浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

カシム・ザ・ドリーム

2010-11-18 22:39:01 | DVD、映画
松嶋×町山 未公開映画を観るテレビ」というテレビ番組があります。

映画評論家の町山智浩がアメリカで見つけてきたおもしろいドキュメンタリー映画を2週にわたって放送し、それを観た松嶋尚美(オセロの白い方)に解説する、というもの。

僕は町山智浩が好きだからもちろんこの番組の存在は知ってたんだけどうちにテレビが無いものでなかなか観られずにいた。

観たいなーと思ったらネットで全作品有料公開(来年の1月まで)という企画が始まったんだよね。しかも僕の誕生日にスタートってのがなんかうれしいじゃないですか。

日本では観られない映画をネットで500円で観られる。更にヘビーユーザーには全39本1万円で、というコースもあって、「もう!商売上手!」と一気に1万円払いました。

ということでまず観たのが「カシム・ザ・ドリーム」というボクシングドキュメンタリー映画。

これは紹介の時点から「絶対観たい!」と思ってたんだよね。

(ここからちょっとお子さん、特に男の子をお持ちの方には読むのが辛いかも…ご注意ください)

主人公はカシム"ザ・ドリーム"オウマ、という28歳のボクサー、ウガンダ出身。体は小さいけどいい動きをする。何よりもキラキラとした笑顔が印象的。ぱっと見ジャマイカあたりのレゲエシンガーにも見えなくもない。


ジョギングしトレーニングし、リングに上がる彼。それにかぶせて彼の独白から映画は始まる。

「時々悪夢を観る。昼でも悪夢を観る。死体の隣で寝た故郷の夜のこと。そして俺が殺した人々のこと…」

彼は6歳の時、ウガンダで小学校の授業中、内戦軍に誘拐された。

そして、兵士にならないと殺す、と言われた。

内戦軍はそうやって兵士を増やしている。

一緒に連れ去られた仲間と兵士の訓練を受けている時、上官が聞く。「この中でお前が一番仲のいいのは誰だ?」彼は友達を指さした。上官は言った「よし、そいつを殺せ。殺せないならお前を殺す」 軍が求めているのは相手が誰であろうと躊躇無く殺せるマシーンのような戦士。

彼が初めて人を殺したのは8歳の時。

カシムは兵士になった。年端も行かない少年を殺すことは誰だって躊躇する。だからこそ少年兵士は軍において有用、という悪魔のような、この世の人間が考えているとは思えない「戦場の論理」がある。

しかし彼は軍でボクシングに出会う。才能を発揮しアマチュアボクシングの世界大会のためアメリカに来たとき、脱走した。

二度と故郷には帰れなくなった。脱走の罪により彼の父親はウガンダで殺された。

英語もしゃべれず一文無しの彼は何も知らないアメリカの町でボクシングジムを探す。そして見つけたボクシングジムの扉を叩く。。。

映画開始5分でこの凄惨な彼の半生が語られる。

僕はこの5分だけでぼろぼろと涙を流した。声を上げて泣いた。こんなに声を上げて泣くことなんていつ以来だろう?と思うくらいに。たぶん映画を観てこんなに泣いたことはない。涙がぼろぼろと床に落ちた。

10歳の彼の写真。天使のような少年である彼が持っているのはライフル。たぶんこの時、既に彼は人を殺している。

「なんでこんなことが…」としか言いようが無い。この現代になんでこんなことが起こるんだろう??そんなの正真正銘の地獄じゃないか。

彼の語る悲惨な半生と共に重ね合わされる現在の彼。仲間に囲まれボクシングに明け暮れキラキラと笑う。でもふと、何かの拍子にすごく寂しそうな、自分のしてきたことを憎むような、忘れたくても忘れないことを考えているような表情を見せる。

彼はウェルター級でチャンピオンになり、更に一つ上の階級で2階級制覇を狙ってる。

しかし階級を上げてしまうと自分より背の高い相手との対戦となり不利になってしまう。ミドル級の試合で自分より体の大きい敵選手からバンバン重いパンチを受ける彼の姿。

なぜ彼はそんな不利な条件で階級を上げたのか?それは彼が体の割に体重が重いから。じゃあなぜ減量出来ない?

その理由の一つがこの映画の中に写っている。

マリファナを吸う彼の姿。

マリファナを吸うとおなかが空くので減量が出来なくなる。だからボクサーにとって(ボクサーじゃなくてもだけど)マリファナは絶対やってはいけないもの。

何故、彼はマリファナをやめられないのか?

烈火の如く怒るトレーナーに彼は言い返す。

「わかってないな。俺は8歳から吸ってたよ、吸わないと人を殺せないから」

今でも彼はマリファナが無いと自分の過去に押しつぶされそうになってしまう。

彼は地獄からは脱走出来た。しかし彼自身の悪夢からはまだ逃げ切れていないのだ。

この映画を観られただけでも1万円払う価値があった。


他にもこういうシリアスなものばっかりじゃなくて笑える映画(個人的に次観たいのはオーストラリア馬鹿映画特集です)とかいろいろ観られるんでぜひ年末年始にどーぞ。
コメント
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