Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

歳月を重ねて熟成するとは

2009-12-07 | ワイン
フォン・シューベルト醸造所の古い葡萄の木から造ってある遅摘みクラスのリースリングを開ける。2008年産の特徴の分厚い酸が天然酵母の甘みで丸くなっていて、アルコール化する段階で十分に残した甘みや、苦味を放つ青スレートのミネラル風味と三つ巴の味のバランスとなっている。アルコール度も谷のワインとしては11パーセントと適当なのであるが、その醸造の方向から細い肢体をコルセットやパッドで補っているようなアンバランスがある。現時点では残糖感もあり、ブックリと短身で下膨れでどうみても見栄えが悪い。天然酵母であるから酵母臭も強いが、緑色の瓶やエチケットの風情そのものに、痩躯で小粒なりに味や旨味を放っている。

客観的に採点すれば、同じ地所から出来たアプツベルク2007年キャビネットの秀逸さに比べて、水太りしているような印象は却って隠されている苦みを不愉快なものとするだけでなく、クラシックな端正な佇まいもなく、高級ワインには不似合いな田舎臭さを醸し出している。モーゼルを代表する醸造所である甘口のプリュムと比べるとその酵母臭は変わらないが、硫黄香が少ないのは偏に辛口醸造の利点であろう。またそれ故に香りを求められる辛口リースリングの醸造の難しさを物語っている。その差は天然酵母の味質として現われていて、2008年産のあまりにも大雑把でもたもたしたリースリングの印象は、醸造上の弱点が顕著に出た感じである。やはりこの醸造所のリースリングは、甘口よりも辛口であり、良い年度はシュペートレーゼよりもカビネットに本領を発揮するに違いない。

そして酸化による味の変化は極端であり、高級ワインに求められる堅牢さに欠けるようで、恐らく歴史的な還元醸造法の弊害が其処に出ているのだろう。しかし、アプツベルクの地所自体の潜在能力は大変高いことは伺われ、かえすがえすも残念である。同時に、如何にモーゼル流域で辛口リースリングを清潔に綺麗に醸造することが難しいかが知れる。飲み頃までに思いを馳せると、二三年経って落ち着きが出る頃に、丁度残糖感も消えて、酵母の丸みに旨味が備わってくるだろうか?

逆に、天然酵母を使った醸造では最初から清潔さに欠ける為、最初に酸が立っている事で清涼感を得られても、それが消える夏以降はどうしても鈍い印象の新酒となる。おそらく千リットルのフーダー木樽のブレンドによって最終的な味付けをしている様にみられるが、天然酵母の管理の難しさから樽による差がかなりあるように思われ、それがキュヴェーとして混ぜ合わされるので上のようなバランスの悪さとして現れているのかもしれない。そのように早飲みに適さない醸造法であるとともに、最初からそうした繊細な味覚が欠けているものだから経年変化もあまり感じられないのも事実だろう。その意味から、現在の高級ワインに求められているものが欠如しているのは否めない。一本13ユーロの価値は専門家が設定した適正価格である。

その適正価格に大きな疑問符が付くのが最高級醸造所とも呼ばれたロベールト・ヴァイルである。2004年産グレーフェンベルクのシュペートレーゼ辛口を開けた。先月開けた十五年物の半甘口の程度が分かったので、これも残して置く価値はないと判断した。要するに物知り顔の面々が言うような熟成を期待出来るようなリースリングではないことが判明したからだ。現在のグランクリュは収穫量を落として木樽で熟成させてあるので改善された筈だが、価値が価格について行っているだろうか?なるほど熟成感が出難いのは流石であり、ルーヴァーのそれとは違って体格も良く、雑食砂岩のそれにあるような脆さの微塵も無い。しかし、ワインは長持ちするから偉大なのでは決してない。要するに熟成の変化を長い期間愉しませてくれる事が重要なのである。こちらは、天然酵母ならず培養酵母をもう少し選択出来るのではないだろうか。だから、加糖して酸を効かしたナーへやモーゼルの辛口のリースリングには何の価値もない。それを宇宙船に積み込んで土星旅行にでも出かけるならば話は別であるが。

偉大なリースリングとは、甘口であれ辛口であれ熟成と言われる大変緩やかな酸化によって、年輪を重ねる潜在能力があることであって、その変化が愉しめないのでは意味がない。何時までも皺がないコラーゲンを注入した整形美人のようなものである。



参照:
連休もグリュンハウス
長旅直後もなんのその!グリュンハウスのアルテ・レーベン 2008 (ワイン大好き~ラブワインな日々~)
さしものアルテ・レーベンも
カランドリエにて (新・緑家のリースリング日記)
ドイツ旅行記2009年9月(9/24:第5日目その3) (DTDな日々)
熟成したリースリングって、美味(^^) フリッツ・ハーク (ワインベーストビュー)
真直ぐに焼け焦げた軌道 2009-09-29 | 試飲百景

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2 コメント

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昨晩も飲みました (ラブワイン)
2009-12-07 16:16:49
ワイン会の教材として持って行きました。仲間には評判良かったですよ、これ。
ただ私的にもこの5ヶ月で何本か飲んでますが、いつもちょっとずつ味が違う感じで落ち着けない。
その辺が、現時点で焦点が定まらない、中途半端に感じてしまうところなんでしょうか。
所詮この類の議論は、モーゼとアロン、あるいはルル、ヴォツェックのCDの名盤探しにも通ずる難しさがあるので、ワイン界の重鎮など思慮深い人たちは避けて通るのが通例のようです。
まさにゾンビのみに許される分野かもしれませんねぇ(笑)。
あえてルル3幕版でなくて2幕版を聞くpfaelzerweinさんのこだわりはすごいなあ。
自分なんて優柔不断でミーハーなので今は3幕版以外は聞くことがなくなりました(一応2幕版も持っていますが...)。
3幕はアルバンベルクの作品ではないことは知ってはいても、ストーリーの完結を優先してしまって....
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評価対象外の特別さ (pfaelzerwein)
2009-12-08 21:41:33
アルテレーベンの品質についてのみ批判するつもりはないのですが、現在のドイツのリースリングの一流クラスとしては評価対象外です。それは醸造所の品質管理とか営業方針とかにも係わっています。

例えば天然酵母・フーダー樽利用にしてもにしても実際にはキュヴェーやステンレスなどを利用しているに拘らず、そうしたものをあまり表面には出さずに、かといってイデオロギー的なコンセプトも出さずに、従来のままという雰囲気を醸し出しているのでしょうが、その「ピュアーに出来ない経営や醸造」が味に表れています。90年代のバッサーマンヨルダンに少し似ていますが、専門家の評価が低いのはそこにあり、大なり小なり高級ワイン協会に属していない醸造所に共通しています。

もちろん高品質のワインを時々提供出来ればそれで良いのですが、ドイツのワインに求められる純粋醸造には甚だ遠く、恐らく大変苦労している新しい醸造親方もいづれやる気を失くして品質の低下が想像されます。

こうした状況はアルテレーベンや天然酵母、フーダーなどを十分な売りと出来ないモーゼルの醸造所に当てはまり、そうしたものを新機軸として技術革新出来るだけの技量がないだけでなく ― 殆どはその品質の差からどれも仕方なくそれを採用しているとしか受け取られません ― 、谷の民族のコミュニケーション能力の欠如という地域文化圏の問題かと思います。その一方海外では二重スタンダードを引くのはドイツ離れしていて理解に苦しみます。

これに関しては、大変立派な見識を示しているプリュムの親父さんと、娘とお母さんの間での微妙な発言の違いがとても興味深いです。

具体的には、上のアルテレーベンでも、ヴィンテージの差や飲み頃など、ご指摘のようにとても難しいものが横たわっているのですが、長持ちとしか奨められない商品の売り方がとても具合悪い訳です。価格相応の潜在力があるのか?高級感はあるのか?

其処にあるのは、TVでオーナーが語っていたように「特別だ」では話しにならないのですよ。TVプロデューサーの批判の目も其処にあったのでしょう。
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