Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

やっぱりガダニーニだ

2020-06-22 | 
放送で聴いた通りベルチャ四重奏団は実力があった。人気は分からない。ドルトムントのフライヤーにあったように東欧を逆に売り物にしている。これは英国を本拠地とする四重奏団の伝統かも知れない。先ず思い当たるのはチリンギアン四重奏団などが比較的有名だった。アマデウスの弟子筋のようで、アルマニア系というのでハチャトリアンなどと同じだろうか。ベルチャの場合はルーマニア系で確かにあの周辺の人の音楽性などに共通するものがある。今調べるとバーゼルでもグシュタートでも弾いていたようだ。

楽器はなにかガダニーニ風の音がしていたがその割にはよく鳴っていた。名前から風貌から何か分厚そうで押しの強い音が出ると思っていたが、確かにそうした傾向もあり乍もそれこそ東方ユダヤ系の厭らしさが出るようなそれが留まっている。室内楽奏者とソリストとはまた異なるので、四重奏団としてそこが完成している。創立メムバーとされるこれまた東欧のヴィオラ奏者チョルツェフスキーのサポートが見事で、アルバンベルク四重奏のココシュカを思い起こさせるが、その職人的な合奏芸術以上に重要な音楽的主張になっていると思った。この人がいなければここまで成功していなかっただろう。今後もこの人がいなくなると駄目かもしれないと思わせる。因みに楽器はアマティーを使っているようだ。もしかするとベルチャもアマティーかも知れない。調べてみると、ガダニーニ1755であって、やはり勘違いさせるほど良く鳴らしている。

ベルチャのお蔭でなくて彼のお蔭で第二ヴァイオリンの形も出来ている。チェロも室内楽らしく面白いチェロ奏者で、胴音とならないところで上手にコントロールされていて、この二人の掛け合いを聴いているとボロディン四重奏団などのリズム的な張りを思い出した。とても微妙なのは作品によるシステム間の和声関係だけでなくて、息の合わせ方で、ベルチャの歌い方が微妙に様式を形作るようにしているのは下支えと掛け合いがあるからで、まさに弦楽四重奏というのはそのように書かれているのである。

そうした掛け合いの妙という事ではアルバンベルク四重奏団よりもよい。なるほどラサール四重奏団やらアルテミス四重奏団のような合理性や精妙さとは異なるのだが、そこが面白いところで微妙なのだ。そもそも第一ヴァイオリンの節回しを其の侭第二ヴァイオリンが呼応することは可能でも、木霊なら木霊でその効果というものが目されていて、実際には音楽的な呼応がなされているので、まさしく受け渡しの仕方だけなのだ。コピーのエラーよりも対話による発展がその要旨であることを考えれば、どんなに拙い節回しでさえそれを複製再生して行くというのが如何に詰まらないことになるかは至極当然の摂理でさえある。なるほど若い四重奏団などがコンクールに出ればそこまでの受け渡しなどが出来る筈も無く綺麗にシームレスで仕上げて行くしか方法はないのである。しかし、プロの一流のそれも超一流となればそれだけではお話しにならない。

今回は二回のコンサートで「セリオーゾ」と「大フーガ付き」の二曲しか演奏しなかった。そして、前者は大きな喝采を受けていたのだが、最後の曲は受けが悪かった。理由は分からない。ドルトムントの聴者は前支配人スタムパがどれだけ人々を育てたかは分からないが、程度はアルテオパーやバーデンバーデンなどからすると大分落ちる。よく分からないようにスタンディングオヴェーションをする。先のN響客演時のそれや地元紙の批評などを読んでいれば如何にその程度が低いかが分かる。

なるほど「セリオーゾ」は音響的に圧倒だった。エマーソン四重奏団やジュリアードのものと比較しても多様性としてもその劇性もさることながら音響的に豊かさが見事だった。なるほど分かり易い。最初の動機だけで会場の空気が変わり聴衆が息をのんだ。一体それまではなにだったのかと思わせた。

しかしフーガ付きの見事さはある水準以上の演奏を体験すると更に奥が出てきてしまって、また実際に重要な動機やその意味合いを巡って行ってと後期の四重奏曲への大きな視座が啓けてくる。そうなるとどれが如何とは中々言えなくなってくるのだ。ある水準の演奏に達すると余計に作品と聴者の間での論議が演奏実践を通じて為されていくというのに等しい。(続く



参照:
大司教区からのお達し 2020-06-21 | 生活
ドルトムントに電話する 2019-05-17 | 生活

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