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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

iPod とシティホテルの秘密

2007-12-14 23:50:00 | Weblog

久しぶりに電車のなかでビジネス雑誌を読む。東洋経済12/8号「 i はだからスゴイ! iPod に隠された謎」特集。記事によれば,最近のアップルの躍進の背景に,GAP やユニクロのような,SPA 型のビジネスモデルを構築したことがあるという。SPA = Speciality store retailer of Private label Apparel ・・・そうか,アップルはアパレル屋さんなのか・・・

アップルだけでなく,任天堂やノキアも,マーケティングとブランディングと R&D のみを自社で行い,製造は全て EMS (Electronic Manufacturing Service) 企業に任せる戦略をとっているという。アップルの場合はさらに,デザインは絶対外部に出さないという特徴がある。何を自社のなかに入れ,何を出すのかという「企業の境界」の設計において,こうした企業は頭脳と感覚だけの存在になろうというわけだ。

だが,携帯音楽オーディオでソニーやマイクロソフトなどが繰り出す攻撃をかわし続けることができる理由は,顧客の側にもある。なぜ顧客の心をかくも捉えて離さないのか。圧倒的なデザインの美しさ,図抜けたインターフェース,適正な価格,カルトの聖地たるショップ,iTunes による囲い込み・・・いろいろな説明が可能である。成功要因はそれら全部,という総花的説明では,たとえそれが真実でも,物足りない。

その後読んだ日経トレンディ12月号にも,「新iPod vs ライバルズ」という記事があった。そこに出ている製品批評を読む限り,ライバルたちはやはり苦戦しているようだ。こうしたことを,属性ベースの設計論でどこまで解釈できるだろうか。できない・・・といってしまうのは簡単だが,その努力はあっていいと思う。そして,どうしてもそれでは足りない部分が残ったとき,それが何であるかを論じるべきだろう。

ちなみに,面白かったのが,後半で特集された「シティホテル大波乱格付け」だ。主要都市の有名ホテルに実際に泊まって施設やサービスを体験的に観察するだけでなく,「無理難題」をいう。たとえば,深夜に名刺のコピーをとりたいとか,ルームサービスで(メニューにない)ナポリタンを持ってこいとか,香水がついたシャツから匂いをとってくれとか・・・もう少しまともな要求も含め,各ホテルのとった対応が記録されている。

その結果を見ると,東京でいえば,1泊6万円クラスのホテルはさすがに高いポイントを得ているものの,2~3万円クラスでは,料金とは関係なくばらついている。明日訪れる福岡はどうだろう・・・1泊4万円近い某ホテルと同レベルの評価のホテルが,1万円ちょっとのクラスにもある(もう少し早くこの記事を読むべきであった)。それにしても,こうした調査は楽しそうだなあ・・・サービス品質の参与観察型調査で全国行脚・・・いいねえ。


インフルエンサー幻想

2007-12-13 23:39:48 | Weblog
複雑ネットワークの情報伝播研究への応用についてレビュー。話題の一つが Journal of Consumer Research 最新号に掲載された Watts and Dodds の論文である。一言でいうと「インフルエンサー・マーケティング」批判。その効果が期待されたほどではないことを,シンプルなシミュレーションで示そうとする。今後,論争を起こすかもしれない。

仮に知人関係がスケールフリー・ネットワーク(SFN)だとしても,影響関係がそうなる保証はない。スモールワールド・ネットワーク(SWN)の提案者として,安易にSFNを仮定する風潮への苛立ちが透けて見える。影響力の高い人々(Influentials)をターゲットとして情報提供をする戦略は,SWNでは限られた条件のもとでしか特別な効果を持たない。

では(仮に)SFNだとどうなるか。一見,このときは有効のように見えるが「仔細に見ると」そうではない。このへんは,やや強引な面もある。彼らが使う評価指標は,マネジリアルな視点で妥当なのだろうか・・・。その点だけでいえば,先日JIMSで発表した自分の研究のほうがましなのでは・・・などと不遜にも思ってしまう。

彼らが,Influentials にばかり目を向けるべきでなく,ネットワークを全体として把握しないとダメだというのは,その通りだろう。それが,今後どのような研究戦略を導くのか・・・限られた情報のなかで,広範な消費者間ネットワークの性質をどう把握するのか・・・考えるべき課題は山積している。

夕方大学に戻り,JACSに向けた計算を始める。クラスタリングの仕方を変えたことで,少しは進歩したように思う。だが,本質的でない部分で変な結果が出たため,それへの対処でけっこう時間をとられてしまった。努力の割りには・・・と情けない気もするが,研究とはステップ関数,今後どこかでジャンプできれば,と思う。

本日届いた本

Irene C.L. Ng, The Pricing and Revenue Management of Services, Routledge

いつものことながら・・・

2007-12-11 23:15:20 | Weblog
授業で小テストの可能性を示唆したとたんに,学生たちが質問し始めた。やはり,この手を使うしかないのか・・・。

木曜のセミナーの準備を始めたが,こちらはこちらで大変なことになってきた・・・。

今日届いた本:

間瀬茂,Rプログラミングマニュアル,数理工学社 ・・・Rを使う準備だけは着々と・・・。それにしても字の小さな本だ。老眼鏡がそろそろ必要だ・・・。

甦らせるパワー

2007-12-10 20:38:10 | Weblog
金曜から土曜にかけての深夜,急にエラーが生じて動かなくなったカラープリンター。今日テクニカルセンターに電話をかけて,修理を依頼。「診るだけでも1万2千円しますが,いいいですか?」といわれて,念のために電源を入れ,印刷してみるとちゃんと動く。はー? ケチのパワーが機械を甦らせたのか・・・。

クラスタリングを,共同研究者の助言にしたがい類似度指標を変えてやり直すと,けっこういい具合に結果が変わった(ように思える)。何でそんなことに気づかなかったか・・・思い詰めると大事なことが見えなくなる。だから,コラボレーションが重要だということだ。一気に進めたいところだが,木曜のセミナーの準備もある・・・。

今日届いた本:

イアン・エアーズ,その数学が戦略を決める,文藝春秋 ・・・データ解析の現実への応用に関する面白そうなエッセイ。訳者が山形浩生氏であるから,タダモノではないと期待している。

新納浩幸,Rで学ぶクラスタ解析,オーム社 ・・・Rのテキストはできる限り買うようにしている。混合モデル(潜在クラス)や特異値分解など,狭義のクラスタリングを超えた内容も含む。

セオドア・レビット,T・レビット マーケティング論,ダイヤモンド社 ・・・マーケティングの古典といえばこれかなと。古典とは,いつか読まねばと思いつつ,いつまでも読まない本のことをいう。

三中信宏,系統樹思考の世界,講談社 ・・・先週土曜の行動計量シンポジウム@統数研での講演を聞いて,著者の博覧強記の世界に関心を持った。進化生物学における統計学は,ありきたりの統計学ではないようだ。

JIMS@成蹊大学

2007-12-09 19:16:51 | Weblog
昨日は,成蹊大学で開かれた日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)で,消費者間ネットワーク上でのクチコミ伝播特性に関する報告。複雑ネットワークに関するごくごく基礎の知識を補いながら話したため,分析結果を詳しく話す時間がなくなった。寝不足で,頭の回転が「いつにも増して」悪かったこともある。もはや若くないのだ。コメンテータは「いつものように」濱岡さん。実データを使ったシミュレーションや関係のダイナミクスについてコメントをいただく。

一方,ぼくがコメンテータの役割を任ぜられたのが,若い小野田さんの発表だ。膨大な量のスライドを見て最初は心配になったが,十分余裕を残して見事に時間内にフィニッシュ。彼は,ロングテール化した市場をレイヤーに分けてクラスタリングし,異なるレイヤーのクラスタ間を相関(連関)ルールでつなぐことを提案する。それによって,ヘッドからテールに至る階層化が可能なる。テーマといい,話しっぷりといい,若いエネルギーが満ちあふれていた。

懇親会と二次会では,学会のあり方などが話題になった。片平先生のいうように,使われる手法がここまで多様になると,みんな異なる島のやり方に口を挟まなくなる。少人数のセッションを同時並行で走らせ,専門と関心が近いどうしが集まるようにしたら,もっと議論が活発になるだろうが,お互いタコツボ化していく恐れもある。あるいは,テクニカルなことより,実務的含意をもっと議論することが考えられるが,それはそれで,研究の質を犠牲にするかもしれない。

幸いにも学会の運営に携わっているわけではないから,悩むことはない。個人的に面白いと思う学会や発表に出席すればよい。面白い発表とは何か・・・たとえば濱岡さんの発表は面白かった。Bassモデルをオープンソースソフトに適用し,得られた係数と社会ネットワーク特性が比較される。よき研究とは,綿々たる過去の研究の蓄積を踏まえながら,あるサプライズを加えることだと実感。他方,一見最先端の推定手法を使った研究だが,そうした装飾をそぎ落とすと何のことはないとか,根拠のない自己愛に満ちたものが,面白くない研究だ。

JIMSに相応しく痛飲した夜だった。さらにいえば,赤ワインをこぼして,お気に入りのシャツを台無しにしたのは痛い。今日ショップに行ってみたが,季節の違いか今年の傾向の違いか,似たようなシャツは置いていない。まあいい,次は今週のJACS・・・それが終わると,本格的なクリスマスの季節がやって来る・・・。

雑誌のやけ買い

2007-12-07 20:59:55 | Weblog
本日から新規の授業。離散的(あるいは確率的)選択モデルの基礎と応用を院生向けに講義する。他大学の非常勤では経験があるが,本務校では着任5年目にして初めての経験である。あまりに遅すぎたという気がしないでもないなあ…。初日の出席者は20人ほどか…みんな R か STATA を使えるという。

明日の JIMS での発表(およびコメント)を前にして資料の準備をしつつ,夕飯後は JACS の準備で夜を徹する覚悟。とはいったものの,明朝,車で東京へ向かうため,ほどほどにしておこう。それにしても時間がない。忘年会の誘いがないのは寂しいが,悩まずに済むので助かってもいる。

本屋で雑誌のやけ買い…

Motor Magazine 2008/1 「BMW 強さの秘密」「VWゴルフの新しい戦略」
Navi 2008/01 「いま買いか? 待ちか? それが問題だ!」
週刊東洋経済 2007/12/8 「i はだからスゴイ! iPodに隠された謎」
マネーポスト 2008/1 「お金の偽装を見抜け」

そして,内山幸樹『仮想世界に暮らす法』(講談社)も購入。ブルーバックスにしては薄めである(中身ではなく厚さが)。

統計ソフトを買う季節

2007-12-07 01:02:54 | Weblog
SPSS の新バージョンは,キャンペーン期間中にすでに申し込んだ。他に優れた統計ソフトがあったとしても,スウィッチングコストはかなり高い。その典型が JMP だろう。実は旧バージョンを「所有」しているものの,いまだ全く使用していない。こちらもバージョンアップのキャンペーン期間中であり,決断を迫られる。最近の OR/MS Today のレビューでも,GUI や使いやすさで高い評価を得ていた。

所有すれど使っていない統計ソフトは他にもある。まず,STATA だ・・・計量経済学系の幅広い手法に対応しており,経済学者の間では有名なようだ。同僚にも愛用者が何人かいる。選択モデル関連もカバーしているが,その点では,LINDEP のほうがより専門特化していそうだ。その上位ソフトとして,NLOGIT というものも出ている。選択モデルを教える身として買っておくべきか・・・。

潜在クラス分析の Latent Gold は選択モデルにも対応し,魅力を増しているが,毎年のライセンス更新を要求するようになった。ぼくの立場ではそれは困る。確かに SPSS もバージョンアップが頻繁にあって,毎年何やかやと支払っているから,同じことかもしれない・・・。節約したいなら,フリーウェアである R を使いこなせば済む話だが,それなら使い慣れた MATLAB で済ませる,という展開になってしまう。

今日,注文していた Logistic Regression Using The SAS System が届いた。再び SAS を使うためではなく,ロジスティック回帰について,貴重な情報が入った,なかなかいい参考書だからである。しかし,表紙を見た途端,これは以前に買ったことがあるのでは,という思いにとらわれた。書棚を探してみるが出てこない・・・明日から始まる,大学院のデータ解析の授業で必要なので,仮にどこかに埋もれていたとしても仕方がない。

経営の工学と科学と学

2007-12-06 03:24:22 | Weblog
1年生向けに,経営工学への誘い,のスピーチ。言いたかったことの第一は,経営工学なるものが(意外にも?)企業に期待されていること,そして実際役に立つ場面が少なくないことだ。いうまでもなく,工学的に解決できない問題は多々ある。そんなことは当たり前なので,むしろ経営工学の効用を強調したほうが生産的だ。

もう一つ言いたかったことで,うまく伝えられたかどうか自信がないのが,(狭義の)経営工学がそれ自体では完結しないことだ。最適化すべき目的関数や付随する制約条件を現実に即して組み立てるには,経営現象の科学的な把握(経営科学)が欠かせないし,実現すべき価値への深い洞察(経営学)も必要だということ。

ぼく自身が好む立場は,経営工学というより経営科学のほうに近い。経営工学が与えられた問題を的確に解くことを目指すとしたら,経営科学は現実から解くべき問題をいかに定式化するかに関心を持つ。何を問題にすべきかの方向性を与えるのが,本来あるべき経営学であろう。

余談として付け加えたのが,経営学徒と経済学者の「対話」である。経営学は,何らかの意味で優れた企業の実践から教訓を得ようとする。それに対して経済学者は,経営学者の努力でそうしたノウハウが行き渡ってしまえば,経営学者の仕事はなくなってしまうねと冷笑する。均衡までのわずかな間の宴に過ぎぬ・・・。この話は実話に一部修飾を加えたもの。

たしかに経営(工/科)学が「発見」する知識の寿命はさほど長くないこうが多い(経済学も似たようなところはあるが・・・)。だが,それでいいのだ。変転する世のなかで,永遠の真理ではなく当座役に立つ知識やノウハウを求め続ける。そんな生き方を愛する人こそ経営工学へ・・・。こんなメッセージで良かったのかなあ。

JIMSの準備は一段落,コメンテータにスライドを送付。明日は来週のJACSの準備・・・こちらはまだ山の頂きが見えない。一方,クルマ取材が年内にあるかもしれないという知らせに,ちょっと緊張する。経営の工学と科学と学の饗宴が続く・・・。

gooふざけんな!

2007-12-05 00:08:10 | Weblog
これまでも度々あったことだが,ブログをだらだら書いて,いざ保存しようとすると,もう一度ログインし直せという画面が表示される。そして,それまで書いてきた内容は保存されないまま消え失せる。こうしたことが起きるのは,深夜12時を過ぎた瞬間だ。セキュリティのためだか何だか知らないが,正直頭にくる。

やたらにメンテナンスが多いココログから移ってきたgooだが,そろそろ・・・かも・・・。他にどこかいいところはないものか・・・。

とにかく今日も・・・

2007-12-03 23:50:21 | Weblog
午前中会議。午後から今週始まる授業2コマの準備,修論打ち合わせ,そしてJIMSに向けたシミュレーションの結果をじっくり眺める・・・はい,やり直し! そこでJACSに向けた作業に転じ,クラスタリングのロジックの改訂作業。2台のPCで2つの計算を走らせたまま研究室を去る。結果は明日のお楽しみ。

2台のPCでMATLABが奮闘している。だが,このソフトも次のバージョンではプロテクトが厳しくなるようだ。複数のPCで同時実行することや,あちこちのPCで仕事をすることは,新たな契約では不可能になる。SPSSもそうだった。10万円はするソフトを一人でそう何本も買えないユーザには,辛い流れである。

美しいクルマ,そして旅宿

2007-12-02 23:48:16 | Weblog
大学に着いたのは2時過ぎ。乗車すべき駅と下車すべき駅で居眠りしてしまったことが一因だ。まず,学生たちがウェブ調査画面で見つけたバグを確認。ぼくが見つけた以上に見つけており偉い! そのあと原稿執筆と専攻説明会用パワポ作成・・・結局夜10時までかかる。今日もジムに行けないが Kurispy Kreme Doughnuts はしっかり食べる。

今週土曜と来週日曜,それぞれ別の学会で別のテーマの発表を行う。その準備は「もちろん」終わっていない(終わっていないどころか・・・)。ぼくは「祈る」研究者なのだ。つねにギリギリの状態で,何とかなってくれーと祈っている。これまで何とかなってきたが,だんだん「飛距離」が短くなってきた。

明後日から授業も始まる。これも祈りの対象だ。前田智徳は打席に立つとき「祈る」のだろうか・・・天才であり,鬼のような努力をする男は,最後に祈ることがあるのだろうか。江藤が去り,金本が去り,新井が去ったが,最も神に近い打者が残ったのだからどーってことはない・・・あららら,話があらぬ方向へ・・・。

今日買った本:

TITLE1月号「デザイン至上で選ぶ美しいクルマ、美しい旅宿。」

表紙はアウディR8だ。今年最高に美しいクルマはやはりR8なのか・・・。少しめくるとBMWの正規中古車(アプルードカー)の見開き広告があって,ヘッドラインが「たとえば、300万円くらいで人生を変えてみる。」・・・妙に薄暗いグラフィクスも合わせて,気になる広告だ。300万円は確かに「人生の分岐点」になるかもしれない。

美しいクルマは人生を変える。普通の人間は,フェラーリやランボルギーニに乗りたいとは思っていない。だが,もし乗る機会があったら認識は一変するのではないか・・・そして乗れば乗るほど,のめりこんでいくに違いない。それは富がもたらす罠である・・・。そういえば,この雑誌は「美しい旅宿」も特集していた。

複雑系再び

2007-12-01 09:31:46 | Weblog
昨日は,東京でいくつかのミーティングを経て,夜は消費者間相互作用研究会。秋山さんから,3つのテーマをお話いただく。人とコンピュータの取引実験で,人が相手を人だと認識するほど,また実際のプレイヤーが人であるほど,バブルが発生しやすい。人はコンピュータが合理的に振舞うとみなすが,実はコンピュータのほうが非合理的に振舞うという不均衡。そうした不均衡が持続するとしたら興味深い。

スモールワールド実験では,実際の友人間ネットワークがスモールワールド的なのに対して,その上でメッセージを伝達する場合に生じるネットワークはスケールフリー的になる。こうした乖離には,どうも人の他者に対する認知が絡んでいるようだ。最後の話題は,反復的な3人非ゼロサムゲームが起こす,戦略(遺伝子)の「開かれた進化」。ゲームは均衡に収束することなく,無限に進化していく。つまり,つねにより有利な戦略が生み出されるメカニズムがあるということだ。

「カオスの縁」の話を久しぶりに聞く。秩序とカオスの世界の臨界点にあり,そこで最も複雑なオートマトンが現れるという Crutchfield の研究。戦略が実数である2人ゲームからカオスの縁への収束を示した金子の研究。複雑系の研究についてしばらくきちんとフォローしていなかったが,その後も地下水脈は続いているようだ。複雑系と社会科学という,最近あまり聞かなくなった問題についても,再考する必要があるかもしれない。

今日の午後からは,統計数理研究所で開かれた行動計量シンポジウム「複雑系データの解析」を聴講。複雑ネットワーク,データ同化,進化の系統樹分析,人間関係のクラスタ分析・・・。最後に「ネットワーク分析の応用」という表題で,質問紙調査への数量化3類による分析が紹介された。社会は複雑系であり,ネットワークであるから,そのデータを解析する限りどんな手法を使おうと看板に偽りはない・・・?

面白かったのが,きちんと理解できたわけではないが,三中氏の系統学の話だ。氏は最倹約原理の意外な有効性を語る。それに対して白山氏が KISS (Keep It Simple Stupid) 原理に言及。また,指定討論者の樋口氏が,複雑ネットワークはカオスやフラクタルと同様,一時の流行で終わるのではないかと揶揄。それに対して白山氏が,今度は研究が絶えることなく続いている,物性物理などで実用的な貢献もあると反論。参加者が少なく寂しいシンポジウムだったが,刺激的な瞬間もあった。

統数研から麻布十番へ帰る道で,近道をしたつもりが逆に遠回りになってしまった。複雑系の迷路・・・しかし,歩き続けていれば,いつか目的地に到着する。