今回の展覧会カタログには面白い資料が付いている。
各展覧会ごとの延べ来館者数と一日当たり平均の入館者数だ。
これが板谷波山のような有名な作家だと一日当たり1064人を数えるが、熊倉順吉という名前も聞いたことのない作家だと一日当たりわずか85人だ。
展覧会人気を知るのにも面白い。
国立近代美術館は工芸館の「開館30周年記念展」に足を運ぶ。
もともとは取り壊される運命にあった近衛師団司令部庁舎だが、1972重要文化財に決定されて工芸館として生まれ変わることになる。
展示室の設計をしたのは山種や出光の設計もした谷口吉郎だ、工芸館の中に「展示和室」があるが、彼の創案だという。
そればかりか谷口は美術館本館の三階にも和室を設けることを提案したが当時の美術館関係者の猛烈な反対にあって断念したという。
もし実現していたら近代美術館はどんな趣になっていたか興味をそそられる。
さて展示はこれまでの展覧会を回顧するという形で進められる。
それぞれの展覧会の代表作を所蔵品から二三点出すという形だ。
戦後工芸は落ちぶれて行ったが、1954の重要無形文化財の制度が工芸を回復させたことも知る。
富本憲吉といった有名どころでは1991の回顧展図録が資料もそろっていてその後の富本研究の基礎になったとか、しかしこの回顧展は一日当たり来客238人とあまりふるわない。
そして現代へと至るが何といっても吉田良という人の「すぐり」という作品は不気味だ。
若い女性をあらわしたようだが人毛にガラス義眼を使った生きているような作品だ。
小名木陽一という人の「赤い手袋」は人がその下をくぐれるほど巨大で何を意味したかったのかは不明。
「友禅 森口華弘の技」というビデオもやっており、なかなか楽しめた。
これで三百円は安いと思った。