Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

高度な手法の落とし穴

2007-12-27 23:42:08 | Weblog
久しぶりに大学に戻る。卒論の打ち合わせと,修士の学生たちの発表を聞くためだ。だが,AGFI が0.6とか0.7とかの SEM を用いたモデルが次々と発表されるのを聞いていると,いろいろ考えさせられる。どんな事情があるにせよ,生半可に「高度な手法」を使うことに,どんな意味があるのだろう・・・。

これは学生たちの責任というより,「高度な手法」を使えば「科学的」であるかのように思うステレオタイプに囚われた,大学という世界の問題だろう。ただし「高度な手法」自体には罪はない。それぞれ真っ当な要請を踏まえて開発されてきたのだから・・・。問題は,それを具体的な対象に適用する段になって,ペダンティズムが顔を出すことだ。

ペダンティズムの誘惑には誰しも屈しやすい。ぼく自身,他人のことを偉そうにはいえない。自分が指導する学生に,ここはもうちょっと「高度な手法」を使ったらどうか,などとつい口走ってしまう。それは論文を「見栄えよく」する戦略であるが,十分に理解しないで用いると,テクニカルな点で足をすくわれる危険がある。

回帰分析で決定係数が0.6~0.7でも問題はない(文句を言う人はいるだろうけど・・・)。だが,SEM の AGFI は,回帰係数における決定係数と意味が全く異なるはず。各手法には独自の発想があり,それに基づく作法がある。MBA とはいえ,「高度な手法」を使う以上それを理解しておく必要がある。さもなくば,もっと素朴な手法を積み上げていったほうが賢明だ。