今日は、叔母のお見舞いに病院へ出かけた。
「健康が財産と思って細々と生きてきたけど、貧乏で病気になるとどうしようもないね」
とは、きつい言葉だった。
クアトロも身を粉にして働いているが、どうも税金が高くて困る。いざという時に還元されるのだろうか。
「お代官さま、殺生な」と叫びたくなる。 お見舞いの帰りには、スタミナ補給のため、トンカツ屋さんに入った。キャベツは食べ放題である。一生懸命キャベツを食べた。キャベツは素焼きの器に大盛りにされている。隣には、同じ焼き物の小鉢。どうやら、灰皿のようだ。間違って、取り分け皿に使う人もいるだろうにと、いらぬ心配。
映画「有頂天ホテル」でも同じような挿話。有頂天ホテルで、間違えて灰皿を取り分け皿に使ってしまったお客様があった。支配人は、そのお客様に恥じをかかせてはならじと、あわてて他のテーブルの灰皿を回収して、違う物と置き換える。
今日のトンカツ屋さんで、誰か間違わないかなとキョロキョロするクアトロの父だった。
今日は夏らしい日差しが戻った。夏向きワインを探して欲しいという、お客様の要望でピックアップしたのは、「ジュブレィ・シャンベルタン・アラン・コルシカ・セレクト」である。ラズベリーのような香りの奥に樽熟による複雑な風味を隠している。
熱さの和らいだ夕方のテラスで涼しい風でも迎えて、素敵な人と差し向かいでいただこうものなら最高である。が、現実には、そんなシチュエーションはなかなか難しい。せめてイメージをして楽しもう。
そもそもシャンベルタンとは、シャンベルタンという農夫が作ったワインをナポレオン皇帝が「めっちゃうまい」と言ったために有名になった。すると、そのあたり一帯の広い地域がシャンベルタン村になってしまい、みんながシャンベルタンという名前の付いたワインを作り出した。そして、珠玉混合の時代が続く。現在は、スーパー・ネゴシアンが現れ、数あるシャンベルタンの中から良いものを選び出す仕事をしている。
ようするに、ネゴシアン(酒商)の名前でワインを選ぶのが手堅いという話だ。クアトロの父が選んだのは、アラン・コルシアというネゴシアンのセレクトのもの。アラン・コルシア・セレクトと呼ばれ、彼の選んだものはシャンベルタンに限らず評価が高い。
さて、今晩にでも、ちょっと瞑想しながら味見してみますか。
黒板にその日仕入れた魚を書き出すのは、クアトロの父の仕事だ。魚の名前を書いていて、このところ気になるのが「平スズキ」だ。スズキは出世魚で、地方によって呼び名は変わるが、セイゴ・フッコ・スズキなどと出世していく。CMではないが、生きているだけで出世するのだからうらやましい。しかし、やっとスズキまで上り詰めたのに「平スズキ」とはかわいそうな気がするのである。黒板に名前を書くクアトロの父の目は潤みそうである。同類相哀れむというやつだろうか。
「平スズキ」は「スズキ」の仲間だが、種類が違う。「スズキ」より若干ひらたいのである。そこで「平スズキ」にされた訳である。ひらたいのならば、「スズキ鯛」にでもしてあげれば良かった。味わいも、鯛に似ている。刺身では、その味わいは「スズキ」より上等なのである。
「スズキ」も「ヒラスズキ」も夏場が美味しい。冬には、産卵で入り江に寄ってくるため漁獲が多いが、美味しいのは外洋で元気に成長する夏場である。海が荒れると磯に近寄ってくる「平スズキ」は、このところクアトロの黒板に登場する機会が多い。
※本日の魚料理
神津島産青鯛、鹿児島産平スズキ、神津島産イサキ、青森産メバル、銚子産馬頭鯛、銚子産マコガレイ、福島産ホッキ貝