Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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自己決定能力を失った患者さんの治療方針の決定 ―その変遷と2つの重要な疑問―

2023年12月26日 | 医学と医療
New Eng J Med誌最新号に,臨床倫理のオーソリティBernard Lo教授(UCSF)が重要な標題の課題について解説しています.私もLo教授の教科書で臨床倫理を勉強しました(当科では患者さんの自己決定能力の判定もこの教科書の基準により決めています).

解説の前半では治療の自己決定をめぐる考え方の変遷について紹介しています.重要な出来事は,延命治療の中止をめぐる「ナンシー・クルーザン事件」判決(1990)で,これを契機に代理意思決定のための厳格な要件が定められました.これは自動車事故後,植物状態になったナンシー・クルーザン(Nancy Cruzan 当時25歳)をめぐる事件で,両親は娘が植物状態で延命されることを望んでいなかったため,胃ろうによる治療を止めるよう裁判所に訴えたものの,患者による明確かつ説得力のある証拠がある場合に限り,家族が患者のために決定できるという判断が下されたものです.このあと事前指示書に関する法律が制定され,さらにアドバンス・ケア・プランニング,そしてPOLST日本版として臨床倫理学会のものが使いやすいです)という仕組みが行われるようになります.しかしこれらは実際にはうまく機能しなかったとLo教授は述べています.その理由として,患者は生命維持治療や自分の予後について予期困難な状況を推定しなければならないこと,代理人も特定のシナリオにおける患者の希望を正確に述べることが困難であること(患者の価値観や目標は,病気の悪化によって変化し,実現不可能な目標も出てくる),ACPも意思決定が患者の価値観や目標と一致する可能性が高まるわけでも,患者のQOLが向上するわけでもないこと,医師が患者や代理人と意思決定について話し合うことが可能であるにもかかわらず怠っていることなどが挙げられています.

解説の後半でLo教授は2つの重要な疑問について議論しています.
Q1)意思決定能力のない患者のために代理人が困難な決断を下す場合,臨床医はどのように手助けすればよいのだろうか?
→ Lo教授は「患者,代理人,医師の間で話し合い,代理人が後日,まさにその時が来たときに決断できるように準備すべきで,この事前の話し合いの目的は,コミュニケーションの改善と,代理人の心理的負担を軽減すること」と述べています.

Q2)代理人は愛する人のために意思決定をする際に,どのような基準を用いるべきであろうか?
上述のようにこれまで基準は実際に行ってみるとうまくいきませんでした.Lo教授は「すべての人には人生の物語があり,代理意思推定をする人は,これまで生きてきた患者に一致する『次の章を書く』べきです.進行したアルツハイマー病では,現在の患者は,以前の特定の価値観,希望,目標をもって暮らしてきた人とは根本的に異なっているかもしれない.・・・過去の希望だけでなく,その人の現在のニーズと満足を考慮する必要があります」と述べています.代理意思推定について,私は過去の患者の考えに一致することを重視してきましたが,過去と現在の双方を踏まえて考えるものだと学びました.
Lo B. Deciding for Patients Who Have Lost Decision-Making Capacity - Finding Common Ground in Medical Ethics. N Engl J Med. 2023 Dec 21;389(25):2309-2312.

Resolving Ethical Dilemmas(お勧めの教科書です.私は第2,第4版で勉強しましたが,現在,第6版です)

自己決定能力 5つの構成要素(CJDにおける病名告知:臨床倫理学会発表スライド


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