写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

三五夜(さんごや)

2014年09月09日 | 季節・自然・植物

 昨日8日は旧暦の8月15日・中秋であったが、あいにく満月ではなく、今年は9日が満月だという。とはいえ、はっきりくっきりと中秋の名月を愛でることはできた。

 満月の夜、すなわち十五夜のことを「三五夜」と呼ぶことを新聞の記事で知った。その根拠が面白い。算数で覚えた九九の3×5=15からそう呼ぶ。この用法は万葉集などにもみられるという。そんな昔から九九はあったのか。ちょっと興味を持って九九の歴史を調べてみた。

 
「九九」の歴史は古く、中国の春秋時代(紀元前770年から紀元前403年)にまでさかのぼる。春秋五覇の一番目、斉の桓公 が人材を求めた時に、「九九」を暗記しているという特技で採用された者がいたという記事が残っている。当時「九九」という言い方は、「九九、八十一」から始まる形式だったことに由来する。現在のように「一一、一」から始まるようになるのは、5世紀頃といわれている。

 日本では平安朝の天禄元年(西暦 970年)に書かれた「口遊(くちずさみ)」という貴族の子弟の教科書に載っている。ここでも九九から始まっている。日本には言葉遊びがあり、数字を九九で表現することが昔から行われている。

 万葉集には、九九を洒落て表現している歌がいくつかある。「十六」と書いて「しし」、「八十一」と書いて「くく」、「ニニ」と書いて「し」と読ませている。ニ六時中という言葉は、昔は1時(とき)が2時間だったので2×6=12 が一日をあらわし、現在では四六時中忙しいとは1日中忙しいことをいうようになった。

 江戸時代には、ニ八そばというのがあったが、諸説ある中で16 文だったことに由来すると言うのが有力だという。このように、遥か昔から九九を使って十五日の月、つまり満月を三五の月と表現し、十五夜を三五夜と呼んだことはうなづける話である。

 さて今宵は四四夜ならぬ十六夜、とはいいながら正真正銘の満月。それもなになに? 月が地球の近くを通る時と重なって通常より大きく明るく見える「スーパームーン」だって? こんな秋の夜にゃあ、「酒はしづかに飲むべかりけれ」なんて、デッキに座り月を仰ぎながら一人静かに飲んでなんかいられない、九九、八十一、いや違った八九、七十二という九九も終わりに近い歳の夜である。