だらだら日記goo編

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人が還るべき場所

2005-05-14 20:02:51 | アート・文化
その言葉は「雪物語」という一枚の絵にまことに目立たない形でかかれてあった。
ほとんどのお客さんは気づかずに通り過ぎただろう、僕も会場を一巡りして、もう一回見てやっと気づいたのだ。
バス停の標識が描かれている、その下のほうにその言葉は小さく書かれていた「亡き母へ」と。
この言葉に気づいたとき、何というかこの画家のすべてがわかったように思った。
画家の名前は中島潔、三越の展覧会だ。
テレビでもいろいろやっているようだが、例によって僕はテレビを見ないから全然知らない、「風の画家」といわれているらしい。
はじめのうちは童画というかなんと言うか幼い絵だと思った。
パリに行って苦労したというから、また苦節物語りの展覧会かと思った。
そうではないのだ、18歳で母を亡くしたこの人にとってすべての出発点が母親にあったのだ。
展示のはじめのほうでこんなことを中島は書いていた。

母さん私はあなたから風に流れた花びらです。
この丸い地球いずれあなたの元にたどり着き同じ花になりたい。
母は私の故郷です。

そうしてみると童画と見えたものは幼き頃の原風景なのだろう。
そしてこの画家は「秋桜の詩」とか「花かずら」とか、花が画面いっぱいに描かれその中に人が埋まっているような絵を最近描いている。
これも母なる大地、母なる自然の中に生きている人間を象徴しているように思えた。
人が還るべき場所というものがあるだろう、そしてそれは古今東西間違いなく母親であろう。
特攻隊で死んでいった若者もなぜか死ぬときは「お母さん」と叫んで死ぬと聞く。
間違いもなくどんな人にも母親は心のよりどころであり原点である。
この画家の絵にはしかし母親のぬくもりだけでは納まらない何かがあることも事実である。
人間の孤独を描いたような絵も展示されている。
けどやはり僕は言いたい。
この展覧会は名古屋、札幌、大阪と巡回する、ぜひ「亡き母へ」の文字を探してほしい。
忘れていたぬくもりを取り戻してほしい。