ということで、年末ばたばたしているさなか、今年も恒例の観戦旅行をしました。
例年なら同日東西とか、関東で連日とかいう形でしたが、
今年はTBS放送分のがマカオ開催ですので、国内での分散はなし。
その分、この興行にボクシングファンが集中するかな、と思っていましたが、
実際、場内なかなかの盛況ではありました。
そういうことで、大みそか含め、世界戦6つについて、あれこれ感想を書かせていただき、
例年どおり、この拙いブログを読んでいただいた皆様への、新年のご挨拶に代えさせていただきます。
とりあえず昨夜の試合について、ざっくりと感想から。
日本人37年ぶりの海外王座奪取を果たした伊藤雅雪は、
1位の指名挑戦者、イフゲニー・チュプラコフと対戦。
王座獲得が決定戦によるものだったので、最初から最上位、という
極めて当たり前な話ですが、昨今はこの当たり前が通らない事例もあり、
それがすんなり実現したことは、見る側としても、気持ちの良いものでした。
しかし実際見てみると、この「すんなり」が実現した所以が、よくも悪くも見えたかな、という試合でした。
小柄なチュプラコフは、ガード高く掲げ、低い姿勢で出るが、打てばクリンチ、打たれてクリンチ。
伊藤は初回、右で叩く。2回、クリンチされても右フックを差し込み、右アッパー突き上げ。
以前ならともかく、インファイトの際も冷静で、やるべきことをきちんとやれる伊藤の進境が見える。
伊藤、徐々にヒットを重ねていき、3回にバッティングで切るも、傷は小さく、
カットマンを務めていたルディ・エルナンデスの止血も、難なく成功した模様。
チュプラコフはいささか見苦しい、という域の「ガチャガチャ」した闘いぶりを続けるが、
5回から伊藤が少し離れて足を使い、右をヒットしたあたりから、劣勢の色、鮮明に。
伊藤はこのあたりで、以前のリスキーなカウンター狙いも。6回もミスして少し打たれたが、
その後外してカウンター、よく見て外し、当てる流れに乗り、7回に右ボディ、カウンターと当て、
ラッシュしてタオル投入。レフェリーの確認が遅れるトラブルがあったものの、TKOとなりました。
伊藤雅雪、1位というにはいろいろ物足りないというか、質に不足あり、な挑戦者だったとはいえ、
ごくごく自然体でラフな行為を繰り返す「ややこしい」相手に、一切動じず、破綻なく勝ちました。
インファイト、と称して良いのかどうか迷うような闘いぶりを見せる相手に対し、
揉み合いでも負けず、右フック、アッパーを当て、ボディも叩き、そこから離れても、
距離感を乱さずにヒットを重ねる。全体的に安定感があり、なおかつ従来のセンスも生きている。
クリストファー・ディアス戦に続き、伊藤雅雪の成長ぶりが見えた試合でした。
挑戦者チュプラコフは、序盤に我々にはわからない脅威を伊藤から感じたのか、
単に技量不足かはわかりませんが、早々から、普通のボクシングの攻防において、
伊藤と渡り合うことが出来ずにいました。これが仮にも最上位の選手なのか、
アマチュア歴もけっこうあるとかいう話じゃなかったっけか...と首を傾げるばかり。
まあ、最上位とすんなり組んだのは、こういうことだったか、と思ってしまう、というか。
このカード、国内で済ますしか、持っていくとこなかったんやろうな、とまで
言っていいのかどうかは、とりあえず保留しますが...。
いろいろと、不足も感じる相手でしたが、伊藤雅雪は、難しいとされる初防衛を、
無難にクリアしました。まあ、初防衛云々というよりは、本人の言にもあるとおり、
さらなる飛躍を期すための通過点、と見るべきなのでしょう。
その意気や良し、というしかありません。頼もしい限りです。
国内での試合より、海外での活動を希望し、また実際、それが実現する情勢でもあるようで、
伊藤雅雪の「挑戦」の続きを、来年以降も応援したいものです。
==================================
試合順でいくとセミ、WBCバンタム級暫定王座決定戦は、
井上拓真がペッチ・CPフレッシュマートに3-0判定勝ち。
しかし皆様ご覧の通り...なのかどうかはわかりませんが、
会場で見た印象では、スコアの数字ほどの差は感じませんでした。
入場時から、ちょっと入れ込み過ぎかな、過去の試合ではこんなに
表情豊かではなかったなぁ、と見えた井上拓真でしたが、
案の定、長身で懐深いサウスポー、ペッチ相手に正対し、探りもなしに、
いきなり右から強振して入っていくという、らしくない立ち上がり。
当然ペッチは得意の右フックを引っ掛け、右アッパーも返す。
拓真がこれに右、左フックで応じ、早々に打撃戦ぽい様相。
拓真にとり、明らかに普段着とは違う、さりとて何事かを「考慮」した上での
「よそ行き」でもない、着の身着のまま、という出方。
これまでのどの試合でも、若さに似ず、冷静沈着、地に足の着いた印象だった
井上拓真とて、いざ「世界」とつけば、こんな試合をしてしまうのか。
実質は「世界上位とのランカー対決」止まりの試合に、余計な話を盛り付けたがために...
という繰り言も、心中に湧き上がってきた初回でした。
2回、拓真がそれでも外して当てる流れになりつつあったところでバッティング。
両者出血。3回、ペッチは負傷判定をも視野に入れている?と見えるほど、
割となりふり構わず、ポイントをかき集めに出ている印象。
右引っ掛け中心の、ずぼらなサウスポーという印象と違い、左もしっかり打ち込んで、連打も。
しかし4、5回は拓真が好調。ダック、スリップして外し、右から左を返す。
精度にはっきり差が見え、良い流れに乗った、と思ったのですが。
6回以降、はっきりと様子が変わったというか...切り替えと見るべきか、失速なのか。
会場で見ていると、捌く型にシフトしたのはわかるのですが、足を使って回るが安定せず、
動けずロープ際で止まったり、右から左を返すヒットも、力感がすっかり失せ、苦心惨憺、という風。
大柄なペッチに追い回され、左を食った7回、右のパンチに力感がない代わりに、
左にウェイトをためて左フックを好打した9回など、良し悪し両面でそれが見えました。
終盤は、苦しい展開から、動いて外す流れに徹したことが幸いしたか。
10回、ペッチが再三スイッチを繰り返し迫るが、右リターンから反撃。
11回もロープ際から三連打。12回は取られたが、判定は3-0。
数字は揃ったものの、ラウンドごとの採点はばらついていたようですが。
兄弟同時王者、という報じられ方は、まあそういうものとして見過ごすとして、
東洋で世界上位に長いペッチ相手に、かなり苦しめられつつも振り切って勝った、
そう見れば、何も悪い試合ではありません。兄との比較云々もパスして言いますが。
ただ、立ち上がりの、いかにも無理がある攻め口は、いったい誰の主体的意思によるものだったのか。
まさか大橋会長の「インパクトのある試合を」という言葉に乗ったわけでもないでしょうが
(本人もそれは否定していましたし)、ならば何故、と不思議に思うところです。
この辺は、ひょっとしたら後日、何か語られることがあるのかもしれませんが。
==================================
またしても、生中継の枠から外されたセミセミ、拳四朗vsサウル・フアレスは、
3連続KO防衛中ということで、拳四朗のKO防衛が期待されましたが、判定でした。
試合始まって早々、挑戦者がリズムで頭を、上体を動かしているのを見て、
「あれ、ランクは低い(7位)けど、けっこう良い選手かも」と思いましたが、
その印象は、試合が終わるまで変わりませんでした。
頭の位置を変える動きが、リズムに乗っていて、それが防御のみならず、
攻撃動作、ジャブの戻りに合わせた踏み込みに直結するシーンもあり、
いつもなら槍衾のように左を突く拳四朗が、敢えて右から入ったシーンなどは、
ダイレクトを当てる自信がある、という反面、ジャブを控えた?判断だったのかな、と見えました。
しかし、その良く動く、打ちにくい標的を、拳四朗はよく捉え、当てていました。
ジャブも徐々に増え、右から左の返しなどで序盤を抑え、4回、フアレスが出てくると、
右カウンター、アッパー、左右ボディで捉える。フアレス後退の動きが目につく。
5回からの中盤は、ジャブが増え、切るような右ショート、6回も青コーナーに詰めて連打。
7回フアレス持ち直すも、8回粘って芯を外すフアレスを攻め立てる。
終盤4つも、もう少しボディが打てていれば、と思いましたが、着実に攻勢をかけ、ヒットを取る。
結局倒せませんでしたが、防御の質が落ちず、なおかつ消極的にはならないフアレスを
仕留められなかったのを、批判するには当たらないかな、とも思う試合でした。
全体としては、拳四朗の良さはかなり見えた試合でした。
これで早々に5度の防衛ですが、その実績に扱いが釣り合っていない、という部分も含め、
来年以降、どういう展望を描けるものかどうか。
京口紘人が戴冠すれば...という期待をして良いものかどうか、ちょっとわかりませんが、
それこそアコスタやブドラーといった強豪を当てれば、その技巧がさらに光るであろう拳四朗には、
単なる防衛戦以上の試合が用意されて然るべきだと思います。