OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

私の化石組標本(その18)

2013年11月25日 | 鉱物・化石組標本
私の化石組標本(その18)
My set of fossil specimens, part 18

新生代の二回目。


52 標本53-56  scale: 5cm
Specimen 53-56: Negaprion, Glycymeris, Turritella, plotopterid

標本53 レモンザメの一種 Negaprion 馬島産 漸新世 軟骨魚類
芦屋層群に産するサメの内、最も数が多いのがこの種類。鋸歯のないのが特徴。この標本は馬島の北岸でみつけたもので、そのあたりから出てくる脊椎動物化石は、砂岩の固結が弱いので、クリーニングがしやすく、時に大変細かい所まで剖出できるので、好きな場所の一つ。でも最近は少なくなった。私が採り尽くしたのかな。


53 サメの歯を産する馬島北岸(2011年4月撮影)

54 発見した時のようす(2011年4月撮影)

Negaprionは Whiteley = Gilbert Percy Whitley 既出=、1940年の命名。現生のlemon shark =Negaprion brevirostris (Poey) の属名。Lemon shark は大西洋の西岸とアフリカ、メキシコからエクアドルあたりの太平洋岸に生息する。化石種では、Negaprion eurybathrodon が知られる。始新世(アメリカとパキスタン)中新世(コスタリカ・イタリア・サウジアラビア・ベネズエラ)からの報告がある。現生の種類は日本の八重山諸島などに生息するが、比較的最近になって生息することが確かめられた。なお、レモンの名は、背側が黄色味を帯びることから。
 Negaprionの語源はネットでは出てこない。Prionはギリシャ語で「のこぎり」の意味だから、この鮫の歯の縁に鋸歯がないことを言っているのだろうか? でも否定接頭語にNegaなんてつけるかな?。

標本54 グリキメリス Glycymeris 藍島産 漸新世 軟体動物・二枚貝類
藍島で化石層をつくっているグリキメリスは、馬島の大部分のものとはサイズが違っている。馬島の種類G. cisshuensis Makiyama1926ならとてもこの組標本の小部屋には入りきらない。藍島の種類はG. nagaoi Matsukuma 1979なのだそうで、サイズと外形に違いがある。通常砂岩との分離が悪いのでなかなかいい標本が得られないが、海中にながくあった転石が打ち上げられた時などにうまく分離するものがある。この標本もそうしたものの一つで、藍島の西岸で採集した。


55 藍島のグリキメリス化石層(標本とは別の場所)(2013年3月撮影)

 グリキメリス属解説はすでに中生代に出てきたので、ここでは省略。なお、G. cisshuensis の語源は現・北朝鮮の吉州であるから、和名は「キッシュウタマキガイ」がよい。ネットでは「シシュウタマキガイ」とか「キッシュタマキガイ」が出てくるが、不適当。G. nagaoi の方は北九州の古第三紀層の層位学的研究をまとめられた北海道帝国大学長尾巧教授(1891-1943)の名である。

標本55 キリガイダマシ Turritella 藍島産 漸新世 軟体動物・巻貝類
この種類も、芦屋層群の代表的なもの。「アシヤキリガイダマシ」とか「インフラリラータ・キリガイダマシ」と呼ばれる。砂岩中にも泥岩中にも散在的に産するが、藍島には、これの密集した化石層がある。そのやや上位の地層で分離が良いところがあって、標本を採集するのだが、なかなかいいのが見付からない。むしろ、港から反時計回りに少し行った岩棚のノジュールの中のものが保存がいいので、この組標本もそれに代えたい。いい標本が採れたら考えよう。
 Turritella の命名は1799年Lamarck = Jean Baptiste Lamarck 既出= による。英語の「turret」が装飾的な建物の小塔を意味するらしい。ラテン語ではこれをturres というのでこれが語源。でも、現在turretと言えば、軍艦、戦闘機の銃座、砲塔、とくに使われるのが戦車の回転砲塔のことである。平和な古生物学にもそんなものに関連する語が出てくる。
 種類は前に書いたようにTurritella infralirata Nagao である。螺管の筋が多いことが語源だろう。


56 現生キリガイダマシ:フィリピン産? Scale 5cm

標本56 ペンギンモドキ plotopterid 藍島産 漸新世 鳥類
北部九州の漸新世地層に特徴的に産するペンギンモドキは鳥類化石として日本でも最重要な種類。潜水性の飛べない海鳥である。標本は百個以上が知られ、いくつかの骨が関節状態で保存されている標本から研究に着手された。すでに三種類が記載されているが、他に十種類くらいがあるだろうと言われている。北部九州・山口以外では、岐阜県・福島県・北海道から産出の報告があるが、これらも同一種ではないようなのでさらに種数が多い。現在は頭骨に研究の重点が置かれている。今後四肢骨の検討に進むころには、何種かの新種が設定されるだろう。脊椎骨、ゆびの骨はさらに検討が遅れるだろうし、肋骨に至っては数えるほどしか既知の標本がない。
 この標本は、小型のプロトプテルム類の足のゆびの骨。これらの部分の研究ができるようになるには、何年かかかりそう。でも、博物館にあるべき標本なので、まもなくレプリカに置き換え、実物は寄贈しよう。
 プロトプテルム Plotopterum はアメリカ・カリフォルニア州で発見された標本に対してつけられた属名。命名は1969年、Howard = Hildegarde Howard (1901-1998) アメリカ・女性)= で、Plotoは「泳ぐ」、pterumは「翼」という意味。今から見るとカケラみたいな小さな骨一個で、この鳥の生態まで見通したのには驚きであり、大いなる敬意を覚える。日本のものは別属であるが同一のプロトプテルム科に属するということで、まとめてプロトプテルム類としている。プロトプテルム科には数属が含まれ、アメリカ西岸と日本に産出が知られる。ウなどとともにペリカン目に含められているが、最近脳の形にペンギンとの類似が指摘されている。

自分で採集した標本について
標本53 レモンザメの一種
  北九州市小倉北区馬島
標本54 グリキメリス 標本55 キリガイダマシ 標本56 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿