田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

「鹿沼の四季」 麻屋与志夫

2019-02-19 09:34:13 | ブログ
  鹿沼の四季

だれにも故郷はある。故郷をおもうきもちはある。だが、歳月が過ぎ去ると写真か文章でしか、その面影は確かめられなくなってしまう。わたしも、わが愛する鹿沼の風景をこういうかたちで残したいとおもう。(2019)

春 2003

 鹿沼の春は黒川の土手が凍土からよみがえることから始まる。土手が弛緩して黒味をおびる。枯れ草色の河川敷を散策すると、関東ローム層のくろぼく質の土をふみしめた靴底がぬらりとすべることがある。そのやわらかな、すこしねばつく黒い土をみながら、洪水のときなどこの黒い土が川に流れこむので、黒川とよぶようになったにちがいない、などとかってにかんがえながら堤をあるく。

 ああ、土が春をよびよせている。

 千手山公園の桜の蕾はまだふくらみだしていない。未広町にある蝉が淵稲荷の柳がようやく芽吹き淡い薄緑の簾のスソを木島掘りの流れにぬらしている。
 男体山、女峰、白根もまだ雪におおわれている。それでも、ほほにふく風がやわらかなあたたかさをつたえてくる。川面をふきわたる風には、すでに春の予感がある。
 鹿沼で暮す楽しさは、自然に触れられる、自然に囲まれていることにある。ゆめゆめひとと接してはならない。ひとを懐かしんで話しかけるようなことをすると、かならず寂しいことになる。なぜなら、この街のひとにはことばがないからだ。ことばがないということは、こころがないからだ。
 だれだ。ヨーカ堂前の柳の枝をぜんぶ切り落としてしまったのは――。
 柳の葉がいちばん美しくなるこの季節に無粋にも柳の枝が切り落とされていた。

 

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