非国民通信

ノーモア・コイズミ

東京に通勤できるだけの街

2024-01-14 21:58:45 | 社会

 過去に何度か自分の住んでいる地域のことを書いてきたわけですが、私が暮らしているような「東京へのギリギリ通勤圏」を個人的に「ギリ圏」と呼んでいます。端的に言えば通勤時間は長くなるものの都心の会社に通えなくはない、そして「都内に通勤できる」という以外に魅力が「ない」ために不動産価格は比較的抑えられている、そんな地域です。

参考、(東京への)ギリ(ギリ通勤)圏のリアル

   (東京への)ギリ(ギリ通勤)圏のリアル 其の二

 この「都内に通勤できる以外に魅力がない」というのが重要なポイントで、もし生活面でも便利な地域となってしまいますと相応に不動産価格も上がってしまう、庶民には手の出せない土地になってしまうジレンマがあります。職場にも近くて徒歩圏で生活が成り立つような本物の都会に住めるのは財を築いたエリートか極小狭隘な借家で暮らす単身者ばかり、一方「東京に通勤できるだけの街」ならば若い夫婦でも何とか家を建てることが出来るようで、私の住む地域はどこも子供で一杯です。

 鉄道空白地帯で寂れていた街が、都心に直結する路線が開業した途端に若い夫婦の流入が急増、それを首長が「子育て支援策の成果だ」と胸を張ることもあります。ただ子育て支援策なんてのはどこの自治体も力を入れているところで、同じ市内でも栄えているのは都心へと続く駅の周辺ばかりであることを鑑みれば、何が重要であったかは言うまでもないでしょう。都内の会社へ通勤するためのルートがあるかどうか、郊外の自治体にはそれが生命線なのです。

 東京ディズニーランド、新東京国際空港、株式会社新東京、新東京サーキット、新東京病院、東京ベイ信用金庫、東京ドイツ村……東京が自ら輝く太陽ならば千葉は月であり、それこそが千葉県のアイデンティティでもあります。千葉そのものに魅力はなくとも東京の隣に位置し、東京に足を伸ばすことが出来る、これぞ千葉の魂であると言って差し支えないでしょう。そんな千葉都民達の住む街ですが、昨年の暮れから一つ大きな問題が持ち上がっていたりします。

 

【速報】JR京葉線、朝夕夜の快速を廃止 各駅停車に変更、通勤快速は全廃 来年3月のダイヤ改正 コロナからの回復鈍く(千葉日報)

 JR千葉支社は15日、来年3月16日のダイヤ改正で京葉線の快速を朝夕夜間帯は各駅停車に変更すると発表した。通勤快速は廃止する。外房線、内房線に直通する電車も京葉線区間は各駅停車に変更する。日中帯(午前10時~午後3時台)は従来通り。

 同支社によると、管内の路線のうち京葉線は新型コロナ禍で減少した乗客の回復が鈍く、コロナ前と比べて2~3割ほど少ない状況が続いている。一方で、朝夕の快速は混雑状態となっていることから、各駅停車に乗客を分散させることで利便性向上を図る。

 

 JRの判断には疑問を抱かざるを得ないことばかりですけれど、とはいえ乗降客数を最も正確に把握しているのはJR自身でしょうから、そのJRが乗客数を分散させるために効果的というのであれば、恐らく計算上は正しいのだと思います。快速通過駅の周辺にも利用者が多いとなれば恩恵を受ける人も少なくないと推測されるダイヤ改正ですが、しかるに千葉市以南、千葉市以東の自治体から猛反発を食らっているとか。

 

参考、通勤快速がなくなる? 24年春JR京葉線ダイヤ改正 関連記事一覧(千葉日報)

 

 反対派の筆頭は千葉県知事の熊谷で、この人は感情的に気に入らないことに噛み付くばかりなので真面目に相手をしない方が良いのではと思わないでもありませんけれど、まぁ京葉線快速の利用ありきで都内の会社へ遠距離通勤してきた人にとっては通勤時間が大きく伸びてしまう、死活問題にもなっているわけです。「東京に通勤できる」という一点に依存してきた街が多いだけに、ダイヤ改正で東京への通勤が困難になれば価値を失ってしまう、それはギリ圏の自治体にとって絶対に避けたい事態なのでしょう。

 ただ都心部へ直結する路線ともなれば放っておいても沿線人口は増加していくもの、京葉線の快速通過駅もまた需要が多く、JRからすれば遠距離通勤者の事情だけを考慮してもいられないものとも思われます。結局のところ遠距離通勤者と快速通過駅の利用者、どちらの利便性を高めていくかという綱引きでしかなく、一方を重んじれば他方が不便を被る、JRからすると「何もしない」ことが最も非難を浴びない方法であったのかも知れません。

 快速を減らせば遠距離通勤者が、快速を増やせば通過駅の沿線住民が、それぞれ困るわけでJRに解決できるものは限られています。政府や自治体が金を出して快速も各駅もまとめて増便するのはどうだろうを私などは考えるところですが、緊縮バカが支配する日本の政治にそれは望めそうもありません。公共交通機関に独立採算を求めている以上、民間企業であるJRは営利を追って減便にも走る、そうなると根本的に政治が悪いのではないか、とも考えられます。政治が金を出さないのが悪い、そして千葉の都市計画にも問題があったのでは、と。

 日本全体で人口減少が続く中、千葉県は希少な人口を維持できている自治体です。それは即ち「東京に通勤できる」という唯一にして最大の魅力に牽引されてきたものですが、この危うさは今回の京葉線のダイヤ改正で浮き彫りになったように思います。住宅以外に何もない街でも都心へ直結する路線があるだけで転入増が続いてきた、しかし快速が減って通勤時間が延びれば、それだけのことで地域が価値を失ってしまう、こんなモノカルチャー的な自治体運営に甘んじてきた市政や県政の失敗もまた顧みられるべきではないでしょうか。

 もちろん市や県に出来ることは限られている、「国」の旗振りもまた必要です。東京区部のキャパシティが明らかに限界を迎えている中では、一極集中から多極化への積極的な舵取りもあってしかるべきでしょう。つまり都心に全てを集約するのではなく、各地に核を作る、それを政治主導で半強制的に行っていくことです。千葉にも真っ当な就職先があれば、無理に東京まで通勤する必要はない、千葉県内で都内の企業と同等の賃金が得られるのであれば、こうした遠距離通勤問題だって起こらないはずです。

 職は東京に在り、都心への距離が街の価値を決めているのが現状ですけれど、これが維持されている限り今回の京葉線ダイヤ改正のようなジレンマは続きます。都心だけではなく周辺の県にも通勤先があれば、無理に東京まで出て行く必要はありません。真っ当な就職先が都内に集中しているからこそ遠路はるばる県をまたいで移動せざるを得ない人もいるのであって、その移動手段を論じるだけでは片手落ちでしょう。根本的な解決は、東京一極集中の解消にあります。

 そもそもリモートワークを標準として不必要な通勤をなくせば、遠距離通勤問題も緩和できるはずです。しかるに新型コロナウィルスの流行で得た成果を日本社会は惜しげもなく手放し、旧態依然とした出社前提の業務形態へと退行を続けています。JRに快速の本数を維持せよと迫るよりも前に、会社組織の合理化=リモート化を強制していくことも必要なのではないでしょうか。東京一極集中と出社勤務を堅持したままでいる限り、根本的な問題解決はあり得ません。

 そこで私から「東京を少しだけ不便にする」という政策を提案します。具体的には「23区内での自家用車の利用を禁止する」「23区内の事業所の通勤者数に制限を設ける(上限を超えた出社は不可とする)」等々いかがでしょうか。相対的に他の地域が制約のない特区になることで、「東京に通勤可能」であること以外の魅力が生まれるわけです。都心部に制約を設け、周辺地域への分散を促し、各県内に中核都市を造って日本を多極化していく、そんな新時代の日本列島改造論が今こそ必要であると私は宣言します。

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 なお、この辺の話は今回の被災地を巡る議論にも繋がるところあり、それは次のタイミングで書きます。

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