Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

スポーティな仕事とは

2024-03-05 | 
承前)ヒッチコック作「ブラックメイル」の無声映画版を観た。トーキー版に比較すると明らかに良かった。間延びしない、リズム感があって、芸術性があった。その裏側が短く上演前のレクチャーで指揮者のエンゲルと作曲家のエッゲルトの対談の中で示された。

それによるとトーキー版では、ヒロインのアニー・オンドラがその名前の通り英語が喋れなかったためにアフレコで録り直したらしい。それ以外にも説明めいた追加のカットが続いていてリズム感が不明瞭になっている。

それに関しては作曲家エッゲルトがその話しぶりからしてもヒッチコック映画に傾倒していて、詳しく観尽くしている。しかし作曲するにあたって一度だけ観返したと語る。それは現在のシステムで音楽を嵌める為の技術的な条件が揃っているからとなる。

その過程として、映像のリズムから入って、テムピを合わせて、そこからハーモニーやそれどころかメロディーとなって、映画における感情表現やにつけていくという事だった。そしてそこでは調性云々以上に、映像における表現とドラマテュルギーが優先されるということで、管弦楽曲とは異なるのだということだった。

そこで逆に演奏上の困難さを指揮者エンゲルに訊ねると、ヘッドフォーンでのクリック音と指揮台の上に置いたタイムコードの表示を観ながら指揮するので、指揮のスポーティーな仕事の一つで慣れていると答える。しかし、その表情をこちらから観ていて、恐らくエンゲルもこちらの表情を窺っているようなところもあったのだが、明らかに三日間の制作録音で苦労していたような事情が見え隠れした。

それはその後の開演前の舞台あいさつでのバーゼルシムフォニエッタの支配人が管弦楽のメムバーに三日間の仕事を称えたので、なるほど苦労したのだなと、その後の始まりのアコードの数々からこれだと分かった。

端的にいうと、そのアコードが巧く鳴らないのである。これは逆に作曲者が映像があることで、如何ほどの不協和音でも幅広い聴衆がそれを受け入れるという言い訳のようなことが作曲家から話された。

実はそのことが話されていた時の指揮者の表情を窺っていたのであり、そしてこれは駄目だというこちらの表情が窺われていたと思う。この作曲家は、ローマ賞もとっていたりジーメンス賞もとっていたりで、ザルツブルク復活祭でも曲が演奏され、そしてショット出版が楽譜も出していて、なんと日本語のWIKIでも紹介されていて、現在独逸作曲家協会の会長もしている。

なるほど音楽劇場作品を得意にしていて、二桁以上の作品を残している。なるほどどこかで名前は聞いたことがあったのだが、その成功は知らない。多作家である。そして今回こうした比較的立派な企画の映画音楽作曲依頼を受ける条件に当て嵌まった人物であることもよく分かった。しかし決して首席指揮者エンゲルが企画して一緒に仕事するような人材でもなかったことも想像に容易い。一体それはどういうことか。(続く
Blackmail Test Take (1929) - Alfred Hitchcock | BFI

Alfred Hitchcock | Blackmail (1929) Anny Ondra, John Longden, Sara Allgood | Movie, Subtitles



参照:
事件の真相は現場にも無し 2024-02-24 | 雑感
芸術内容の迫真性 2024-02-28 | 文化一般
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