Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

複雑系再び

2007-12-01 09:31:46 | Weblog
昨日は,東京でいくつかのミーティングを経て,夜は消費者間相互作用研究会。秋山さんから,3つのテーマをお話いただく。人とコンピュータの取引実験で,人が相手を人だと認識するほど,また実際のプレイヤーが人であるほど,バブルが発生しやすい。人はコンピュータが合理的に振舞うとみなすが,実はコンピュータのほうが非合理的に振舞うという不均衡。そうした不均衡が持続するとしたら興味深い。

スモールワールド実験では,実際の友人間ネットワークがスモールワールド的なのに対して,その上でメッセージを伝達する場合に生じるネットワークはスケールフリー的になる。こうした乖離には,どうも人の他者に対する認知が絡んでいるようだ。最後の話題は,反復的な3人非ゼロサムゲームが起こす,戦略(遺伝子)の「開かれた進化」。ゲームは均衡に収束することなく,無限に進化していく。つまり,つねにより有利な戦略が生み出されるメカニズムがあるということだ。

「カオスの縁」の話を久しぶりに聞く。秩序とカオスの世界の臨界点にあり,そこで最も複雑なオートマトンが現れるという Crutchfield の研究。戦略が実数である2人ゲームからカオスの縁への収束を示した金子の研究。複雑系の研究についてしばらくきちんとフォローしていなかったが,その後も地下水脈は続いているようだ。複雑系と社会科学という,最近あまり聞かなくなった問題についても,再考する必要があるかもしれない。

今日の午後からは,統計数理研究所で開かれた行動計量シンポジウム「複雑系データの解析」を聴講。複雑ネットワーク,データ同化,進化の系統樹分析,人間関係のクラスタ分析・・・。最後に「ネットワーク分析の応用」という表題で,質問紙調査への数量化3類による分析が紹介された。社会は複雑系であり,ネットワークであるから,そのデータを解析する限りどんな手法を使おうと看板に偽りはない・・・?

面白かったのが,きちんと理解できたわけではないが,三中氏の系統学の話だ。氏は最倹約原理の意外な有効性を語る。それに対して白山氏が KISS (Keep It Simple Stupid) 原理に言及。また,指定討論者の樋口氏が,複雑ネットワークはカオスやフラクタルと同様,一時の流行で終わるのではないかと揶揄。それに対して白山氏が,今度は研究が絶えることなく続いている,物性物理などで実用的な貢献もあると反論。参加者が少なく寂しいシンポジウムだったが,刺激的な瞬間もあった。

統数研から麻布十番へ帰る道で,近道をしたつもりが逆に遠回りになってしまった。複雑系の迷路・・・しかし,歩き続けていれば,いつか目的地に到着する。