そういうことで、5日土曜日に行われた中谷潤人vsミラン・メリンド戦、G+で昨夜放送されました。
内容はもう、ただただ、中谷の圧勝、という以外ないものでした。
114ポンド契約の試合において、中谷とメリンドの体格差は顕著で、かねてから「転級のタイミングを間違えないことが肝要」と見ていた中谷は、ライトフライがベストのメリンドより、二階級くらい上の選手に見えました。
中谷は体格差、リーチ差をしっかり生かし、メリンドがカウンターを打てる距離をほとんど与えず。
一度、右フックが鋭く飛んだくらいで、それも当たらず、あとは「散発的に」という表現にも届かない回数の、浅いヒットのみ。
中谷が右リード、左ストレートで突き放し、ワンツーで捉え、ボディで止め、コーナーに詰めて連打する。
この繰り返しの末、6回にメリンドが視認できなかったであろう左アッパーが当たって、ほどなくレフェリーが止めました。
正直言って、このカードが決まったのを知ったときは「乗れへんなあ」という気持ちでした。
何もこの展開と結果を全て予見していたとは言いませんが、明らかにベストの体重が違い、それでなくても体格、リーチが違い、その上に上り坂と下り坂の交差が露骨で...と、普段、かなう限り自重している「ケチ」の付けようがいくらでもある、そういうカードだと思ってしまいました。
以前から、誰がどうというのでなく思うことです。
世界を目指す、という選手が、その過程で「元世界王者」と闘い、その勝利を喧伝したいならば、きちんと階級は揃えてください、と。
過去にはそれこそ色々ありましたが、今回の中谷の場合、相手は木村翔やクリストファー・ロサレスなどであるべき、でしょう。
中谷潤人の実力、技量、その試合ぶりは新人王戦の頃から、けっこう数を見て、良くわかっています。
派手さはないが、どんなタイプの選手が相手でも安定していて、対応力がある。若さに似ず「確か」な選手である。
それがわかっているからこそ、余計にこういうところを残念に思った次第です。
WBCフライ級のランキングはすでに3位。先頃、王座が空位になり、1位と2位で決定戦をやる運びになる。
そして、決定戦で決まった王者の初防衛戦は最上位の挑戦者と、という倣いでいけば、中谷潤人のWBC王座挑戦は、もう遠くない話です。
21歳という若さ、成長を続ける体つきを見るに、ひょっとしたら階級を上げる可能性があるかもしれませんが。
今回の相手選び、そして完勝が、世界挑戦に向けて有意義なものだったと言えるか。私はひとまず保留します。
確かに、ある程度予見は出来た内容でしたが、その予見以上に完璧、水漏れ無しの完全な勝利だったことも事実で、その点は見事でした。
しかし、より体格が近く、一打の威力を生かせるであろう世界王者、或いは上位の選手相手に、112ポンドでの調整という枷が加わった場合、そのタイトルマッチとなるであろう試合には、当然、不安の影も残ります。
スーパーフライに転じる場合、調整は今回同様、万全でしょうが、相手との体格差は狭まるか、ことによると互角のものになるでしょう。
長谷川穂積、山中慎介の後に続く、日テレ放送世界戦のエースとなれるか否か、という基準を持ち出すのが適当かどうかは迷いますが、単に一介のタイトルホルダーに収まってほしくない。
天与の体格と、緻密に作られた技巧、そして冷静さの裏に隠された、強い矜持が見え隠れする佇まい。
中谷潤人が非常に魅力的な逸材、大器であることは、誰もが認めるところです。だからこそ、と思うところを書いた次第、です。
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ということで、一曲。
Tears For Fears “Everybody Wants To Rule The World” です。
売り出したい選手に「階級下」の元世界王者や名のある相手をぶつける、というのはよくある手ですが、単純に見ていて辛い気持ちになる試合が多い。それが嫌なのですよね。このパターンに限らず、「階級下の東南アジア人」との対戦が多すぎないかと。階級を揃えるというのは、真っ先に優先すべきことと思うのですが。
ただ、WBCを選ぶとしたらそれ自体はかなり勇敢、ことによっては無謀ですらあるかも知れません。英国人トップランカーを連破して『ベルトを持たないWBC王者』であるマルティネス、調子に乗らせたらフライ級でも最強になる可能性を秘めたかなり凶暴なファイターだと思うので。いかにも日本人が苦手なタイプのパンチャーですよね。小手先の技ではエドワーズのようにあっさり捉えられて沈められてしまう。もしこの選手と戦う場合ワンミスが命取りになると思います。本当に戦えば、ですしロサレスの方が上がる可能性もあるのですが……。
まあ、一応見るくらいは、というところでしたが(笑)事前の想像以上に、一方的な内容でした。それはむしろ、中谷の水漏れの無さを褒める部分ではあるんですが。そういう選手だからこそ、もっとこう...という。こういうパターン、もう少し頼りないというと悪いですが、不足のある選手に対してだったら、納得はしなくとも、組む側の気持ちもわからんではない、とは思うんですが、他ならぬ中谷潤人になぁ...という気持ちになりましたね。
>アラフォーファンさん
メリンドは田口良一やハビエル・メンドサなど、体格、リーチ克服を求められる試合で苦しんできた選手で、それが激戦を経てタイトル戦戦から後退し、そこで階級差がある相手と、となれば、さらに苦しいのは当然です。
その当然が読めてしまった、というか、組む側はそれを見込んで組んだんやろうなあ、とあからさまに見て取れた、それが今回のカードだったと思います。
こういう「元王者に勝利、世界へ前進」と謳ったカードは、過去にいくらでも酷い例がありますが、中谷潤人には、こういうもは不要だ、と言いたいですね。まあ、来年の中頃にはフライ級で世界へ、という話にこだわらず、階級を上げることも含め、もう少し猶予を持ったキャリア構築、という選択もあり得るでしょう。その辺、注目していきたいですね。
>月庵さん
確かに「以前だったら寄りつかない」相手に...まあ、あまり言い募ると切りが無くなるので止めますが。比嘉とはウェイトが合うかどうか、ということも含め、難しいところでしょうが、それこそ木村やロサレスと組めるような、そういう発想が当然として通るボクシング界であってほしい、と思いますね。阿久井政悟の強打、小坂駿の技巧、望月直樹の敢闘をもってしても揺るがすことが出来なかった中谷の堅陣に、鋭く切り込めるレベルの相手との邂逅があって、さらにそれを乗り越えて、世界挑戦への資格をアピールする。中谷にこそ、そういう試合が相応しい、と思っていたもので、ちょっと残念でした。
世界については、仰る通り、WBCとは限らないのかも知れませんし、階級も変わる可能性はあるでしょうね。フライ級ならIBFを狙うのかも。もっとも、先方がいつまでも王座に安泰とはいかないのでしょうが。
マルティネス、そんなに強いですか。きちんと見たことが無いんで、また探して見てみます。すみません。
エドワーズ戦、DailyMotionに高画質の動画があり、見てみましたが、なるほどです。これこそ「寄りつかない」対象の最たる者かも、という印象です。アップライト気味に構えて視界を確保し、ジャブで入って、左右のダブル、トリプルを繰り返すときは徹底的なファイターになっている。グティ・エスパダスを現代に通じるようアレンジした選手、という印象ですね。サッカー風にいうと「可変システム」って感じですか。
ただ、大柄で打ち合いを好むロサレスとやって、どういう目が出るか、については...技で対抗しようとしたエドワーズとは違うアプローチで来る相手に、どういう感じなのか、見てみたいところですね。