だらだら日記goo編

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原点としての満州

2005-05-21 21:50:58 | アート・文化
なんとも陰鬱な絵ばかり描く人だ。
舞台は北海道、しかし北海道といっても広い。
躍動する生命や青々した緑を描こうと思えば描けるだろうに、この画家はまったく描かない。
樹木はすべて直立している、生きることの厳しさが伝わるようだ。
なぜ画家がこんな絵ばかり描くのかはじめのうちは不思議だった。
画家の名前は相原求一朗、シャガールで有名な表参道アニヴァーサルギャラリーの展示だ。
その不思議はビデオを見て半分くらいは解消した。
絵を描くことが好きな相原は戦争で満州に連れて行かれた。
満州の風景をスケッチすることが当時の相原の慰めだったという。
生きるか死ぬかの体験をして帰国、北海道は狩勝峠からの展望に心打たれ、北海道をライフワークにするようになったという。
画家の言葉だ。
「私がなぜ北国の風景をテーマに選んだのか、その理由は定かではない。しかし改めて考えると、その動機は、戦後初めて訪れた北海道の風土が、かつて多感な青春時代を過したあの満州の原野に酷似していることにまず愛着を感じ、ノスタルジーをかきたてられたからといえそうである」
なるほどこの画家の原体験は満州にあり、その原体験をおっていたのか。
しかし北海道へのこだわりは異様に思える。
別に満州に似た土地なら北海道だけではなくいろいろあると思うが、北海道にこだわるのは何故なのか。
それにこの画家の作品には生き物がほとんど出てこない。建物すら出てこない。ただ自然あるのみ。
以前川越市美術館でこの画家の回顧展が開かれたようで会場ではそのカタログも売っていた。
購入して眺めてみると、初期のこの画家はマティスやピカソに似た作品も描いている。
しかし北海道に魅せられてから、この画家は厳しい自然しか描かなくなる。
相原はこうも言う。
「幼年時代に私が見た冬の落日から闇に至る瞬時の灰色の世界が、幻影となって、いつまでも私の脳裏に焼きついてはなれない」
幼年時代の川越の風景、そして満州、それに帰ることでこの画家は絵を描き続けた。
だがそこまで北海道の陰鬱な風景にこだわる理由は僕にはわからない。
この画家が生きていたらいろいろ聞いてみたいきもするが、惜しくも1999年になくなっている。
しかしいろんなことを考えさせてくれる展示だ、展示は29日まで。