこの絵で『坊主なんて猿みたいなものだ』と言っているんだろうな」と気づける人と言うのは少なからず「坊主が猿に例えられる」という気持ちを持っている、ということになる。

この構図を使えばはっきり言ってなんでも描けてしまう。

「ズートピア」でも「え?そのパロディをこの動物でやるの?それってその動物に例えられた人たちどう思うの?」と感じたところがあった。それはつまり、僕の心の中に「あの人達はこの動物みたいなものだ、というのも一理ある」ということがあるからだろう。

僕がこの映画で特に「これめちゃくちゃ面白いけど、かなりギリギリだなぁ」と感じたところはとある有名な映画を完全に再現しているシーン。これって非常に複雑な構造で、その映画をもちろん知っていなければいけないし、その映画の背景も知らないといけない。

そこで!なんです!言いたいことは。

その映画のことを知っていればかなり楽しめるけど、じゃその映画知らないとどうなるか、

めちゃくちゃ受けてましたよ、みんな。日曜日に吹き替え版観に行ったってこともあったからお子さんもたくさんいたけど、みんなかなり喜んで雰囲気があったまってた。

何も知らなくても十分楽しめる、知っていると楽しい上に考えさせられる、ってのが昨今のディズニーアニメの特長なんです。「間口が広くて奥が深い」ってことですね。

僕の姪っ子たちも観に行ってたいそう喜んだらしいんだけど、たぶん彼女たちはこれから大きくなって、その元ネタになっている映画を観た時に「あ、ズートピアに出てきたのはこれだったのか」と気づくんだろう。そして、「そうかそうか、ズートピアのあのシーンはこういう意味だったのか」と気づくんだろう。

繰り返しになるけど、別に気づかなくてもズートピアの価値はまったく下がらない。

大変に素晴らしい映画ですよ。

あ、そうそう細かい点で言うと、吹替(というか日本語版)もかなり頑張っていたと思う。

日本語版になるともちろん吹替もいろいろ苦労するんだろうけど、なにより大変なのは「文字情報」なんだよね。実写だと例えばパッと写ってる文字に意味があったとすると字幕で説明するしか無いんだけど、CGアニメはたぶん日本語に置き換えられるんだろうね、便利でいい。(ちょっとな、って時も無くは無いけどズートピアはよくやっていた)

例えば、ズートピアの街で海賊版DVDを売っている人がいるのね。で、それがディズニー・アニメの動物版なの。

例えば「Big Hero 6」は「Pig Hero 6」みたいに。

で、それをそのままカタカナにしちゃうとあまり伝わらないと思うけど、ちゃんと邦題をギャグにしていた。

「Big Hero 6」は邦題「ベイマックス」、それをズートピア版では「ブーマックス」に。

これは非常に上手いね。ベイマックスが豚になっているパッケージと「ブーマックス」で「ベイマックス」を知っている人は笑えるだろう、もちろん子どもにだって伝わる。

これは英語のままだったけど街にナイキっぽい看板があってズートピアでは「Just zoo it」になってる、もちろんナイキの「Just do it」のパロディ。

こういう細かいネタも多々あるし、もちろん何よりメインの話が十分に面白い、というので本当にお勧めですよ、ズートピア。あとね、途中何度か僕ほんとに泣きました。