Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月22日)  

2021年05月22日 | 医学と医療
今回のキーワードは,異種混合ワクチンでは全身性副反応の頻度が高くなる,ワクチンに関連した神経学的合併症の評価は大規模研究が必要,ワクチン誘発性免疫性血小板減少症では迅速免疫測定法は行わない,症候の多様性は自己抗体の多様性で説明できる,脳炎の発症率は0.215%と低いが,発症すると死亡率は高い,パーキンソン病患者のCOVID-19感染と関連する因子です.

日本でも5月21日,モデルナ社およびアストラゼネカ社製のワクチンが新たに認可されました.ワクチンはおそらく定期的に接種する必要があり,ワクチンの供給等によっては,将来,異なるワクチンを接種するケースが出てくるかもしれません.そのような場合(異種混合ワクチン)の有効性と安全性を検証する研究がすでに開始されています.まずアストラゼネカ社とファイザー社のワクチンの組み合わせの安全性を検証した臨床試験(中間解析)が英国から報告されました.もうひとつの注目論文は,なぜCOVID-19がこれほど多様な症候を呈するのかを明らかにする研究として注目を集めたプレプリント論文の正式版が,いよいよNature誌に発表されました.

◆異種混合ワクチンでは全身性副反応の頻度が高くなる.
世界ではワクチン供給不足を緩和するために,異なる製薬会社製ワクチンの組み合わせによる異種混合のワクチン接種に大きな関心が寄せられている.さらにアストラゼネカ・ワクチンに対しては血栓症の報告もあり推奨レベルが変更されたことを受け,いくつかの国では,このワクチンで初回接種した人も,2回目は別のワクチン(例;ファイザー・ワクチン)を受けるべきとの勧告がなされた.しかし異種混合ワクチンの有効性や安全性に関するデータはない.今回,英国から,まず異種混合ワクチンの安全性に関する中間報告がなされた.具体的には28日の間隔を開けて,アストラゼネカ→アストラゼネカ,アストラゼネカ→ファイザー,ファイザー→アストラゼネカ,ファイザー→ファイザーの4つの組み合わせで,終了後7日間に,自己申告による局所および全身の副反応を調査した.この結果,異種混合ワクチンはいずれも,同種混合ワクチンに比べて全身性の副反応が多くなった.例えば発熱はアストラゼネカ→ファイザーで37/110人(34%)であるのに対し,アストラゼネカ→アストラゼネカは11/112人(10%)であった(差24%,95%CI 13~35%).またファイザー→アストラゼネカの発熱は47/114人(41%)であるのに対し,ファイザー→ファイザーは24/112(21%)であった(差は21%,95%CI 8-33%)(図1).悪寒,疲労,頭痛,関節痛,倦怠感,筋肉痛についても同様の増加が見られた.ただし入院に至る事例はなかった.以上より,異種混合ワクチンでは同種より全身性の副反応が増加した.なお,これらのデータは50歳以上の被検者の結果であり,若年層では反応がより強くなる可能性がある.
Lancet. May 12, 2021(doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01115-6)



◆ワクチンに関連した神経学的合併症の評価は大規模共同研究が必要である.
欧州神経学会は,COVID-19ワクチン接種後に発生した神経学的合併症の症例報告や小規模な症例集積研究を,機関誌European Journal of Neurology誌に掲載しないと発表した.欧州神経学会に加盟している国には,北アフリカや中東の関連国を含め,約10億人の人々がいる.そのうち80%がワクチン接種の対象となる可能性があることを考えると,ワクチンを接種してもしなくても,これからの3ヶ月の間になんからの神経疾患を発症する人は当然いる.重要なことは (i)ワクチン接種と起こりうる事象との間に因果関係があるか,(ii)その因果関係により,リスクとベネフィットの比率が変化するか,(iii)どのような要因が合併症を引き起こすのかを知ることである.しかし症例報告や小規模な症例集積研究では,これら3つの重要な疑問に答えることはできず,意義は乏しい.→ この問題は過去にも何度か触れたが,少なくとも医療者はワクチン後に発症した疾患を,安易にワクチンと結びつけることを慎むべきである.
Eur J Neurol. May 9, 2021(doi.org/10.1111/ene.14905)

◆ワクチン誘発性免疫性血小板減少症では,ヘパリン起因性血小板減少症で用いられる迅速免疫測定法は避ける.
アストラゼネカ・ワクチンの副反応として,11名の患者に血小板減少症を伴う血栓性合併症が報告された.自己免疫性のヘパリン誘発性血小板減少症に類似したこの症候群は,ワクチン誘発性免疫性血小板減少症(vaccine-induced thrombotic thrombocytopenia; VITT)と呼ばれるようになった.今回,フランスから抗体測定に関する研究が報告された.ワクチン接種後にVITTが疑われた9名の患者の血漿サンプルを検討した.ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の診断に広く用いられている2つの迅速免疫測定法(STic Expert HITおよびHemosIL AcuStar HIT-IgG)を用いて,血小板第4因子(PF4)特異的抗体を検出したところ,すべての患者で結果は陰性となった.一方,3種類のPF4特異的酵素結合免疫吸着法で検査したところ,有意なレベルのPF4に対するIgG抗体が検出されたのは,PF4-ポリ(ビニルスルホン酸)(PVS)複合体を抗原ターゲットとして用いたアッセイのみで,7名の患者で検出を認めた(図2).VITTの診断は7名全員において,PF4-セロトニン放出法により確認された.以上より,VITTが疑われる患者のPF4特異的抗体の検出は,迅速イムノアッセイは避け,感度の高い定量的な免疫学的検査を行うことが強く推奨される.
New Engl J Med. May 19, 2021(doi.org/10.1056/NEJMc2106383)



◆COVID-19の症候の多様性は自己抗体の多様性で説明できる.
昨年12月にプレプリントに報告され,大きな注目を集めた研究がいよいよNature誌に報告された.米国イェール大学にて,Rapid Extracellular Antigen Profiling(REAP)と呼ばれるハイスループット自己抗体発見技術が開発され,COVID-19患者および医療従事者194名のコホートを対象に,2770個の細胞外および分泌タンパク質(エクソプロテオーム)に対する自己抗体のスクリーニングが行われた.その結果,COVID-19患者は,非感染者に比べて自己抗体反応が劇的に増加しており,サイトカイン,ケモカイン,補体,細胞表面タンパク質などの免疫調節タンパク質に対する自己抗体が高い頻度で存在することが分かった(図3).



またこれらの自己抗体が,免疫受容体のシグナル伝達を阻害したり,末梢の免疫細胞の構成を変化させたりすることで,免疫機能を阻害し,ウイルス制御を損なうことが示された.これらの自己抗体のマウスのサロゲートが,SARS-CoV-2感染モデルマウスの疾患の重症度を悪化させることも示された.さらに自己抗体は,特定の臨床的特徴や疾患の重症度と関連することが明らかになった.具体的には,視床下部に発現するオレキシン受容体HCRTR2に対する自己抗体は,覚醒や食欲の調節に重要な役割を果たすオレキシンシグナルを阻害することが確認された.すなわちこの自己抗体は覚醒障害を引き起こす可能性があり,実際に図4のようにCOVID-19患者におけるHCRTR2 REAPスコアとGlasgow Coma Scaleスコアは弱い相関を示した(n=89,Spearman's ρ=-0.20,p=0.052;患者はクリニカルスコア(CS)で色分けされている).以上より,COVID-19の病態において,多様な自己抗体が免疫機能や臨床像に影響を及ぼす可能性が示唆された.またコロナ後遺症(long COVIDないしPost-COVID syndrome)も自己抗体によって生じている可能性も指摘された.
Nature. May 19, 2021.(doi.org/10.1038/s41586-021-03631-y)



◆脳炎の発症率は0.215%と低いが,発症すると死亡率は13.4%と高い.
COVID-19の合併症として脳炎を発症した患者の発生率,臨床経過,予後を明らかにすることを目的としたシステマティックレビュー,メタ解析がシンガポールから報告された.610 件の研究がスクリーニングされ,脳炎患者138 名を含む 12万9008名の患者が報告された23 件の研究が対象となった.COVID-19の診断から脳炎の発症までの平均期間は14.5日(範囲:10.8~18.2日)であった.脳炎の平均発生率は0.215%,平均死亡率は13.4%であった.以上より,脳炎はCOVID-19の合併症としてはまれであるが,発症した場合には高い死亡率をもたらすことが分かった.
Eur J Neurol. May 13, 2021(doi.org/10.1111/ene.14913)

◆パーキンソン病患者のCOVID-19感染と関連する因子.
パーキンソン病(PD)患者におけるCOVID-19発症の関連因子を系統的に検討することを目的としたシステマティックレビューがペルーから報告された.6件の研究(症例対照研究4件,横断研究2件)が対象となった.COVID-19と関連する因子として,肥満(オッズ比(OR):1.79),あらゆる肺疾患(OR:1.92),COVID-19患者との接触(OR:41. 77),ビタミンD接種(OR:0.50),入院(OR:11.78),死亡(OR:11.23)を認めた.COVID-19と高血圧,糖尿病,心疾患,がん,認知機能障害,認知症,慢性閉塞性肺疾患,腎疾患,肝疾患,喫煙,振戦との間には有意な関連は認めなかった.メタ解析は方法論的に困難であったが,上記の結果は,今後の対策に有用と考えられる.
Eur J Neurol. May 13, 2021(doi.org/10.1111/ene.14912)






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