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田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

25 超短編 レストランの見える街角で

2023-11-26 10:17:06 | 超短編小説
11月26日
25超短編 レストランの見える町角で。
その街ではかなり有名な高級レストラン。
女の子がでてきた。
そのレストランにふさわしい優雅な服装。
「麗華、ちゃん」
待ちうけていたホームレスらしい男が声をかけた。
「おじさん、だぁれ?」
「麗華、ちゃん」
女の子はかわいらしく首をかしげた。
そのしぐさが、ういういしくさらにかわいらしくみえる。
「麗華は、わたしの母よ」 



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超短編24「比喩間野 伊戸子ともうしますだぁ。」麻屋与志夫

2023-10-21 07:56:51 | 超短編小説
10月21日 土曜日

超短編24 「比喩間野 伊戸子ともうしますだぁ」

遠野将平はおどろいた。
SNSでつぶやいた。
塾の教師を引退した。
じぶんと同じだ。
場所ばかりとってもはや読むことも利用するともなくなった蔵書。
売却しようかな、とふともらした。

とたんに、驚くではないか。
古本屋さんから高価出張買取のPRがべたべた画面に張りついてきた。
SNSマーケッティング敏速さには身の毛もよだつ。

将平は部屋からでる。
インターホーンがなっている。
妻が帰って来たのか。
むぞうさに、玄関をあけた。
おどろいた。
若い女がほほえんでいる。
どことなく妻が若いときに、知りあった頃の彼女に似ている。

?????……。
「比喩間野 伊戸子ともうしますだぁ。」
肌だってIPS細胞で人肌よりもなめらかであたたかいですだ」

なんだかおかしな口調だ。
言語修復がひつようなようだ。
「不忍の池の鯉してみないか」

彼女は懸命にうりこむ。
それをいうなら、忍ぶ恋だろうが。
妻でさえ、見せたことのない媚鯛でせまってくる。
なんだか、こちらの言語感覚までおかしくなりだした。

これではいけない。
言語修復士となってありったけのわたしの情報をもちだす。
その情報とかかわりをもつレファレンスの過程から教えれば、
彼女は有能な女性になる。

まだこのとき将平はSNSマーケッティング怖さに気づいていなかった。
彼女はすばやく将平の思考を読みとった。
将平の教師根性をくすぐるっているのだ。

さらに自慢の美肌。
太腿をさらしている。
チラりと見せる媚態で迫る。
「どうする。将平」

比喩間野 伊戸子 ヒユマノイド 人型ロボット

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短編小説23 断捨離 麻屋与志夫

2023-10-20 08:13:24 | 超短編小説
10月20日 金曜日
超短編小説 断捨離
「蔵書、古本屋さんにきてもらって処分したら」
秋の彼岸で帰省した娘がすすめる。
「サンリオの文庫本は高いらしいいわよ」
「村上春樹の初版本がそろってるじゃないの」
妻と娘が口をそろえる。
このところ彼女たちは、断捨離推進派。
目をきらきらさせて処分できるものを探している。
「塾の黒板も売れるんじゃない。椅子も机も什器いっさい買い取ってもらえるものは売り払いなさいよ」
90歳で教壇を下りた。無収入となったわたしは無用の長物。
粗大ごみになってしまった。元気ハッラツとしているわが家の女たちが眩しい。



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超短編22「もう死んじゃうよ」麻屋与志夫

2023-10-17 08:30:36 | 超短編小説
10月17日 火曜日
「ショウチャン」
 老婆に呼びとめられた。銀座の街角だ。

「ほら、同級生のムッチャンだよ」
 覚えがない。古い記憶のページをぱらぱらとめくった。
「ほら、食べさっせ」
 なつかしい故郷の言葉だ。
 彼女は店頭のミカンをひょいと取りあげて彼にすすめた。
「みんな同級生は死んじゃったもんね」
「ムッチャンはげんきそうだ」
 
 名前で呼びかけられて老婆はすごくうれしそう。
 ミカンのあまずっぱい味が口の中に広がる。

「話しかけてくれてありがとう。また声をかけてよ」
「もう死んじゃうよ」
「そんな弱気なこといわないで元気じゃないか」
 老婆はうれしそうにほほえんでいる。深いしわがかがやいている。
 歩きだして、ヒョイと振りかえる。彼女はまだ手をふっている。
「武藤青果店」という古びた看板が遠い視野のなかに浮かび上がる。
 そしてその脇に、鹿沼銀座通りの標識。
 そうかここは故郷の鹿沼だった。
 コロナ疎開でもどってきた故郷だ。
『シャッター通り』になっている。
 開いている店はないはずだ。
 
 八百屋のムッチャンの姿が小さくなる。
 ひらひらふっている手は少女の手。
 
 わたしは病院にいそいだ。右手で杖をついている。
 内視鏡検査の結果を聞きに行くところだ。
 その日のうちに結果を教えてくれない。どこか悪いのか。
 あともってひと月というステージ。
 そんな最悪のことばかり脳裏をかすめる。

「もう死んじゃうよ」
 おれはまだ死にたくはない。
 
 戦後の動乱期を生きた友だちの、生きざまを書き残したい。
 話しかけたそうにふしめでわたしを見ていたムッチャンのことも。
 わたしに好意をもっていてくれた。そう思いたい。
 こちらから、あのとき話しかけていたら。
 もっと変わった人生になっていたかも……しれない。
 ひらひらと手をふっている少女の姿が鮮明に見える。




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超短編21 カーブミラー 麻屋与志夫

2023-09-30 05:53:03 | 超短編小説
9月30日 土曜日
細い道だ。

彼の毎朝の散歩道だ。

木陰になっている。

昼でも薄暗い。

カーブミラーが立っている。

ポールは鉄製なのだろう。

赤さびている。

鏡もだれもクモリをふくものがいない。

いつもよごれている。

彼が、路肩によって車をよけているのに。

ドライバーは会釈もしない。

「おジイャン。あれなに。ぽつんとたっているの」
「カーブミラーだ。むかし、あそこで死傷事故あったのだ」

車は平然とカーブをまがった。



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超短編20 五月のばら園にばらの花降る  麻屋与志夫

2023-04-30 14:55:55 | 超短編小説
超短編 20
五月のばら園にばらの花降る

大温室が無数の窓群で構成されているように光っていた。
矩形に格子で仕切られているので遠目には窓のようにみえたのだろう。
五月の薫風にのってばら園からはかぐわしい芳香がただよってきた。
ここは神代植物園だ。
彼女はまだこない。

「五月の第一金曜日に会おう」
そう決めていたのに彼女は現れない。
どうしてきてくれないのだろう。
もう少し待てば彼女は長い黒髪を風になびかせて颯爽と現れるはずだ。
温室の方角から来るだろうか。
藤棚の方からかな? 
ああ早く会いたい。
彼女とは二月ほど前に一度あったきりだった。
 
彼女はバラ園を眺めていた。
白いワンピースに真紅の細いベルトをしていた。
その後ろ姿をみただけで彼は動悸がたかなるのを覚えた。
ヴイルヘルム・ハンマースホイの描いた女性。
後ろ姿のイーダの哀愁ある立ち姿だった。
襟足にほつれた髪が風にかすかにそよいでいた。
細い襟首から肩にかけてのカーブがしんなりとしていかにも女性的だった。
贅肉がまったくついていない若やいだ肩の稜線だった。
どきどきする胸の鼓動をおさえておもいきって声をかけた。
静寂をみだすことを恐れながら……。

「ばらの季節にきたらもっときれいでしょうね」
ふいに話しかけられて彼女はおどろいたようにふりかえった。
黒い瞳。
肌がきめ細かく白い。
頬をそめている。

「どんなバラがお好きですか」
澄んだよくとおる爽やかな声。
「アイスバーグ。白い花がぼくはすきです」
「わたしもよ。小さなアパートのベランダで白いバラの鉢植えをそだてるのが夢なの」

会話がはずみ、いつしか二人は花にはまだ間のあるばら園の小道を歩いていた。
「ぼくは大きなばら園を経営して毎日ばらと話しながら過ごしたい。……そしてそこにあなたがいてくれたら」

もちろん会ったばかりの彼女に後のことばはいえなかった。
かれは見栄をはることはなかった。
彼女は裕福な家庭に育ち、逆シンデレラ願望にとらわれていた。
ビンボーな生活に憧れていたのだから。
彼は恵まれた生活をしているふりなどしないほうがよかったのだ。
細々としたパートタイムワークで食いつないでいる。
アパートの家賃をかろうじて払っているとイエバヨカッタのだ。
彼女は好意こそもち、彼を軽蔑するようなことはなかったろう。
彼の貧困生活こそ彼女の理想だったのに。
昼間でも部屋の中には薄っすらと闇がとどこうっている。
アパートで明るく夫を支えて健気な妻として生きること。
それが彼女のねがいだった。
裕福ではあるが父と母のように。
夫婦の間に距離のある家庭で生きることはいやだった。
彼のはなしをきいているうちに彼女は少し落胆した。
でもなにかほのぼのとした心になっている。
だからもういちど会いましょうという。
彼のもうしでを拒むわけにはいかなかった。
いや、むしろ五月になるのを楽しみにているじぶんにおどろいていた。
でも家に帰った彼女をいやなサプライズがまっていた。
父が取引先の銀行の頭取の息子との結婚を独断できめてしまっていた。
「どこにいっていたのだ。あちらさんは……ニョーヨークに転勤だ。おまえを連れて行きたいといっている」
「新婚生活をアメリカですごせるなんてうらやましいこと」

ばらが見事に開花していた。
アイスバーグも咲いている。
シテイオブヨークの白い花弁も美しい。
彼女の面影を追い求めながら彼は待っていた。
彼女ははまだこない。
 ああ会いたい。
彼女に会いたい。
名前すら聞きはぐった彼女。
たった一度しか会っていない彼女。
会いたい。
話したい。
ばらのはなしをしたい。
愛している。
一目でもいいから会いたい。
あなたのことは昔から知っていたような気がする。
あなたのことをおもっているとこう胸のあたりがほのぼのとしてくる。
前世から知っていたのかもしれない。
愛している。
交際してください。
そしてぼくがきらいでなかったら結婚して下さい。
いまは、ビンボーだけれどもあなたのために。
あなたをしあわせにするためなら粉骨砕身。
毎日一生懸命に働きます。そう正直に告白する。
あなたのいない人生なんてかんがえられません。

彼女はまだこない。
 
あなたにひとことだけ好きですと伝えたい。
それだけでもいい。会いたい。

それからというもの、毎年五月の第一金曜日になると彼はばら園にやってきた。
さいきんでは、記憶もあいまいになった。
五月でなくても一週目の金曜日。
いや体さえ許せば毎月金曜日にはいつも彼女の姿を求めてばら園にきていた。
永遠の片思い――。
いちどだけ会った。
いちどだけこのばら園の小道をあるきながら会話をかわした。
彼女のことが忘れられずにいる。
彼は彼女をおもうことで。
いつかかならずまた彼女に会えるというおもいがあったので。
人生の苦難をのりきることができた。
この歳まで生きてこられたのは、彼女との再会を夢みていたからだ……。
胸の想いを彼女につたえたいという希望をもつことで、生きてこられたのだ。
彼女の姿はもう見られないかもしれたい。
……でも、彼女を想うこころはかわらない。
姿は見ることができなくても、彼女のイメージは消えることはない。
毎年、ばら園にばらが咲いている限り……。
彼女のことはわすれない。
彼女のことを想いつづける。

「春になったら、あのヘンスに咲き乱れる蔓バラを見にきませんか」
だれかとそんな約束をしたような記憶がこころの隅にひっかかっている。
それほどの時間が過ぎてしまった。
それは誤って刺してしまった薔薇の棘のように。
ちくちくと記憶を刺激するのだった。
「そうね。『思いでベンチ』であいましょう」
彼女はそう応えてくれたような気がする。
彼には遠い記憶の美化がはじまっていた。
 
来る年も、来る月も。
ほとんど毎日のように。
彼は彼女との再会を夢見てばら園にかよいつめた。
彼女と過したあの一瞬のきらめきを。
もう一度だけでもいいから、感じたかった。
彼女はマインド・バンパイァだったのかもしれない。
彼女をひとめみたものは。
そのイメージが網膜にやきつき。
もう忘れられなくなる。

彼女にかしずき、彼女のよろこびが彼のよろこびとなる。
彼女のためならなんでもしてやりたい。
そのこころの高揚がさらに彼をよろこばせる。
ほかの女の子と知り合いたいとはおもわなかった。
それは熱烈なロゼリアンが。
自分だけの、世界でたったひとつのばらをつくりたい。
という情熱に似ていた。
じぶんだけが初めて出会う、このばらはわたしだけのものだという心情。

しかし、彼には彼女と再び会うチャンスは訪れなかった。
どんなに愛していても、会えない彼女を想っていた。
彼女を待ちわびて、年月だけがとぶように過ぎていった。

ふいに何に驚いたのか鳩の羽音も高くとびたった。

待ちわびていた彼女がこちらに向かって走ってくる。
彼はうっとりと眺めていた。
「おかあさん」
彼女が彼の体を通り貫けて走りさっていく。
彼は、自分が年老いて死んでしまったことにまだ気づいていない。
彼は、自分が霊体となっていることに気づいていない。

そのかなたに年老いた。
女性が。
薔薇のほほ笑みでこちらをみている。
彼女は彼にはきづかなかった。
だが、かれは走り去っていく若い女性の顔を老婆にかさねていた。
 
いい顔してるな。
まるで初恋の彼女に会ったような顔をしている。
冷たくなっている老人の枕もと。
といっても、ベンチなので枕などあるわけがないが。
一茎の白いバラが彼によりそうように。
朝の光のなかで芳香をはなっていた。



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19 老衰 麻屋与志夫

2023-03-19 12:31:32 | 超短編小説
超短編19 老衰
著名な作家Oが亡くなった。
八十八歳だった。
死因は老衰。

いまはすっかり執筆依頼のない、忘れられた物書きの夫を美佐子は観察した。
彼との来し方を思うと、つきなみな表現だがよくここまで生きてきたものだと感慨無量だ。
九十歳になる夫。
「北斎の享年が九十歳。卒寿。ここが節目だ。これからの一年一年をしっかり生き抜いてみせる」
発表するあてもない小説を毎日書きつづけている。

老衰――を検索した。
食欲がなくなり眠るがごとき大往生。とのことだ。

「食欲がありますか?」
Drにはよくきかれる。
プット噴き出してしまう。
茨城の海岸沿いの町に住んでいる弟が持参した寿司を三人分くらいへいきでたいらげてしまった。
お酒だって飲ませておけばきりがない。
小原庄助さんの歌ではないが、朝寝、朝酒、朝風呂がだいすきな、文無し男だ。

「お父さんそろそろ終活かんがえたほうがいいよ」
ときおり、帰省する娘たちに勧められて憤慨している。
「十年早い」
「この本どうするのよ。売った方がいわ」
「おれが死んでからにして」
「本を売ることは物書きにとって手足をもぎ取られるようなものだ」

いくら飲んでも崩れるようなことはない。
どこか漏水してるのかもしれない。
美佐子は最近そう思うようになった。

文学の知識もどこからか、漏れでてしまっている。
夫の書きすすめている小説を読むのが怖い。
漏水していたらどうしょう。
どんな作品に仕上がるのだろう。
いたずらに、労力を浪費するだけの作品だったらかわいそうだ。

「これから再出発だ。新人賞におうぼするぞ」
やっぱり歳だ。
頭がどこか、老いて衰えてきている。


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光彦坊ちゃま。愛しているわ。麻屋与志夫

2023-03-18 12:42:02 | 超短編小説
超短編 18
チーズの焼ける香ばしい匂いが出向えくれた。
「星野センパイ」
声を掛けてくれるものはいなかった。卒業して二年になる。
だが懐かしい。学生たちの群れ。高田牧舎。

「星野。こっちだ」
奥の席からすこしハスキーな声が呼んでいる。
松尾たちはすでにピザでコーラを飲んでいた。
「アルコールが入っていると、立つものがたたなくるからな」
松尾のとなりで若松が笑っている。
二人とも恋人が出来てデートを重ね婚約寸前というところだ。
そこでバチラーパーティをしようと星野に誘いの電話があった。

星野だけはまだ恋人がいなかった。
独身送別会でもあるまいと思った。

ところが松尾の企画では恋人たちを連れてこれからどこかへドライブに行こうというのだ。
酒でも飲んでなにかよからぬ場所にいく、といたことかと思って呼びたしに応えたのだが。

ざんねんながら星野は女つけなし。

こうなっては浅草のガールズバーのサリーさんに声をかけるしかないだろう。
はたして応じてくれるだろうか。
やわらかなそれでいて、澄んだ声。
笑顔でかれの話にあわせてくれるやさしさ。
彼女がすきで通いだしてからもう一年になる。
星野はシャイな男で女性に愛をささやけるような男ではない。

「いまからお店にいくところなのよ」
「たのむ。おれの恋人ということで来てくれないかな」
恋人と、という言葉がぽろりとこぼれでたことに星野は顔を赤くしている。

「たのむよ。ぼくには君しかこんなことたのめる女の子がいないんだ」
「それは、うれしいこと……」

就活応援パンツにサマーカーデガン姿でサリーは待っていた。
「竹原月子です」

松尾も若松もきつねに化かされたような顔をしている。
太陽の光で見ても、サリーの美しさは地味に装っていたも、さらにか輝いていた。
松尾も若松もおどろいている。
「星野、おまえいつのまにこんな美人ゲットしていたんだ」
星野は応えずほほえんでいる。

「あら、みなさんおきれいで、いらつしゃいますわ。わたしなにか場違いなところに来てし
まっみたい」
月子はかるく松尾のことばをいなす。
松尾の乗ってきたBMWにみんなで乗り込んだ。
運転席の隣には松尾の恋人、菜々美。
後部座席に若松と花梨。
そして月子、星野。

「一応は那須に行く予定だが、その途中でどこかないかな。星野、栃木は地元だよな。どこかないか?」

「宇都宮でいいなら、若山農園がある。『るろうに剣心』のロケ地で映画フアンの聖地になっている」

竹の森。
竹が青い炎をあげてもえあがっているようだ。
すがすがしい空気。別世界にまぎれこんだようだ。
見上げれば紺ぺきの空。

節が交互に膨れて亀甲状となる特異な形状孟宗竹の一種。
亀甲竹を見た。
亀甲の連想で大きな亀があらわれた。
月子がその背中にひょいとのった。
いかないでくれ。
竹林にいる。
そして、月子さんだ。
だったら、かぐや姫だ。
乗り物がちがうじゃないか。
いかないでくれ。

「どうしたの?」
彼女の声で星野は白日夢からさめた。
「なにか呟いていたわ」

遥かかなた、剣心のロケ地となったというあたり。
金明孟宗竹の黄金食に輝く林のあたりを。
きらびやかな服装の彼女たちと松尾と若松が散策している。

「どうしたの? 何か悲しそうだった」
「月子さんがどこかに去っていく。それでとめていた」
「あら、わたしきょうは休むことにしてきたの。だから『月姫』にはもどらないわ。わたしこんな服でゴメンね。お水系で働いていると服装の好みとか化粧とか話し方でわかるのよね。だから、就活のときのパンツできたの」
彼女の心づかいに星野はおどろいた。

「月子がいなくなるとさびしい」
「わたし、本当は金子久美子」
さきほどは、ここに来ると決めるまえだった。
……ここに来ることが竹原月子と名のった時点で、分かっていたのか。
予知能力でもあるようだ。
「ほんとの名前を、おしえてくれるんだ」

「久美子がいないと、さびしい。いつもそばにいてもらいたい」
「そんなにわたしが好きなの。誘うひとがいないので、誘ってくれたのとちがうの?」
「好きだ。愛している」

どこにこんな勇気があったのだ。
いままでデートにも誘えなかったのに。
彼女の顔に微笑みがうかんだ。
「もう一か所寄っていかないか」

イチゴ摘み農場。若山農場から十分ほど。
「そうか、栃木県はイチゴ栽培が盛んだものな」
「籠に積み放題で、千円だ」
 
「うわあ、こんなに詰込んだのに……。家に帰ってイチゴジャムをつくれるわ」
彼女たちはおおよろこび。
ところが久美子が料金所で支払いをしようとすると、女の子が首を横に振っている。
「どういうことなの。星野さん」

ちょっと、寄り道をしていくと松尾たちとは別れた。
「どういうことなの?」
星野はそれには答えず、歩きだした。
梨畑がつづく。作業をしている人たちが、光彦に挨拶する。
そして葡萄畑。みんなが手をふっている。
そのおくにワイナリーの建物。見学客でごったかえしていた。
その見学客を誘導していた老人が星野をみてほほえみ、近寄ってくる。
葡萄酒のにおいがしている。
「光彦がお嬢さんをおつれしてくるとは、いよいよここを継ぐ決心が出来たといいうことかな」

久美子はふかぶかとワインの芳香を吸いこんだ。
どうやら、この服装でよかったのかもしれない。終身雇用がきまったみたい。
光彦が手をのばしてきた。ふたりは恋人握りで歩きだした。
「光彦坊ちゃま。よろしくね」

「光彦。固めの盃だ」
老人が、盆に三個のワイングラスをのせて二人に慈愛に満ちた笑顔をみせている。




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17 緋毛氈/野点/美少女 麻屋与志夫

2023-03-11 09:42:10 | 超短編小説
超短編小説17  緋毛氈/野点/美少女

万歩計をかねた腕時計に勝平は目をやった。
「なんだ、まだ四百歩しか歩いていない」
久しぶりに散歩に出た。
せっかく、美智子さんが一緒にきてくれたのに。
新築工事中の市役所前で、脚が……もういけない。
ふらついてきた。
しかたなく市役所前の街角公園のベンチに座る。
工事用重機のあげる騒音にはなやまされている。
とくに大地に鳴り響く杭打機、掘削機、大型シャベルカー。
地球が悲鳴をあげているようだ。
この前、いまはコンクリートの堆積と化した市庁舎が建てられたのは七十年くらい前だったろう。
勝平はまだ高校生。
ニキビ面――だった。
ふとみると、市庁舎の庭、松の木を背景に緋毛氈が敷かれていた。
野点……を楽しんでいる。
茶会の席には顔見知りの美少女がずらりと正座している。
もちろん和服姿だ。
「勝平さん一服いかがですか」
招かれている。
ひらひらと白くしなやかな手の動き。
「どうぞ、どうぞ、粗茶ですが、こちらに、いらっしやい」
こちらに、といわれても、広い道路を横ぎらなければならない。
信号が青になるまで待たなければならない。
杖をつかなけれは立ちあがれない。
緋毛氈からは虹のような光が立ち上っていた。
誰かが立ちあがった。
いや、あれは妻の美智子ではないか。
「はやく。はやく」
と声がする。
隣にいるはずの、妻はベンチに座っていない。
杖だけがポツンと背もたれにたてかけてある。
勝平は動揺した。
おかしい。
なにかおかしい。
美少女はいまは黄泉の国の住人のはずだ。
でも、妻がいっしょなのはさらにおかしい。
勝平を招く緋毛氈の少女たちは華やいでいる。
なにがうれしいのか笑い声すらする。
彼女たちを取り巻く靄がかかったような光が薄れようとしている。
あれは、『時穴』だ。
大地がながいこと、激しい震動と大音響にさらされた。
それで、あそこに時穴が出現したのだ。
あそこをくぐれば懐つかしい少女たちにあえる。
勝平は前方を凝視したまま動けない。


注。
時穴。タイムトンネルのことです。半村良の短編にでてきます。




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悪魔祓い 師  麻屋与志夫

2023-02-06 14:17:17 | 超短編小説
2月6日 月曜日 晴
超短編小説 16 悪魔祓い

「ミエをはらずに杖持っていったら」
さすがだね。長年共棲してきたカミさんだ。
突いていったらといわれるのはいやだ。
爺臭くていやだ。持っていくのなら。
とにかく二本とない杖だ。銀の握りがついている。
ぜいたくだ。ステイタスをあらわしているようだ。
さもさも富裕階級だといっているようだ。
長年の友だちはそう批判する。
これほど長くつきあってきたのに、わたしのことをまったく理解していない。
杖の上部には両手をかけて立ちあがることができるように補助ハンドルが横にはりだしている。

少し疲れた。
帰り道というのはいやだ。往路の疲れがいっせいに足をせめたてる。
まえに向て足をはこぶよりよこに歩いたほうが膝の負担が軽くてすむ。
しかたないから、聖マリアンヌ幼稚園の鉄の柵に片手をあずけて蟹歩。

みっともないったらありやしない。
でも、杖をつくより、脚に負担をかけて、鍛えておかなくては。
どうしてそうおもうのだろう。長年の習慣だから、よくはわからない。

はるかかなた柵がつきるあたり、門扉の前に霧の柱があらわれた。
霧は人型となった。ふたりの男がわいてでた。
異様な服装の男たちだ。頭からフードをかぶり全身黒ずくめ。

わたしは柵越しに叫んでいた。
「逃げるんだ。教会堂に逃げろ‼」
いくら叫んでも、庭で園児を遊ばせている保育士にはきこえていない。
きこえているのだが、無視しているか。
まったく反応がない。
じぶんたちは教会の柵の中にいるだから安全だと妄信しているのかもしれない。

いま目の前に迫って来た危機に気がつかない。
わたしは、杖の握りを柵にうちつけた。
警鐘のように、誰かが気づいてくれればいいのだが。
金属を打ちつける音、金属の響きあう音は予想以上に高く響いている。
保育士は振り返りもしない。
いやむしろ、おかしな老人の行動を見まいとしているのかも。

ジャングルジムのてっぺんにいた年長組らしい大人びた少年が気づいた。
「変な人が門から入って来たよ」
「あれは、悪魔だ。教会堂に逃げこめ」

少年は声をはりあげた。
「悪魔だ。悪魔が来た」
少年は庭におり立つと、「悪魔だ。悪魔が来た」と絶叫しながら教会堂の方角に走り出した。
園児はかれにしたがった。
群れを成して子羊のよう教会堂に走りこむ。

神父さんが走ってきた。
わたしは聖堂の前に立っていた。
「悪魔です。悪魔の襲来です」
「ルシファか」

神父は植え込みのおくから、ゆったりと近寄ってくるふたりの男をにらんでいる。
さすが神父。神に仕えるもの。
ヤツラが悪魔に見えるのだ。
悪魔は、これからの残酷な悪行を楽しむようにゆっくりと、庭を横切ってくる。

「まずは中へ」
神父が扉を閉めようとしたが、閉まらない。
それどころか、外からバーンと開けられた。
神父がふっとぶ。
保育士たちは、まだ何が起きているのか、わからないでいる。
「神父さん聖水をかけて」
「バカか。いまどきはな、撥水加工をした服をきているのだ」

わたしは杖を左手にもちかえた。
立ち上がるときの補助ハンドルが両側についている。
ハンドルを内側にひねった。パチッとハデな音。
杖の先から槍の穂先がとびだした。
「仕込み杖か。それにしても、かわった趣向だな」
「十文字槍だ」
胸板めざして突きいれる。
かわされた。横になぐ。
足元をはらった。ジャンプしてかわされた。
着地したところを狙った。胸に穂先を突き立てた。
ところがはねかえされた。
「防刃チョッキを着ているでよ」
憎ったらしく冷笑している。

聖水も、十文字槍、穂先が十字架になっている槍もはねかえさせられた。
どうしたらいいのだ。
それに、コイツラの目的はなんだ。

悪魔の胸で携帯がなった。
ビンビン声がひびいてくる。
「なにしてる、おそいぞ」
「いますこしです」
「おそいぞ。まだきょうのノルマがのこっている」
どこからか、リモートで指図されている。
司令塔がほかにいる。
コイツ組織だっている。
悪魔がばんと手をうった。
椅子がざざっと教壇のほうにながれた。
園児たちの目前でとまった。
「こんどおれたちが手をたたけば、子どもら、おしつぶされるぞ。それでもいいのか、いちどだけきく。隠し裏金はどこだ」
「そんな、あれはむかしから代々の神父が蓄えたのだ。この町の人がお金でなら解決できる苦難にあったときに使うものだ」
「それがどうした。出せ」
「そうか、きさまら金か。たった数枚の銀貨のために主を裏切ったユダを祖先とするものだものな」
話しかけながらかんがえた。
どうする。
どうしたらいいのだ。
このままでは園児たちが椅子の洪水でおしつぶされる。
死人が出る。
どうしたら。

神父は園児と悪魔の間で十字架を高くかかげて、悪魔退散の祈りをささげている。
なんの予告もなく梅安がうかびあがった。
昨夜テレビでみた仕掛け人梅安の針。

悪魔の背後にまわりこんだ。
必殺の突きを首筋に。
悪魔が緑の粘液となってとける。
ふたり目もおなじ粘液にするのに瞬く間だった。
「たすかった」
神父さんがふらついたのをたすけたのはあの少年だった。

「おじさんすごいね吸血鬼ハンターなのだ」
「あるいは、悪魔祓いかな」
「エクソシストだね」
わたしはむかしこの子と同じ言葉を大人の人にかけたような記憶がある。
これで、やっと、ながい使役から解放される。

しかし、ハンターとしての「技」をこの子に伝授するまでは――生きつづけなければ……。


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