Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多系統萎縮症におけるfloppy epiglottisに対する口腔内装置治療の開発

2022年03月31日 | 脊髄小脳変性症
多系統萎縮症(MSA)は重篤な睡眠関連呼吸障害(SRBD)をしばしば呈する疾患です.CPAPによる治療を行いますが,ある時を境にして,急にCPAPが苦しくなり継続できなくなることがあります.その場合,floppy epiglottis(喉頭軟化症)が生じた可能性があります.喉頭蓋の支持が脆弱となり,CPAPの陽圧が喉頭蓋を気道奥に押し込んでしまい,上気道狭窄による睡眠時無呼吸の増悪,最悪の場合は窒息を招きます.この現象は2011年に初めて報告させていただきましたが(Neurology. 2011;76(21):1841-2),問題はCPAPが使用できなくなると治療の選択肢が気管切開術しかなくなることです.多くの患者さんや先生方から他の選択肢についてご質問をいただきましたが,何も示すことができずにおりました.



ただ喉頭蓋につづく舌骨喉頭蓋靭帯の付着点である舌骨を前方移動させることでfloppy epiglottisを解除できることに気付き,新潟大学歯学部口腔外科の三上俊彦先生,小林正治 教授らと共同研究を行ってまいりました.下顎を少しずつ前方に移動させるような2ピースタイプの上下分離型口腔内装置を用いて,徐々に舌骨を前方に移動させると,PSGで評価するSRBDを改善できることを3症例の症例集積研究として示しました.具体的には,2症例では無呼吸低呼吸指数(AHI)と覚醒指数(ArI)が改善しました.一方,3例目は無呼吸指数(AI)とCT90は改善しましたが,AHIとArIは上昇しました.副作用は一過性の顎関節の違和感,咬筋の痛み,歯の違和感のみで軽度でした.
以上より,今後のさらなる評価が必要ですが,下顎前方移動を可能とする分離型口腔内装置は,floppy epiglottis を呈するMSA-P患者に対して有用な治療介入となる可能性を示しました.
Mikami T, Kobayashi T, Hasebe D, Ohshima Y, Takahashi T, Shimohata T. Oral appliance therapy for obstructive sleep apnea in multiple system atrophy with floppy epiglottis: a case series of three patients. Sleep Breath. 2022 Mar 29.(doi.org/10.1007/s11325-022-02607-0)





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