Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

高等文化のシンクタンク

2009-12-02 | 文学・思想
フランクフルトの自由ドイツ高等文化協会など誰も聞いたことがないかもしれない。その実は、世界からの観光の人気スポット「ゲーテハウス」の中核を占める財団であり本年創立百五十年になるシンクタンクである。その創立場所や創立時期からある程度想像はつくかも知れないが、ドイツ近代文化の核心を占める「自由と革命」精神であるドイツェロマンティックが其処にある。なるほど世界的に注目される運動であるのは分かるのだが、その核心はドイツの1848年革命で実らなかった自由主義思想の知的な世界での実現の希求でしかなかった。シラーを初めとする故人に所縁のある面々から資料などが引き継がれ、クレメンス・ブレンターノらのロマンティックな文人を越えて19世紀末にはリヒャルト・ヴァーグナーなどの作曲家ら文化人が広くこのシンクタンクの後援者となった。

第三帝国時代は、その危険な自由主義思想ゆえに再三に渡って圧力が掛かったことは展示されているルドルフ・へスの手紙で事情が知れるのだが、ポーランド侵攻の戦争勃発から危険な状況は増したに関わらず定期的な講演会や催しものは続けられていて、フランクフルト市民の知的関心を満たしていた事が知れる。空爆の危機に慄いて、フランクフルト市美術館のファン・ヴァイクの「マドンナ」などと共に七台の塵運搬車でタウヌスの森へと疎開を果したと言うが、案の定直ぐにゲーテハウスも別棟の博物館も空爆を受けることになる。

そして終戦を前に当時のエルンスト・ボイトラー館長は、戦後には直ぐ再建する強い意志を会員であるカール・ヤスパースに書き送っている。戦後の再建計画への議論の中には、「飲み食いを困っている時に、先にする事がある」とする意見も文化人から出され、現在のベルリンの城再建計画のように激論が交わされたが、そうした意見に対して十分な準備が出来ていた事はその戦時中の意志表明から分かるような気がする。

しかし、現在でも殆どの者が素通りしてその存在すら留意しないその協会がそれほどまでに存在を主張する理由は何処にあるのか?それは、やはり創立当時に知的世界の重要性として、自然科学までを網羅していた教養や教育という啓蒙思想の根幹があったことと、職人の伝統や技能を重要視するフリーメーソンの世界観が基本にあったことが伺われる。

因みに戦後再建の定礎式には、戦時中当地のゲーテ大学を追われたアンドレ・ジードによって槌が打たれた



参照:
印象深い精神器質像 2009-11-20 | 雑感
トンカツで流感感染に備える 2009-11-21 | 生活
欧州のユダ、ユダヤの欧州 2009-10-28 | 歴史・時事
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コメント (4)
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