今回の試合に関しては、よく組んだもんやなー、というのが正直な感想でした。
デビュー三戦目で、佐野友樹ですからね。いくらなんでも大変なんやないのと。
まして、本当に全国ネットで生中継です。関西じゃ放送されないのかと思っていたのですが。
こんな「舞台設定」、いくらなんでも井上尚弥に負担がかかりすぎじゃないかなと。
ここでもし、佐野に敗れでもしたら、色んな意味で大変じゃなかろうか、
もっと弱い相手でもいいから、今は試合の数を積み上げて、強いのとやるのは
早くても来年くらいからでいいんじゃないか、と、まあ色々と心配していました。
今日の試合内容と結果が、どの程度TV局の思惑に沿ったものかどうかはわかりません。
個人的には、デビュー三戦目のボクサーが闘う試合としては、過去に類例のないほどに濃密で、
井上にとって非常に有意義な試合だったと感じました。
試合前から傷めていたのか、試合中に傷めたのか知りませんが、序盤のうちから、
いつも以上に左の比率が多いな、これは右痛いのかな、とは思いました。
しかし2回、4回にダウンを奪い、中盤以降佐野の抵抗にあっても、多彩な左で突き放し、
ボディを打ち、フックで叩く。右の強打が出なくても、左だけで場内を沸かせること再三。
単に左の多彩さや、攻撃の厚みがあるというだけでなく、苦境にあっても実に冷静でした。
才能にかまけた凡百の天才気取りとは、次元の違うボクサーなのだと改めて思いました。
佐野友樹は、序盤スピードとパワーに圧倒されていましたが、出血にもめげず、
終盤は右クロスのタイミングが掴めたのかと見える場面もあり、健闘しました。
思わぬ形でクローズアップされた今回の試合でしたが、相手が悪かったですね。
ただ、最終回のストップは若干、疑問に思いはしました。
ワンサイドで最終回、少し反撃の手が止まった佐野、止められても仕方ない...
という理屈が揃うのを、あのレフェリーは待ち構えていたように見えました。
それはお前の色眼鏡だと言われればそれまでですが、優劣が逆だったら、あんな裁定しますかね?
今日の試合は、井上尚弥のレコードに、むしろ誇りうる判定勝利として残るべき試合だった、と
ひいき目なしにそう思います。何かオールKOの記録を守ろうという意図が見えた気がしました。
まあ、根拠など何もない、印象の話でしかないですが。
それはさておいて、井上尚弥、やっぱり凄いなと、そこは素直に思います。
簡単には試合を捨てない、粘り強い相手に対し、負傷による苦境を抱えているはずが、
全然そういう風に見えない。焦りも揺らぎも恐怖心も、傍目に全然伝わってこない。
それは彼の持つ実力と共に、ボクシングというものを「上手くいって元々」的な、
安易な発想で捉えていないということの証なのだと感じました。
単に速い、強い、というだけではない。あらゆる意味で、やはり驚異の新人です。
今日の試合は、序盤に鮮やかに倒すような試合以上に、価値のある試合でした。
ただ、そういう逸材だからこそ、過去にもあれこれくどくど書いたように、心配事もあります。
次は田口良一とのタイトルマッチになるんでしょうか。
個人的には、やはり急ぎ過ぎは良くない、試合の場数を踏む段階では、と思いますが、
もう、そういう方向で何もかもが動き出してしまっているのでしょうね。
右拳の具合も含め、出来れば陣営には、より慎重な舵取りをお願いしたいものでありますが...。