Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳卒中トランスレーショナル・リサーチの成功のために何が必要か?@国際脳卒中学会2017

2017年02月24日 | 脳血管障害
国際脳卒中学会2017@ヒューストンに参加した.目的は私どもが報告したミクログリア細胞療法に対する意見を聞くこと(Sci Rep. 2017),そして学会前日に開催された創薬研究に関するシンポジウムに参加することであった.このシンポジウムのタイトルは,"Bridge Over Troubled Water "であった.ご存知,サイモン&ガーファンクルの代表曲である.歌詞に「Like a Bridge over troubled water, I will lay me down」つまり,大切な人の身にふりかかる苦難を,荒れ狂う流れに例えて,僕はそこにかかる橋になろう(君はそこを渡って行けばいい)という自己犠牲と励ましの歌といえる.このタイトルを用いたのは,脳卒中の創薬研究の現状は「荒れ狂う流れ」であり,そこに「いかに橋を渡して」基礎研究を臨床応用につなげるかという意味である.このテーマをもとに5人の基礎・臨床の研究者が講演を行ったが,全体を通して重要と指摘されたことを以下に列挙する.脳卒中では,ここまで行わねば,動物モデルで得た知見をヒトに応用できないということにたどりついたわけである.脳卒中以外の研究領域にも大きな教訓になるのではないかと思う.

【前臨床試験の信頼度を上げる】
・治療を目指す脳卒中の病型(脳梗塞であれば塞栓症,血栓症,小血管病)に合致した動物モデルを選択する.
・複数の動物モデルで,薬剤の効果を確認する.
・一過性虚血モデルと永久虚血モデルの両者で,薬剤の効果を確認する.
・オスとメスで,薬剤の効果・副作用を確認する(女性のみ副作用が出現し,臨床試験中止になった薬剤が複数ある).投与数をそのままにすると,オスメス各群Nが半分になり検出力が落ちるが,統計は2 way-ANOVAを用いて全例を組み込む.
・複数の研究室で,薬剤の効果を確認する.
・培養細胞の低酸素・低糖刺激(OGD)は,細胞の種類により反応が異なるため,脳梗塞の病態を直接反映するものではないことを認識する.
・実験の再現性の向上のため,STAIR(stroke treatment academic roundtable),RIGOR,CAMARADESといった勧告に則った研究を行なう.実験デザイン,手技,解析についての透明性を向上する(下記文献を参照).
・サンプルサイズ推定,ランダム化,盲検化,予め定めたinclusion/exclusion criteriaを記載する.
・単に「統計学的に有意である」を超えた強力な効果を示す治療を見出す.
・出版バイアスを認識する(良い結果のみ論文になり,効果が強調されやすい.効果がないという論文は,脳虚血実験において全体のわずか2%).

【動物実験と臨床試験のあいだのgapを埋めるためのヒト試料の利用】

・Rodent are not little men!(げっ歯類は小さな人ではない.進化の過程では7500万年も前に分かれている)
・げっ歯類とヒトでは,代謝,サイズ,心拍出量,白質体積,神経発達,寿命,高次認知機能,免疫システムなどさまざまな違いがある.
・さらにヒトには高次の皮質機能があること,共存症(高血圧,糖尿病,高脂血症,加齢,認知障害,喫煙,アルコール)があること,治療開始までの遅れがあることも異なる.
・衝撃的な例として,脳出血3日目に病変に集まる細胞の種類が,ヒトとげっ歯類では異なっていることも示された.
・このため,ヒトの試料で,薬剤の効果を確認すべき.ヒトとげっ歯類の両方の試料をもちいて研究をすすめる.
・マウスは細胞特異的ノックアウト,光遺伝学,キメラ,欠失などヒトで検討できないことができる.
・ヒトの研究で見出した知見をさらに動物モデルで検証(機能解析,治療効果確認)する(Reverse translation, From bed to bench side).
・げっ歯類の検討で見出した標的分子が,実際にヒトの脳で発現するか?薬剤がヒト細胞でも目的とするpathwayに効果を及ぼすか?を確認する.
・最終的にはげっ歯類ではなくヒトにおいて,薬剤の用量,薬理動態,治療可能時間を検討することを認識する.
・ヒト試料としては,末梢血,尿,便,iPS由来神経細胞・アストロサイト・ミクログリア,髄液,神経画像(分子MRI,機能画像,PETを含む),病理標本,凍結脳がある.

【参考文献】
Landis SC et al. A call for transparent reporting to optimize the predictive value of preclinical research. Nature. 2012 Oct 11;490(7419):187-91.

Maric-Bilkan C, et al. Report of the National Heart, Lung, and Blood Institute Working Group on Sex Differences Research in Cardiovascular Disease. Hypertension. 2016 May;67(5):802-7.

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