2018.5.31(木)
今朝の中日新聞で、田中優子法政大学総長が「自由で闊達な言論・表現空間を創造します」と題したメッセージを発表したことを報じている。
これは文部科学省などが研究者らに交付する科学研究費(科研費)について、自民党の国会議員らが繰り広げている「反日活動に協力する学者に配られている」とのキャンペーンに反論する形で出したものと思われる。
自民党の杉田水脈(みお)衆議院議員らやその賛同者らは、科研費を受け取っている研究者に対して激しく非難している。杉田議員は今年2月の衆院予算委員会で、戦前に朝鮮半島から徴用された徴用工問題に取り組む研究者に科研費が交付されたことに「徴用工問題は反日のプロパガンダ。科研費で研究している人たちが、韓国の人達と手を組んでやっている」と批判した。
さらにネット番組などでも、政権に批判的な研究者らを名指しし、「科研費が反日の人のところに使われている」などと主張。「国益に反する研究は自費でお願い致します」などと発信している、と伝えている。
科研費は幅広い分野の研究を支援する制度で、研究者が応募し、同じ分野の研究者が審査、採択されれば研究費が助成されるもの。年間の予算は約2200億円で、応募件数は約十万件(2016年度)に上る、という。
杉田議員は「科研費は税金で、日本のために使われなければならない」と言っているが、彼女の言い分は「税金だから政権のために使われなければならない」と言っているのと同義である。
田中総長は「科研費の交付を研究者の政治的立場や考え方で線引きすることは絶対にあってはいけない。憲法で定められた学問の自由が脅かされる。議員にはまず、憲法を守ってほしい」と語っている。
また慰安婦問題を論じた研究グループの牟田和恵・大阪大教授は、「無知や誤解に基づく誹謗中傷だ。国会議員にあるまじき偏った言い方」だと強く批判している。
さらに琉球独立論などを研究している松島泰勝・龍谷大教授に対して税金を使って「『琉球独立』を主張するのはいかがなものか」と指摘した杉田議員に対して、松島教授は「科研費で琉球独立は研究していない。国会議員の影響力を使い、自らの意見に合わない研究を抑圧しようとしている。琉球ヘイトもここまできたか」と反論している。
杉田議員は2012年12月の第46回衆院選で日本維新の会から出馬し、選挙区では敗れたが比例近畿ブロックで復活当選した。2014年12月の第47回衆院選では、兵庫6区から次世代の党から出馬したが落選。2017年9月の第48回衆院選では自民党から出馬、比例中国ブロックで当選した。現在、細田派に属する。新しい歴史教科書をつくる会理事でもある。
自分の意見に反する考えには、無知をさらけだして誹謗中傷するこうしたやり方は情けないとしか言いようがない。こんな人物が国会議員という選良となってしまうことにポピュリズムの弊害が象徴的に出現している分かりやすい例である。
なお田中総長のメッセージは次のとおり。
≪自由で闊達な言論・表現空間を創造します≫
昨今、専門的知見にもとづき社会的発言をおこなう本学の研究者たちに対する、検証や根拠の提示のない非難や、恫喝や圧力と受け取れる言動が度重ねて起きています。その中には、冷静に事実と向き合って社会を分析し、根拠にもとづいて対応策を吟味すべき立場にある国会議員による言動も含まれます。
日本は今、前代未聞の少子高齢化社会に向かっています。誰も経験したことのない変動を迎えるにあたって、専門家としての責任においてデータを集め、分析と検証を経て、積極的にその知見を表明し、世論の進化や社会の問題解決に寄与することは、研究者たる者の責任です。その責任を十全に果たすために、適切な反証なく圧力によって研究者のデータや言論をねじふせるようなことがあれば、断じてそれを許してはなりません。
世論に多様性がなくなれば、働く現場は疲労困憊し、格差はいっそう拡がり、日本社会は硬直して出口を失うでしょう。柔軟性をもって意見をかわし、よりよい方法を探ることこそ、いま喫緊に必要なことです。
「自由を生き抜く実践知」を憲章に掲げる本学は、在学する学生・院生、本学で働く教職員の、積極的な社会的関与と貢献を評価し、守り、支援します。互いの自由を認めあい、十全に貢献をなしうる闊達な言論・表現空間を、これからもつくり続けます。
今後、全国の研究者、大学人の言論が委縮する可能性を憂慮し、本学の研究者に起きていることを座視せず、総長としての考えをここに表明いたします。
2018年5月16日
法政大学総長 田中優子
今朝の中日新聞で、田中優子法政大学総長が「自由で闊達な言論・表現空間を創造します」と題したメッセージを発表したことを報じている。
これは文部科学省などが研究者らに交付する科学研究費(科研費)について、自民党の国会議員らが繰り広げている「反日活動に協力する学者に配られている」とのキャンペーンに反論する形で出したものと思われる。
自民党の杉田水脈(みお)衆議院議員らやその賛同者らは、科研費を受け取っている研究者に対して激しく非難している。杉田議員は今年2月の衆院予算委員会で、戦前に朝鮮半島から徴用された徴用工問題に取り組む研究者に科研費が交付されたことに「徴用工問題は反日のプロパガンダ。科研費で研究している人たちが、韓国の人達と手を組んでやっている」と批判した。
さらにネット番組などでも、政権に批判的な研究者らを名指しし、「科研費が反日の人のところに使われている」などと主張。「国益に反する研究は自費でお願い致します」などと発信している、と伝えている。
科研費は幅広い分野の研究を支援する制度で、研究者が応募し、同じ分野の研究者が審査、採択されれば研究費が助成されるもの。年間の予算は約2200億円で、応募件数は約十万件(2016年度)に上る、という。
杉田議員は「科研費は税金で、日本のために使われなければならない」と言っているが、彼女の言い分は「税金だから政権のために使われなければならない」と言っているのと同義である。
田中総長は「科研費の交付を研究者の政治的立場や考え方で線引きすることは絶対にあってはいけない。憲法で定められた学問の自由が脅かされる。議員にはまず、憲法を守ってほしい」と語っている。
また慰安婦問題を論じた研究グループの牟田和恵・大阪大教授は、「無知や誤解に基づく誹謗中傷だ。国会議員にあるまじき偏った言い方」だと強く批判している。
さらに琉球独立論などを研究している松島泰勝・龍谷大教授に対して税金を使って「『琉球独立』を主張するのはいかがなものか」と指摘した杉田議員に対して、松島教授は「科研費で琉球独立は研究していない。国会議員の影響力を使い、自らの意見に合わない研究を抑圧しようとしている。琉球ヘイトもここまできたか」と反論している。
杉田議員は2012年12月の第46回衆院選で日本維新の会から出馬し、選挙区では敗れたが比例近畿ブロックで復活当選した。2014年12月の第47回衆院選では、兵庫6区から次世代の党から出馬したが落選。2017年9月の第48回衆院選では自民党から出馬、比例中国ブロックで当選した。現在、細田派に属する。新しい歴史教科書をつくる会理事でもある。
自分の意見に反する考えには、無知をさらけだして誹謗中傷するこうしたやり方は情けないとしか言いようがない。こんな人物が国会議員という選良となってしまうことにポピュリズムの弊害が象徴的に出現している分かりやすい例である。
なお田中総長のメッセージは次のとおり。
≪自由で闊達な言論・表現空間を創造します≫
昨今、専門的知見にもとづき社会的発言をおこなう本学の研究者たちに対する、検証や根拠の提示のない非難や、恫喝や圧力と受け取れる言動が度重ねて起きています。その中には、冷静に事実と向き合って社会を分析し、根拠にもとづいて対応策を吟味すべき立場にある国会議員による言動も含まれます。
日本は今、前代未聞の少子高齢化社会に向かっています。誰も経験したことのない変動を迎えるにあたって、専門家としての責任においてデータを集め、分析と検証を経て、積極的にその知見を表明し、世論の進化や社会の問題解決に寄与することは、研究者たる者の責任です。その責任を十全に果たすために、適切な反証なく圧力によって研究者のデータや言論をねじふせるようなことがあれば、断じてそれを許してはなりません。
世論に多様性がなくなれば、働く現場は疲労困憊し、格差はいっそう拡がり、日本社会は硬直して出口を失うでしょう。柔軟性をもって意見をかわし、よりよい方法を探ることこそ、いま喫緊に必要なことです。
「自由を生き抜く実践知」を憲章に掲げる本学は、在学する学生・院生、本学で働く教職員の、積極的な社会的関与と貢献を評価し、守り、支援します。互いの自由を認めあい、十全に貢献をなしうる闊達な言論・表現空間を、これからもつくり続けます。
今後、全国の研究者、大学人の言論が委縮する可能性を憂慮し、本学の研究者に起きていることを座視せず、総長としての考えをここに表明いたします。
2018年5月16日
法政大学総長 田中優子