悪人 吉田修一(著)
この作者の本を読んだのは、「パークライフ」以来です。
「パークライフ」は当時かなり絶賛されて(芥川賞受賞)いて、
そうかー、素晴しいのか・・・というノリで読んだのですが、
その時の私には、イマイチだったような記憶が。
その後、「東京湾景」をドラマで見たなあ~程度でした。
ところが、昨年末に日経新聞の書評で「年間ベスト3」を
選ぶという紙面があり、2人の評者がこの本を選んでいたん
ですねー。
それじゃあ、私も読んでみましょう、という単純な動機で
読んだわけです。
そうして読み始めたら、(結構枚数あるんですが)ぐんぐん
と引き込まれて、知らぬ間に読み終わっていました。
最初は、九州で起きた携帯の出会い系サイトにまつわる
殺人事件、なんて趣味じゃないな~、ワイドショー的なのは
苦手だし、、、と思ったんです、正直なところ。
ところが、この小説は、そんなものではなかった。
現代の若者達、大人の心の空洞がみごとに描かれていて
ドキッとします。
回りを見渡したら、すぐそこに祐一や佳乃や光代や増尾
みたいな若者が、そしてその親たち、親戚がいるじゃ
ないですか。
そんな普通に生活しているはずの人達の心情が、事件を
きっかけに揺れ動く気持が、本当に丁寧に描かれています。
また、本文の中にこんな一節が、、、
「あんた、大切な人おるね?」
略
「その人の幸せな様子を思うだけで自分までうれしくなって
くるような人たい」
略
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎうたい。大切な
人がおらん人間は、何でもできると思い込む。自分には失う
もんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる」
略
沁みますね~。
格差の問題、親子家族の問題、社会のひずみなどが
巧みな物語構成の中に織り込まれています。
やりきれない悲しさ、虚しさを感じます。
「希望」はどこにあるのだろう・・・。
堪能いたしました。同じ作家なんですよね~??
そういえば、ある人は、
「吉田修一は進化している」と書いていましたっけ。
わがまま母