私の化石組標本(その17)
My set of fossil specimens, part 17
今回から新生代に入る。その前に化石コレクションを整理し直していたら、標本ラベルが数枚見つかったので、古生代・中生代部分のデータの訂正と追加をしておく。
標本番号8 アトリパ:産地が中国広西省とわかった。ラベルにある中国名は「巓石燕」らしいが最初の漢字が少し違うので確かではない。ただ、中国語のサイトにこの名が出てくるのと、巓の字の意味は「頂」のことらしいので、これでよさそう。
標本番号15 マクロスピリファー:種名の記入があってMucrospirifer mucronatus である。種名の命名者はConrad (1841)。産地は Lucas Co., Ohioで、地層はSilica Fm.となっている。
標本番号16 ゴニアタイト これを クラベノセラス に訂正:ゴニアタイトには違いないが属名が特定できた。産地はNevada 州Piocheである。CravenocerasはBisat = William Sawney Bisat (1886-1973) アメリカ= による1928年の命名。これによって、古生代標本の命名年の平均値が1876.6年となった(訂正前は1874.5年)。Bisatはアメリカのゴニアタイトに関する多くの研究のある人。
標本番号43 スクアリコラックス:産地がミシシッピ州と判明した。
50 標本49-52 scale: 5cm
Specimen 49-52: Lamna, Nummulites, silicified wood, Odontaspis
標本49 ラムナ Lamna モロッコ産 始新世 軟骨魚類
購入標本。ミネラルショーなどにいつも出店しているフランスの業者さんが、箱入りの500グラムの雑多なサメの歯を用意していた。これを3000円ぐらいで購入してさばくと、数種類のサメの他、エイの歯や棘、トカゲ類の骨、時には巻貝などが入っていて面白いものだったのだが、すぐに選別されたものの箱になってしまった。化石屋にはおもしろくない。しかし、博物館では入場者用のプレゼントなどに重宝した。なにせ3000円ぐらいで購入すると500個ほどのサメの歯が手に入るから、ラベルを付けて袋に入れても10円ちょっとの原価ですむから。
この標本はもう少しランクの高い箱に入っていたものを個人的に購入したもので、ほとんどを講座に来た子供たちにあげてしまったから、あまり残っていない。実はラムナかどうか自信がない。ラムナの特徴は、側咬頭が平たいことと、歯根の両側が平たく広がることであるが、たくさん見るとそうでもないのが連続してきて、見れば見るほど自信がなくなる。
Lamnaの命名は、有名なCuvier = Georges Cuvier (1769-1832) フランス = で、命名年は1816年。ギリシャ語のサメを意味する言葉に由来している。
標本50 貨幣石 Nummulites インドネシア・ボルネオ産 漸新世 原生動物
某大学の廃棄標本から了解を得て拾ってきたもの。原ラベルを伴っていて、次のような記入がされている。「Gen. Camerina : Sp. intermedia D’Arch. : Tc-d Tandjoeng. Masoekau II : Borneo No. 25: ××帝大 地質學教室」(:は改行を示す)Camerina属は1792年にBruguière = Jean Guillaume Bruguière (1750-1798) フランス = が命名した。語源はCamera = 部屋 で、内部が小室にわかれていることを現わす。ところがこの名は使用されることが少なく、後で命名されたNummulites (1801年Lamarckの命名)が広く使われていた。国際動物命名規約委員会は、1945年にこの事情を重視して、Camerinaを廃棄し、Nummulitesを有効名とした。命名規約では、先取権を重視するから、後で出てきた名称を有効名にするのは非常に稀だがその一つの例である。このラベルは「帝大」とあるから、この決定の前であり、適切な属名だ。Nummulitesの方は、Nummu- がコイン(貨幣)、lite は石であり、直訳した「貨幣石」がよく使われる。
二行目の種名 intermedia D’Arch. とある。Adolphe d’Archiac (1802-1868) はフランス人。多数の貨幣石種名を記載した。ネット検索では、N. intermediaを漸新世の産出としているのが多いのでいちおう漸新世に入れる。
三行目・四行目は地名ないし地層名。ボルネオ(カリマンタン)であるのは分るが、他はみあたらない。Tandjoengはマレー語で「岬」の意だから海岸線だろうし、第三紀層の海岸線での露出はボルネオ島の東部に多いので、インドネシア部分であろうと考えた。Masoekauという地名はみあたらなかった。Tc-dというのは、たぶんTが第三紀(Tertiary)で、a,b,と付けていったcからdにあたる地層、ということだろう。地質学では下から付けるのが普通。1930年代にこの大学にボルネオの地質・原油について調査していた人物が存在したので、その方の採集かもしれない。
標本は3個の貨幣石で、その一つに小さな個体が付着している。貨幣石などでは同一種で大きな個体となるフォーム(微球型)と、小さな個体(顕球型)とが存在する。たぶんそれだろう。この場合の「微」「顕」は、中心にある「初房」の大きさを言う。個体の大きさとは逆になるので注意。
標本51 珪化木 silicified wood 若松海岸産 漸新世 樹種不明
北九州市の海岸では、珪化木は珍しくない。たぶん、芦屋層群の下位にある大辻層から洗い出されたもので、大部分は針葉樹のものといわれる。天然記念物「夜宮の珪化木」や、「名島の檣(ほばしら)石」などについては、樹種の研究がされているが、他は種類について何も分らない。
標本52 オドンタスピス Odontaspis 藍島産 漸新世 軟骨魚類
いよいよ芦屋層群に入った。私の化石研究歴は、おおまかにいってデボン紀福地層群(三葉虫)、中新世瑞浪層群(おもに哺乳類)、漸新世芦屋層群(魚類をのぞく脊椎動物)、白亜紀関門層群(爬虫類)の四つが主である。ただ関門層群のものは、もと勤務先にすべて登録したから、組標本には出てこないし、他の地域でも研究対象以外の方がコレクションに入っているのは当然そうなる。
芦屋層群はサメの歯の化石を多産するが、地層が固いこともあって表面採集なので、一度に多数採集できないことになる。この標本は最近藍島で採集したもの。
51 渡船から見た藍島(2011年9月撮影)
Odontaspis はAgassiz = Jean Louis Rodolphe Agassiz (1807-1873) スイス→アメリカ = が1843年に命名。アガシの初出の論文は化石に関するものだが、Odontaspis属を化石のみを対象に作ったのではない。たとえば現生のsand tiger sharkを、Odontaspis taurus とした。Odontaspis属については、そのあと、Eugomphodusという属も関係して多くの意見が錯綜したらしく、taurusなど一部の種類はCarcharias属にもどされ、一部現生種はOdontaspis属に含められているようで、よくわからない。化石の研究ではOdontaspis属がよく使われることは確か。
自分で採集した標本について
標本51 珪化木
北九州市若松北海岸
標本52 オドンタスピス
My set of fossil specimens, part 17
今回から新生代に入る。その前に化石コレクションを整理し直していたら、標本ラベルが数枚見つかったので、古生代・中生代部分のデータの訂正と追加をしておく。
標本番号8 アトリパ:産地が中国広西省とわかった。ラベルにある中国名は「巓石燕」らしいが最初の漢字が少し違うので確かではない。ただ、中国語のサイトにこの名が出てくるのと、巓の字の意味は「頂」のことらしいので、これでよさそう。
標本番号15 マクロスピリファー:種名の記入があってMucrospirifer mucronatus である。種名の命名者はConrad (1841)。産地は Lucas Co., Ohioで、地層はSilica Fm.となっている。
標本番号16 ゴニアタイト これを クラベノセラス に訂正:ゴニアタイトには違いないが属名が特定できた。産地はNevada 州Piocheである。CravenocerasはBisat = William Sawney Bisat (1886-1973) アメリカ= による1928年の命名。これによって、古生代標本の命名年の平均値が1876.6年となった(訂正前は1874.5年)。Bisatはアメリカのゴニアタイトに関する多くの研究のある人。
標本番号43 スクアリコラックス:産地がミシシッピ州と判明した。
50 標本49-52 scale: 5cm
Specimen 49-52: Lamna, Nummulites, silicified wood, Odontaspis
標本49 ラムナ Lamna モロッコ産 始新世 軟骨魚類
購入標本。ミネラルショーなどにいつも出店しているフランスの業者さんが、箱入りの500グラムの雑多なサメの歯を用意していた。これを3000円ぐらいで購入してさばくと、数種類のサメの他、エイの歯や棘、トカゲ類の骨、時には巻貝などが入っていて面白いものだったのだが、すぐに選別されたものの箱になってしまった。化石屋にはおもしろくない。しかし、博物館では入場者用のプレゼントなどに重宝した。なにせ3000円ぐらいで購入すると500個ほどのサメの歯が手に入るから、ラベルを付けて袋に入れても10円ちょっとの原価ですむから。
この標本はもう少しランクの高い箱に入っていたものを個人的に購入したもので、ほとんどを講座に来た子供たちにあげてしまったから、あまり残っていない。実はラムナかどうか自信がない。ラムナの特徴は、側咬頭が平たいことと、歯根の両側が平たく広がることであるが、たくさん見るとそうでもないのが連続してきて、見れば見るほど自信がなくなる。
Lamnaの命名は、有名なCuvier = Georges Cuvier (1769-1832) フランス = で、命名年は1816年。ギリシャ語のサメを意味する言葉に由来している。
標本50 貨幣石 Nummulites インドネシア・ボルネオ産 漸新世 原生動物
某大学の廃棄標本から了解を得て拾ってきたもの。原ラベルを伴っていて、次のような記入がされている。「Gen. Camerina : Sp. intermedia D’Arch. : Tc-d Tandjoeng. Masoekau II : Borneo No. 25: ××帝大 地質學教室」(:は改行を示す)Camerina属は1792年にBruguière = Jean Guillaume Bruguière (1750-1798) フランス = が命名した。語源はCamera = 部屋 で、内部が小室にわかれていることを現わす。ところがこの名は使用されることが少なく、後で命名されたNummulites (1801年Lamarckの命名)が広く使われていた。国際動物命名規約委員会は、1945年にこの事情を重視して、Camerinaを廃棄し、Nummulitesを有効名とした。命名規約では、先取権を重視するから、後で出てきた名称を有効名にするのは非常に稀だがその一つの例である。このラベルは「帝大」とあるから、この決定の前であり、適切な属名だ。Nummulitesの方は、Nummu- がコイン(貨幣)、lite は石であり、直訳した「貨幣石」がよく使われる。
二行目の種名 intermedia D’Arch. とある。Adolphe d’Archiac (1802-1868) はフランス人。多数の貨幣石種名を記載した。ネット検索では、N. intermediaを漸新世の産出としているのが多いのでいちおう漸新世に入れる。
三行目・四行目は地名ないし地層名。ボルネオ(カリマンタン)であるのは分るが、他はみあたらない。Tandjoengはマレー語で「岬」の意だから海岸線だろうし、第三紀層の海岸線での露出はボルネオ島の東部に多いので、インドネシア部分であろうと考えた。Masoekauという地名はみあたらなかった。Tc-dというのは、たぶんTが第三紀(Tertiary)で、a,b,と付けていったcからdにあたる地層、ということだろう。地質学では下から付けるのが普通。1930年代にこの大学にボルネオの地質・原油について調査していた人物が存在したので、その方の採集かもしれない。
標本は3個の貨幣石で、その一つに小さな個体が付着している。貨幣石などでは同一種で大きな個体となるフォーム(微球型)と、小さな個体(顕球型)とが存在する。たぶんそれだろう。この場合の「微」「顕」は、中心にある「初房」の大きさを言う。個体の大きさとは逆になるので注意。
標本51 珪化木 silicified wood 若松海岸産 漸新世 樹種不明
北九州市の海岸では、珪化木は珍しくない。たぶん、芦屋層群の下位にある大辻層から洗い出されたもので、大部分は針葉樹のものといわれる。天然記念物「夜宮の珪化木」や、「名島の檣(ほばしら)石」などについては、樹種の研究がされているが、他は種類について何も分らない。
標本52 オドンタスピス Odontaspis 藍島産 漸新世 軟骨魚類
いよいよ芦屋層群に入った。私の化石研究歴は、おおまかにいってデボン紀福地層群(三葉虫)、中新世瑞浪層群(おもに哺乳類)、漸新世芦屋層群(魚類をのぞく脊椎動物)、白亜紀関門層群(爬虫類)の四つが主である。ただ関門層群のものは、もと勤務先にすべて登録したから、組標本には出てこないし、他の地域でも研究対象以外の方がコレクションに入っているのは当然そうなる。
芦屋層群はサメの歯の化石を多産するが、地層が固いこともあって表面採集なので、一度に多数採集できないことになる。この標本は最近藍島で採集したもの。
51 渡船から見た藍島(2011年9月撮影)
Odontaspis はAgassiz = Jean Louis Rodolphe Agassiz (1807-1873) スイス→アメリカ = が1843年に命名。アガシの初出の論文は化石に関するものだが、Odontaspis属を化石のみを対象に作ったのではない。たとえば現生のsand tiger sharkを、Odontaspis taurus とした。Odontaspis属については、そのあと、Eugomphodusという属も関係して多くの意見が錯綜したらしく、taurusなど一部の種類はCarcharias属にもどされ、一部現生種はOdontaspis属に含められているようで、よくわからない。化石の研究ではOdontaspis属がよく使われることは確か。
自分で採集した標本について
標本51 珪化木
北九州市若松北海岸
標本52 オドンタスピス
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます