さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

求める勝利の形はそれぞれだが リゴンドー、ドネアを下す

2013-04-14 21:08:31 | 海外ボクシング

いわゆる、スペクタクルな試合にはなりませんでしたが、
それでも両者の凄みが、それぞれの形で表現された試合ではありました。
初回の攻防があまりにも濃密だったので、これはとんでもない試合になるか、と思ったら、
残念ながら竜頭蛇尾...と思っていたら、終盤、二転三転しましたが。


初回、ドネアはリゴンドーに対し「回る」のでなく、リゴンドーに回られていました。
両者は互いに、接近した位置での攻防。足を使うにせよ極めて小さいステップで対応。
リゴンドーの左、ドネア一発打たれ、次外す。すると長く速いのが来て、また食う。
連打の応酬の後、打ち終わりを打ち終えたつもりのドネアに、さらにリターンの左。
ドネアは右を外して、身体を折る前のリゴンドーに左フックのカウンターも、浅い。

これらの攻防を「詰めた」状態、リングを狭く使った攻防で繰り広げる両者でしたが、
この初回、後で思えばリゴンドーが、ある程度彼なりに「無理」をしてでも狙って取ったのだ、と感じました。
リゴンドーが受け身、相手の手を待って対応する形で試合を進めるには、
単に引くだけでなく、先制点、ポイントのリードが必要だ、という戦略だったのかも知れないと。

対するドネアは、相手が「対応」の際しか、前方にベクトルを向けないので、
左に旋回して左フックを叩く形ではなく、前に出て追う形で闘いました。
しかし柔軟で速いリゴンドー相手に、ジャブを出しにくかったようで、ボディ攻撃も数が少ない。
単発でヒットを取る機会もありましたが、リゴンドーのリターンも必ず来る。
これはドネアに悪く回っていると感じました。


そして中盤以降、リゴンドーはさらに待ちの姿勢で、ドネアの仕掛けに応じません。
採点でリードしていると確信し、挽回を図る相手に、右回りの足捌きで対応。
ジャブでタッチ、速い左ストレート、単発のヒットを受けると即座にリターンで相殺。
その足裁きが、時に身体を横に向けるものになり、場内からはブーイングも。

気づけば、初回の濃密な攻防は、すっかり薄味なものになっていました。

もちろん、何もルール違反をしているでなし、自分の思い通りにドネアほどの強敵を捌く、
リゴンドーの技量は大したものです。
傍目には逃げに見えるリゴンドーのサイドステップも、相対するドネアにしてみれば、
まさしく眼前から相手が消えるように見えるのでしょう。それはまさに神技なのかもしれません。

しかし、その技量故に、或いは初回の濃密な攻防の見事さ故に、
自分の才能を、技量を、より攻撃的な形、明確な形での勝利を求める方向で発揮しようとしない
リゴンドーの姿を見て、この男は一体、何を求めて祖国を離れ、プロのリングに身を投じたのだろう?と
根本的なところで不思議に思った、というのが正直なところでした。

率直に言って、アマチュアのリングで、それが五輪でも世界選手権でも、出る大会全部優勝して当たり前、
という圧倒的な実績と技量を誇ったリゴンドーは、その技量を12ラウンズの闘いに希釈しているだけではないのか。

プロのリングで、フライ級から4階級に渡って、強敵相手に、常に見る者の期待に応え、
時には期待以上のスペクタクルを提供することも再三ある、ノニト・ドネアとの一戦が、
何故これだけの注目を集める大試合となるのか、その所以を意に介さないこの闘いぶり。

私の目には彼の思惑通り、中盤まで明白なリゴンドー優勢に見えました。
しかし、果たして実際に下される判定が、その思惑に沿ったものになるとも限らないのではないか?
そんなことも心の片隅に思いながら、終盤に試合は進みました。


10回、打ち合いのアクションが終わった、と思ったリゴンドーにドネアの左フック。
苦闘の中にあっても、小さく足を踏み換えて叩き付けた一発で、リゴンドーが尻餅。
ダメージはないが、ドネアの攻勢が強まる。あとふたつ抑えたら、万が一があるのかも?と見えましたが、
最終回、勢い込んで攻めるドネアの出鼻に、見事に合わせたリゴンドーの左。
右目に異常を感じて反撃の手が緩んだドネアの、勝利の可能性がここで完全に消えたと見ました。


勝敗に関しては何の異議もない試合でした。
私の思う以上に採点は競っていて、ラストふたつをドネアが抑えていれば結果は逆だったようです。
その可能性は最終回、リゴンドーの左一撃で打ち砕かれたわけです。
ドネアは自分のミス、失策だったと語っていましたが、あの展開で、あの左を打たれることは
ミスと言うより致し方ないことでしょう。
別にバッティングなどのトラブルが起こったでなく、正当なパンチで勝利を決定づけたリゴンドーを
責める理屈など、何一つ思い浮かびません。しかし。


有り体に、バカがつくほど正直な気持ちを、以下に書きます。

この試合に私が見たかったものは、結局初回3分に全て凝縮されていたような気がします。
それ以降に起こったことは、事前の想像の範囲の中で、あまり望んでいなかったことがほとんど、でした。

試合を見終えて、一体自分は、何を求めてボクシングを見ているのかな、とぼんやり考えたりもしました。
結局、私はどちらが強いのかを見たいのであり、どちらが優秀であるかには興味がない観戦者なのかも知れません。
そして、ボクサーも人それぞれ、求める勝利の形は違うのだなぁ、と。


優勝劣敗の掟に従い、勝者となったギジェルモ・リゴンドーに対して、何も興味を失ったわけではありません。
プロモーター的目線(嫌な物の見方ですが)で見たとき、果たして軽量級最強と目される相手を下してなお、
彼の行く先に、その勝利に相応しい栄誉や対価があるのかどうか、ということも含め、
彼の今後に、一定以上の興味を持って、これからの彼の試合を見続けるでしょう。

しかし、どうしても彼の存在感が、ノニト・ドネア以上のものになったとも、私には思えません。
少なくとも、今後も彼の試合を熱心に追いかけて見よう、という気持ちは、
はっきりと、リゴンドーに対するそれを上回っています。

そして、再戦してどうこう、ということとはまた別に、彼らの今後と、その対比もまた、
見続けるに値する、興味深いものではないか、という気がしますね。


コメント (11)
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