ということで、今日は名古屋にて観戦してきました。
WBOフライ級タイトルマッチ、木村翔vs田中恒成戦は、
事前の期待以上に、双方が持てる力を出し切った、大激戦となりました。
TV放送はCBC、つまり中部地域のみ。関西では完全に放送の見込みなし。
関東ローカルは当日、深夜録画...と思っていたら、二日遅れだとか。
なにこの「いらん子」扱いは、と嘆くのも、正直、諦めの方が勝っています。
そういうことなんで、簡単に経過から。
とはいえ、終始目まぐるしく攻防が展開され、非常に密度の濃い12ラウンズで、
毎度の通り、まとまらない上に長くなります。自分で書く前からわかっております。
どうかご了承を。
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初回、木村翔は両ガードを高く上げて構え、前進しようとするが、
田中恒成はあまり足を使わず、最初からパンチの交換に応じる。
左ジャブから、小さいフック気味、アッパー気味の左を交えて崩し、右クロス。
対する木村は、その前後に右から左フックの返しをヒット。ボディも攻める。
立ち上がりから、探り合いはほぼ無しで、いきなり「持ち手」を見せ合う。
こらまた、えらい試合に当たったぞ、という感じ。
もちろん、それを期待して見に来たわけではありますが。
初回、ポイントは迷ったが、ヒットは互いにあり、田中はジャブをよく当てていたが、
大きなパンチのヒットは木村か?
この辺は、スタンド席からなので、TVや見る場所によって、違うかも、と思うところです。
いきなり盛り上がった初回ですが、2回はそれ以上。
田中が速い左から右ヒット。木村返すがミス。田中ペースかと思いきや、木村右から左フック。
田中が少し下がる。しかし打ち合いで田中が左フックを合わせ、今後は木村がぐらつく。
田中追撃、ボディを攻める。木村も返す。田中の回。
序盤から、田中は左ボディを中心に、意識して木村のボディを攻めている印象。
長丁場になることを想定して、木村の粘る力を削ごうという狙いか。
3回、田中の左が多彩。ワンツー、コンパクトな右。木村左ダブル、ボディ連打。
田中のヒットが上回る。4回、田中左フックヒット、右も小さいのを当てる。
5回、木村手数を増やし、左右ボディ連打から、上にフックの連打を飛ばす。
田中は左ボディを決めるが、木村が手数で取る。
6回、田中が少しサイドステップを踏み始める。悪くはないが疲れもあるか?
木村が果敢に出て、ボディから攻め、攻勢。木村。
7回、両者ボディブローの打ち合い。田中の右が好打するが、木村打ち返す。
最後の方で、田中スリップダウン。互いにヒットがあった直後。ちょっと微妙。
両者間断なく攻めて守って、の繰り返し。
両者なかなか譲らない、意地の張り合い。速いパンチのヒットで田中か。
8回、田中の右左右のスリーパンチ。動いて足で外そうとするが、
木村も執拗に追い、ヒットあり。田中。
9回、木村の右目周辺、けっこう腫れている。田中が左をよく当てているせいか。
田中少しスピード落ち加減?ながらワンツー、右。木村出るが外される回数が増える。
田中回り込んで、またスリーパンチ。田中。
さすがの木村も、そろそろ参ってくるころか、と思いながら見ていましたが、
10回、木村が左右ボディ、右のボディストレートで攻め立てる。
田中、少し止まっていたが、外して右ヒット。ちょっと迷う回、やや木村?
11回、両者、頭つけての打ち合い。驚いたことに、田中の方が押している。
ここで打ち勝たないといけない方の木村が、時に下がり、回る。
速い左を数多く当てられ、ボディも打たれ、さすがに堪えたか...と見えたが、
田中の速い連打に対し、なお打ち返す。田中。
最終回、田中が外して、捌いて終われば勝ち、と思っていたら、またひと山。
間断なく打ち合った両者、疲労困憊ながら、ファイターである木村の方が押され気味な
終盤の展開から、田中が押し切るかと思いきや、木村が最後の最後に奮起する。
両者いきなり、右ダイレクトを相打ち気味に応酬。
木村の右の軌道が鋭い。田中は上体が倒れている。
身体を逃がして、というよりも、疲れから?と見える。
この相打ちを3度、4度と繰り返し、場内騒然となる中、木村がボディ攻撃。
田中、数回に渡って攻め込まれ、足が完全に止まる。
減量苦に悩まされたミニマム級時代に、何度か見た光景。
まさか、ここに来て逆転か?と思ったほどですが、何とか打ち返して試合終了、でした。
採点は114-114が一人、あとは115-113、116-112で田中。
私の採点は、木田田田、木木田田、田木田木、というところ。
迷った回も含めてですが、田中勝利は問題なし、というのが、会場スタンド席からの印象でした。
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それにしても、両者ともに、持てる力を全て出し切った、物凄い試合でした。
見終えて、何よりもまず、両者に惜しみない拍手を、と思った次第、です。
木村翔は、調整期間の短さが厳しいところだったでしょうが、
高く掲げた両ガードを押し立てて、執拗に前進し、田中恒成の速いパンチに対抗。
左ジャブを防ぎきることは難しくても、追撃の右や、左フックの返しは、
かなりの回数をブロックして、腕にバウンドさせつつ、攻め返す。
しかし、攻撃面では、執拗なアタックも結果的に、田中を捉え、仕留めるには至らず。
これは田中恒成が、意外に足を使わず、速い連打で攻めてくるという選択をし、
それがかなりの部分、奏功した、という面がありました。
また、序盤の好機の際、田中が上に追撃を狙い、詰めようというより、
ボディを打って、木村の反発力を削ごうとした、その効果もあったと思います。
しかし、それでもなお、最終回にあの攻勢を見せるのだから、一言、畏るべし、です。
激しく、厳しい闘いの中で、見ているこちらとしては、何度、感嘆させられたかしれません。
もうええ加減、参ってしまって不思議ない、と思う場面でも、
彼の闘志は衰えず、その姿は最後まで、勇猛果敢としか言えないものでした。
私が一昨年に見たとき、木村翔が、これほど攻防ともに厚みのある、
一級品のファイターになるとは、まったく想像できませんでした。
まあ、元々、人より見る目があるわけでもないですが、
それでも改めて、木村翔に脱帽し、拍手したいと思います。
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そして、田中恒成。こちらは試合開始早々から、思った以上に足を使わず、
木村翔のパワーや手数に対し、捌くのでなく、スピードと切れで打ち勝とう、という風に見えました。
タイプとしては、動いて外して、ポイントアウトを狙うべきはずの田中ですが、
先手で、一度か二度はどこかで叩いておいて、その上で捌く、という闘い方ではなく、
思った以上に、打ち合って勝とうとしているように見える時間帯が、長くありました。
セコンドがどういう指示をしていたものか、会場ではわかりませんでしたが、
結局のところは、田中恒成本人の意志があっての「敢えてこそ」の選択だったのでしょう。
その分、かなり被弾もしたし、木村を完全に打ち崩すとはいかなかったものの、
速くて切れ、鋭く多彩な攻撃は、勝利を掴むに充分なものだった、と見えました。
その闘いぶりは、もちろん地元だから、というのもありましょうが、
場内から途切れることない歓声(と、悲鳴も)を引き出し続けました。
そのただ中に身を置いて、試合を見終えて思ったことは、
この人は、理よりも情が勝つ天才なのだな、ということでした。
試合後のインタビューでも、木村翔の調整期間について言及し、
たった今、下したばかりの相手を、自分より上に置くような言葉さえ発する。
自身の才能に対して、本当に誇りを持っているからこそ、
対する相手についてもまた、敬意を払う言葉が出てくる。
何も、ボクシングに限った話ではなく、どのような世界においても、
「本物」とは、そういう心のありようを、当然、自然のこととして、持っているものです。
真に誇り高い「天才」だからこそ、自分の目指すものの価値を、誰よりも強く信じているからこそ、
その闘いぶりや言葉が、時に多くの理解を得られない部分もあるかもしれません。
世代的にも、そのボクサーとしての経歴からも、井上尚弥に次ぐ「新時代の旗手」と見える
田中恒成ですが、同時に、どこか今時やないな、肩肘張って生きてるなあ、とも感じていました。
そして、今日の試合を直に見て、その印象が、思いが、はっきりと確信に変わったような気がします。
その心のありようが、彼の、ボクサー田中恒成の今後を見るとき、
必ずしも正しく、良い方向にのみ働くのかというと、そうではないのかも知れません。
何よりも、優勝劣敗、酷薄無情の世界、それがボクシングです。
時には情を捨て、光を追わずに立ち回ることが、正しい選択とされることもあるでしょう。
それをわかった上で、それでも、今日の田中恒成(と木村翔)のように、
誇りうる勝利を追い求め、持てる力の全てを出し切って闘って見せてくれる、
そんなボクサーの姿こそ、私たちの求めるものではないでしょうか。
まあ、あれやこれやと、常日頃、賢しらに書き綴っている身で、勝手この上なし、ですが。
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今日は、見終えて本当に、心が満ちた観戦でした。
見たいと思うものを、充分過ぎるほどに、しっかりと見せてもらえた。そんな試合でした。
改めて、両者に拍手、そして感謝、です。
※動画をご紹介。
数日、或いは一日で消します。お早めに。
※他に海外に配信されたもの?などが複数あるようですので、
そちらに貼り替えておきます。
場内音声のみのですが、これはこれで良いものですね。