非国民通信

ノーモア・コイズミ

政府の介入が必要な段階に来ているのは確かだが

2013-11-12 22:55:19 | 雇用・経済

「限定正社員」で火花=賃金上げでは一致―政労使(時事通信)

 政府、労働界、経済界の代表が10日、NHKの番組で「限定正社員」の雇用ルールをめぐって火花を散らした。「限定正社員」は、正規労働者並みの待遇を維持しながら、地域や労働時間を限定する新制度として、6月に政府が取りまとめた成長戦略に盛り込まれた。

 政府の甘利明経済再生担当相は「正規と非正規の二者択一ではなく、『この時間、この場所で正規並みの待遇で働きたい』というニーズがかなりある。多様な働き方ができる環境を整備したい」と理解を求めた。

 これに対して労働界の古賀伸明連合会長は、企業が社員を解雇しやすくなる新たな仕組みにつながる懸念を示した上で「労使で話し合うべきであり、国が一律に制度として確立するものではない」と指摘。経済界の宮原耕治経団連副会長も「企業にとっても多様な働き方、多様な社員がいるのは非常に重要だ」としながらも、古賀氏に同調し、政府の役割は環境づくりにとどめるべきだとの認識を示した。 

 

 やっぱり、連合は自民党政府よりは経団連の方にメンタリティが近いんだろうなと、改めて認識させられる一幕です。政府の賃上げ要請という、まぁ口頭レベルで強制力を伴わない代物ではありますが前政権時代にはとうてい望めなかった動きがある中、一貫して自民党政府の動きに異議を唱えてきたのが連合で、その主張は「労使で話し合うべき」すなわち「政府は口を出すな」というものだったわけです。もっとも、連合の望み通りに労使での話し合いに任されてきた民主党政権時代に誇れるような成果が僅かなりともあったのか、連合の幹部には胸に手を当てて考えて欲しいものです。

参考、誰が音頭を取ろうと賃上げとは良いものだ――が、連合にとっては違うらしい

 こうした連合の姿勢は経団連サイドとしても好ましいだけに、当然ながら(連合サイドに)同調の姿勢を見せているところ、まぁ連合にとって最重要なのは民主党の勝利であり、民主党と選挙で――ただし国政に限る――競合する自民党とは組めない、むしろ乳繰りあいを続けてきた経営側との方が馴染みやすいものなのかも知れません。そして連合と経団連、労使でプロレスごっこを演じてきた結果として昨今の労働者の置かれた地位があるわけです。労働者にとって、連合とは別の何か、「労使で話し合う」以外の新たな道が必要だろうと感じる有権者が増えたとしても、少しも驚くには値しないと言えます。

参考、「普通」の働き方

 ……で、「限定正社員」云々については上記リンク先でも書きましたが、「限定~」という「留保付正社員」と「限定~」が付かない留保なしの「正社員」という枠組みでは、せいぜいが旧来の一般職/総合職に近い位置づけにしかならない、概ね「限定正社員」は定年まで「働かない」ことを前提とした女性限定の採用窓口ぐらいにしかならないであろうと予想されます。「正規と非正規の二者択一」を解消し、「この時間、この場所で正規並みの待遇で働きたい」とのニーズに応えようとする方向性自体は正しいものと言えますが、その手段として「留保付き正社員」が有効かどうかは大いに疑わしいです。

 留保なしの「正社員」という「普通」の枠外に留保付きの「限定正社員」を設けるのではなく、例外としての「無限定正社員」を設けた方が目的には適うことでしょう。例えばフランスには「カードル」と呼ばれる労働時間の規制適用を除外されるエリート層がいます。日本なら公務員の「キャリア層」に近いでしょうか、幹部候補生として出世コースが用意されている代わりに激務が求められる「普通ではない」働き方もあるわけです。ところが日本では男性正社員には軒並み「カードル」的な働き方が押しつけられる、時間も勤務地も職種も雇用側の思うがままの働き方を強いられる、にも関わらず出世できるのは一握り、頭角を現せないまま年齢を重ねると「無能な中高年」とレッテルを貼られて退職を迫られたり、「若者のため」云々と掲げる論者から誹謗中傷されたりする――これが日本における「普通の」すなわち留保なしの「正社員」だったりします。

 人口減少に向かう時代、率いるべき後進は減っていくのが当たり前の時代です。出世するのは一握りで十分、ならば無限定の働き方を求められるのは地位を以て報われる「一部の」人だけでもよさそうなものです。そこをカードルもしくはキャリア層、無限定の例外的な社員と位置づけ、「残り大勢」を留保なしの正社員=「普通」として勤務時間や勤務地、職種の面で労働者側の意向を尊重される形に持っていく必要があるでしょう。キャリア層のような働き方を「正社員」に要求し、その付随的なものとして「限定正社員」を設けてしまっては、甘利明経済再生担当相の語る「正規並みの待遇」が得られるのかどうか。限定正社員が「普通でない社員」として位置づけられている限り、その目指すところにたどり着ける日は果てしなく遠そうです。

 

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