Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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機能性運動失調の診かた

2024年03月20日 | 機能性神経障害
機能性神経障害(functional neurological disorders; FND)の症候学の理解は非常に重要です.その理由として,①パンデミック以降,ワクチン接種後や感染後にFNDを呈する症例が顕著に増加したこと,②器質性神経疾患でもしばしばFNDを合併し,臨床像を複雑にしていることが少なからずあることが挙げられます.FNDは運動麻痺や感覚障害,運動異常症などさまざまな症候を呈します.器質性疾患の症候と異なる特徴的なパターンを示すため,その知識さえあれば,診察だけでかなりFNDの診断に迫ることができるようになります.

FNDのひとつ,機能性運動失調の頻度・特徴について検討した研究がParkinsonism Relat Disord誌に報告されました.FNDについてはいろいろ勉強しましたが,機能性運動失調の文献はほとんど眼にしたことがなく,興味深く読みました.サンパウロ連邦大学の運動失調症部門に,2008年から2022年まで入院した1350人のうち,機能性運動失調と診断された患者を検討しました.頻度は13名(1%)と少なく,全例女性,年齢は34.8歳でした.6名(46.2%)が精神疾患を合併し,7名(53.8%)に誘因を認めました.症候学的には,歩行におけるstride(連続する二歩の合計の長さ)とbase(歩行時の足の配置の幅)がばらばら(100%),"ハァハァ息を切らして歩く(huffing and puffing)"(30.7%),膝がガクッとなる歩行(knee buckling)(30.7%),ムダな動きの多い非効率的な姿勢(uneconomic posture)(38.5%),綱渡り歩行(23%),震える歩行(trembling gait)(15.4%)を認めました.さらに引きずり歩行(dragging gait)やUターン時のすくみ足,過剰な遅い動き(excessive slowness),動きの漸増・漸減(waxing and waning)もみられました.驚くべきことに,転倒は1例も認めませんでした.予後はさまざまでしたが,53.8%は治療を受けていないにもかかわらず,完全または部分的に回復しました.

以上,機能性運動失調はまれであること,そしてその特徴的な症候が分かりました.診断については他のFNDと同様,どれか1つの症候から診断するのではなく,複数の所見を見出す努力をし,問診も含めて総合的に判断することが大切です.
Corazza LA, et al. Functional ataxia in a specialized ataxia center. Parkinsonism Relat Disord. 2024 Mar;120:106006.(doi.org/10.1016/j.parkreldis.2024.106006)



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