フジテレビのゴールデン生中継、井上尚弥vs佐野友樹の一戦と共に
村田諒太のプロテスト実技試験が取り上げられていました。
相手は前・日本ミドル級チャンピオン佐々木左之介でした。
あの湯場忠志を真っ向勝負でノックアウトした、ハイテンポなアタッカーです。
キャリアが短いまま王座に就いたので、防御面で不安があり、
そこを強打の胡朋宏に突かれて初防衛戦で陥落しましたが、
先手を取る展開で、リズミカルに攻め込むスタイルを生かせれば、
まだまだ若いし、今後の成長が見込めそうな素材です。
しかし、この日のスパーリングの話をいつ頃聞いたのかは知りませんが、
まあまあ好調そうに見えた佐々木は、最初から最後まで、ワンサイドに打ち込まれてしまいました。
やれプロ仕様だ、スタイルがどうだ、と、中継番組のスタジオでは
あまり実のない話が飛び交っていましたけど、終わったあとに
誰もが理解した通り、要するにこのスパーリングは、村田諒太がどのくらい強いか、
強く見えるか、だけが問題なのであり、その答えは誰の目にも明らかだった。
簡単に言えばそういうことだと思います。
むしろ、この選手に「テスト」を課して、合格だなんだとやっていること自体、
茶番とまでは言いませんが、無意味なことだとしか感じません。
そもそも「プロテスト」なんて、やっている国の方が珍しいんじゃないですかね。
選手を試合に出すのに、その試合に相応しいかどうかの判断は、
その選手のマネージャーが下すもので、コミッションに「プロになっていいかどうか」を
判断してもらう、という古臭い習慣自体、何だろうな、と思っています。
まして五輪の金メダリスト様相手に、何を今更、と可笑しくさえありました。
さて、村田のプロ転向にあたっては、昨年一部のジムが「契約金いくらで」なんて
出せるのか出せないのかわからんような金額を出し、スポーツ新聞に取り上げてもらって
その後何もなし、という、これまたいかにも古臭い顛末がありました。
しかし今回、実際に実現した転向の経緯は、まあそれぞれに受け取り方はあるんでしょうけど、
私は、おお、こういうのはちょっと良いかも、と思えるものでした。
何よりも、プロのジムとの関係性が、従来のそれとは大きく異なっています。
様々な「出資者」が、アマチュアの世界的トップ選手を支援するシンジケートを組み、
そのマネージメントの元、プロモーターと契約を交わし、プロとして活動する、という形は
欧米におけるアマチュア有力選手のプロ転向と、極めて似通った形です。
村田の場合は、広告代理店とTV局の支援の元、三迫ジムと帝拳ジムが契約、という形らしいです。
TV局との関係では三迫ジムの名義が優先され、海外での練習や試合(?)では
帝拳の持つコネクションが活用される、という話ですね。
選手との契約関係を未だに「入門」と称し、悪くすれば独善的なマネジメントを行ってきた
クラブ・ジム制度の旧弊からすれば、アマチュアの優秀な人材を受け入れる際に、
そのキャリアを成功に導くことを第一義に、ジムの垣根を越えての協力体制が築かれた、
というのは、実に画期的なことです。
そして、その要因となったのは、村田諒太の金メダル獲得という実績と、圧倒的な知名度、人気であり、
彼はプロデビュー戦を闘うまでもなく、ボクシング業界において、新たな地平を拓いたのではないか。
大げさに言えば、そんな風に感じています。
佐々木左之介と正対しての攻防で、まるで城門を打ち破る「破城鎚」のように繰り出される
左右の強打を見ながら、リングの内外において、破格の存在価値を持つこのミドル級ボクサーは、
これからも眼前の敵を打ち破るだけでなく、日本におけるボクシングが抱える様々な旧弊をも
力ずくで打ち破って行ってくれるのではないか。そんな、ちょっと筋違いかもしれない期待をしてしまっています。
最後に、その姿をこれからも腰を据えて伝えていく、と意気込みを見せたTV局の話ですが、
何でも先の生中継番組は、視聴率が低かったらしいですね。6.9%、ですか。
まあ色々と要因はあるのでしょうが、今後、村田以上に「試される」のは、番組出演者の皆様かも知れません。
私はスタジオでのトーク部分はちらほらと見た程度なのですけど、タレントさんについては
ジムへ取材に行ったり、選手とも話をしたり、けっこう力入れてはるんやなぁ、と思いました。
ことに佐野友樹へのインタビューと紹介映像は、なかなか良かったですね。
佐野の熱いコメントを引き出した、というと褒めすぎかもしれませんが、
あのような形で、ボクサーの熱情がもっと紹介されるべきだ、と常々思っていますので。
これはいかん、と思ったのは、居並ぶ元世界王者諸氏を、いわゆる「ひな壇芸人」みたいに
大勢並べていたことですね。もちろん、それぞれに世界のトップボクサーとして活躍した方々ですが、
コメンタリーとしての技量は、それとは当然無関係です。
自身の経験した、余人には計り知れない、世界の頂点での闘いを、感覚でしか言葉に出来ない人は、
それがいかなる有名俳優であれ、最多防衛記録保持者であれ、起用すべきではないでしょう。
ざっと見た感じ、場の空気を読める人、噛み砕いた解説...をしようという意志がある人、
そしてミドル級唯一の世界王者経験者も加えて、全部で3人いれば充分、と思いました。
これ以上は、ボクシングというスポーツの緊迫感を考えれば、視聴者の意識が散漫になるだけ、ですね。
そのあたり、奇をてらわずに、むしろ今回の発想よりはもっと地道な雰囲気で、
それこそ「腰を据えて」ボクシングそのものを伝えよう、という形を目指した方が、
長い目で見て良いことの方が多いような気がします。